2017年9月1日金曜日

W杯最終予選の解説記事で日経 武智幸徳編集委員に注文

サッカーのワールドカップ(W杯)アジア最終予選で日本がオーストラリアに快勝した。これを受けた1日の日本経済新聞朝刊スポーツ2面に武智幸徳編集委員が「ハリルJ、新布陣が突破口開く 世代交代の加速急務」という解説記事を書いている。この内容にいくつか疑問が残った。
豪雨被害を受けた福岡県朝倉市 ※写真と本文は無関係です

まずは最初の方を見ていこう。

【日経の記事】

試合数が違い、単純な比較はできないが、今予選の1試合を残してのW杯出場決定は特別遅かったわけではない

前回のブラジル大会(ザッケローニ監督)は最終予選8試合中7試合目のオーストラリア戦に引き分けて決まった。前々回の南アフリカ大会(岡田武史監督)は8試合中6試合目に、さらにその前のドイツ大会(ジーコ監督)は6試合中5試合目の決定だった。

それが今回、いつにも増して危機感が募ったのは、過去3大会の最終予選がドイツ大会はイランと日本、南ア大会、ブラジル大会はオーストラリアと日本の2チームで2つの椅子を争う構図が早々に見えたからだ。今回は日本とオーストラリアとサウジアラビアの三つどもえになり、最後までハラハラドキドキが続くことになった



◎「最後までハラハラドキドキ」?

読者に誤解を与える可能性はほぼないが「最後までハラハラドキドキが続くことになった」との説明はおかしい。「今予選の1試合を残してのW杯出場決定」となったので、サウジアラビアとの最終戦を前に「ハラハラドキドキ」は終わっている。
豪雨で橋が流されたJR久大本線(大分県日田市)
        ※写真と本文は無関係です

今予選の1試合を残してのW杯出場決定は特別遅かったわけではない」と言えるかどうかも微妙だ。武智編集委員は過去3大会の最終予選と比較している。

ロシア大会10試合中9試合目

・ブラジル大会=8試合中7試合目

・南アフリカ大会=8試合中6試合目

・ドイツ大会=6試合中5試合目


特別」をどう見るか次第ではあるが、今回は過去3大会と比べて「W杯出場決定が特別遅かった」と言えなくもない。

さらに問題を感じたのが記事の中盤だ。

【日経の記事】

それはW杯出場常連の韓国が苦戦しているA組も同様だった。本命の韓国、イランの間にウズベキスタンが割って入り、レースは混沌とした。

日韓豪の苦戦は海外組が多く、代表強化に準備期間がまともに取れないという点が共通するように思われる。サウジをはじめとする中東勢は国内リーグに主力選手がいて、代表をチームとして強化する“自国ファースト”の道を歩む。日本などは欧州の先進リーグに選手を送り、個を伸ばすことが最終的に代表にも還元されると考える。

今のところ、予選の戦いは後者の勢力が優勢だが、両者の差が詰まっているのは確かだろう。


◎中東勢は“自国ファースト”?

サウジをはじめとする中東勢は国内リーグに主力選手がいて、代表をチームとして強化する“自国ファースト”の道を歩む」との解説は正確さに欠けるのではないか。例えばイラン代表には10人以上の海外組がいるらしい。記事の書き方だと最終予選に残った「中東勢」は例外なく「“自国ファースト”」だと取れる。
豪雨で被害を受けた福岡県東峰村 ※写真と本文は無関係です

ちなみに「ウズベキスタン」も「“自国ファースト”」ではないようだ。だとすると「本命の韓国、イランの間にウズベキスタンが割って入り、レースは混沌とした」A組に関して、韓国の苦戦を「海外組が多く、代表強化に準備期間がまともに取れないという点」に求めても、あまり説得力がない。

ついでに言うと「予選の戦いは後者の勢力が優勢」という部分の「後者」が分かりにくい。「日韓豪」の後に「中東勢」が出てきて、さらに「日本など」と話が戻ってくる。最初に読んだ時は「後者中東勢」と思ってしまったが、おそらく「後者日韓豪」だ。

さて、記事の終盤も見ていこう。やはりツッコミは入れたくなる。

【日経の記事】

そういう大枠の構造問題に加え、日本は代表の新旧交代期が今予選ともろにぶつかった。長らくチームを支えてきた本田(パチューカ)ら北京五輪世代が下降期に入り、大迫(ケルン)、清武(C大阪)、原口(ヘルタ)らロンドン五輪世代、久保(ヘント)らリオデジャネイロ五輪世代がチームを上昇気流に乗せるまでの間、タイムラグが存在した。その間のもたつき、小さなミスが勝ち点を思うように伸ばせなかった一因だ。

最終予選初戦でアラブ首長国連邦(UAE)によもやの敗北を喫した日本の苦境を切り裂いたのは、第2戦のタイ戦からの原口の4戦連続ゴールであり、正念場のアウェーのUAE戦でたたき込んだ久保の先制ゴールだった。W杯出場を決めた試合でもリオ五輪組の浅野、井手口が躍動。国際試合の経験不足からくる波はまだあるが、来年の本大会に向けた世代交代はさらに加速させる必要がある


◎世代交代を「さらに加速させる必要がある」?

世代交代の加速急務」と見出しでも打ち出しているが、「来年の本大会に向けた世代交代はさらに加速させる必要がある」と最後に書いているだけで、その根拠は見当たらない。オーストラリア戦では川島、長友、吉田、長谷部といったベテラン勢が先発し、勝利に貢献している。

世代交代はさらに加速させる必要がある」のだから、彼らを外して若い世代で本大会を戦うべきだと武智編集委員は考えているのだろう。それを否定するつもりはない。ただ、現状程度の「世代交代」ではなぜダメなのかは触れてほしかった。


※今回取り上げた記事「ハリルJ、新布陣が突破口開く 世代交代の加速急務
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170901&ng=DGKKASDH31H1H_R30C17A8UU2000

※記事の評価はD(問題あり)。武智幸徳編集委員への評価もDを据え置く。

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