2017年9月15日金曜日

3回とも問題が多かった日経1面「働き方改革 さびつくルール」

14日の日本経済新聞朝刊1面に載った「働き方改革 さびつくルール(下)悩めるフリーランス 個の力 生かす仕組みを」に関して、さらに問題点を指摘していく。まずは冒頭に出てくる「サイボウズ」の事例を見てみよう。
豪雨被害を受けた福岡県朝倉市 ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

当社で副業しませんか」。1月、他社に本業をもちつつ副業先として働く人の募集を始めた企業向けソフト会社のサイボウズ。数人を受け入れる過程で、担当者を悩ませる問題も浮上した。

 希望者が正社員になるか契約社員になるかなどは当人の希望も含めて相談で決める。一部の応募者は社員ではなく業務委託契約を希望したが、募集は業務開発や広報など幅広く、仕事の指示が必要な場合もある。指揮命令ととられると、業務委託契約から逸脱しかねない。「新しい働き方に合った法的枠組みがあればよいのだが」(政策渉外担当の石渡清太氏)

日本の労働法制は企業で正社員として終身雇用されることを前提に、働く人を保護してきた。自由な立場で働きたい人の増加に、既存の制度はうまくかみ合っていない。

◇   ◇   ◇

疑問点を列挙してみる。

(1)副業は「新しい働き方」?

副業で収入を得る人は昔からいる。「新しい働き方」とは言えないような…。


(2)「悩めるフリーランス」になってる?

サイボウズの事例では「他社に本業をもちつつ副業先として働く人」の問題を取り上げている。これは「悩めるフリーランス」なのか。「フリーランサー」とは「一定の会社・組織に属していない自由契約のジャーナリスト・作家や俳優など」(大辞林)だ。「他社に本業」を持っているのならば「フリーランス」には当たらない気がする。
豪雨被害を受けたJR日田彦山線(福岡県東峰村)
         ※写真と本文は無関係です

百歩譲って「フリーランス」だとしても、悩んでいる感じはしない。悩んでいるのはサイボウズの「担当者」の方だ。「一部の応募者は社員ではなく業務委託契約を希望した」と言うが、こうした「応募者」が悩んでいる様子は記事から見えてこない。

常識的に考えれば「業務委託契約」を選べないからと言って「一部の応募者」に大きな不利益が生じる可能性は低い。「違う」と言うならば、「応募者」に生じる大きな不利益に具体的に触れてほしかった。


(2)「副業」と関係ある?

サイボウズの事例は「業務委託契約」を結んだ相手に「指揮命令」ができるかどうかの問題で、「副業」とは関係ない。「本業」であっても同様の問題は生じる。「副業」ゆえに起きる事態のように描写すると読者に誤解を与えかねない。


(3)「法的枠組み」はない?

筑後大石駅(福岡県うきは市)
     ※写真と本文は無関係です
新しい働き方に合った法的枠組み」がないとの前提でサイボウズ担当者が語っているのも引っかかる。企業の「指揮命令」下で仕事をするならば労働者として保護の対象になるし、「業務委託契約」を結ぶならば「指揮命令」とは切り離すべきだとの「法的枠組み」はできているのではないか。「枠組み」がサイボウズの好みと合わないのは分かるが、「法的枠組み」がないとは思えない。


(4)偽装請負を合法化すべき?

サイボウズが求める「新しい働き方に合った法的枠組み」とは、偽装請負の合法化だろう。雇う側にとって偽装請負の合法化に旨みがあるのは分かる。自社の従業員のように働かせながら、労働関係の規制から逃れられるからだ。

今回の記事では最後に「瀬川奈都子、横田祐介、島本雄太、田村匠が担当しました」と出ていた。取材班では「業務委託契約を結べば、その契約者を従業員と同様に働かせても労働関係の規制を免れられる」という仕組みを好ましいと感じているのだろうか。実現すれば労働者の保護はかなり形骸化する。

そんな仕組みを「新しい働き方に合った法的枠組み」と取材班が本気で考えているのならば、ちょっと怖い。「どこまで企業寄りなの?」と聞きたくなる。

また、「日本の労働法制は企業で正社員として終身雇用されることを前提に、働く人を保護してきた」という説明は間違いだと思える。これに関しては以下の投稿を参照してほしい。

労働法制は正社員が前提? 日経「働き方改革 さびつくルール」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_14.html


さらに記事への指摘を続ける。次は「ウーバーイーツ」の話だ。

【日経の記事】

「当社の配達員は個人事業主です。損害保険はご自身で見つけてお入りください」。米ウーバーテクノロジーズの料理配送サービス、ウーバーイーツの配達員になった尾崎浩二さん(39)は昨年11月、東京都内の同社相談所でこう告げられた。

配達で人をひいてしまったら大変だ」。何社も保険会社を回ったが、個人事業主の業務に使える保険を自力で見つけるのに3カ月かかった。苦労の経験から尾崎さんは今年7月、配達員を支援する会社を自らの手で立ち上げることにした。200人以上の配達員を束ね、「団体で保険に加入できる仕組みを作ったり機動力を生かした仕事を融通したりしたい」。

自由に働きたい個人が企業と契約しようとすると立場は弱くなりがち。公正取引委員会は8月、既存の労働法制では守れないフリーランスを独占禁止法で守る研究会を設けたが、結論を得るまで時間がかかりそうだ。


◎「3カ月」かかる方が不思議のような…

上記の事例は理解に苦しむ。「配達で人をひいてしまったら大変だ」と考えて、それに保険で備えたいのならば、任意の自動車保険に加入すれば済む。インターネットでの保険料比較もそんなに難しくない。「何社も保険会社を回ったが、個人事業主の業務に使える保険を自力で見つけるのに3カ月かかった」という話に嘘はないのだろうが、必要以上に時間と労力をかけていると思える。

振り返ると、今回の連載は3回とも問題が多かった。現行ルールが大してさび付いていないのに「さびつくルール」という線で話を作ろうとしたのが失敗の元だった気がする。その意味では、最初から失敗が約束されていたのだろう。


※今回取り上げた記事「働き方改革 さびつくルール(下)悩めるフリーランス 個の力 生かす仕組みを
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170914&ng=DGKKZO21104830U7A910C1MM8000


※連載全体の評価はD(問題あり)。連載の責任者を瀬川奈都子編集委員だと推定し、暫定C(平均的)としていた瀬川編集委員への評価を暫定Dに引き下げる。


※今回の連載に関しては以下の投稿も参照してほしい。

結論が逆では? 日経1面「働き方改革 さびつくルール」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_12.html

強引に「落とし穴」を見出す日経「働き方改革 さびつくルール」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_89.html

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