2017年9月13日水曜日

マイナス金利の深掘りを「再導入」と称する 週刊エコノミスト

週刊エコノミスト9月19日号の特集「異次元緩和の賞味期限」は全体としては悪くなかったが、その中の「マイナス金利再来リスク」という記事は色々と引っかかる所があった。署名欄は「編集部」となっていたので、特集を担当した後藤逸郎様記者と花谷美枝記者に以下の問い合わせを送ってみた。
豪雨被害を受けた福岡県朝倉市※ 写真と本文は無関係です

【エコノミストへの問い合わせ】

週刊エコノミスト編集部 後藤逸郎様 花谷美枝様

御誌を定期購読している鹿毛と申します。9月19日号の特集「異次元緩和の賞味期限」の中の「マイナス金利再来リスク」という記事についてお尋ねします。

まず、冒頭の「量的緩和の持続性が乏しくなれば、日銀が再びマイナス金利を導入する可能性が高まる」という記述です。ここからは「マイナス金利は一度導入されたが、現在は解除されている」と読み取れます。しかし、マイナス金利政策は2016年に導入された後、解除されず現在に至っています。記事には「日銀は対抗上、マイナス金利の深掘りも選択肢に入れざるを得なくなっている」との記述もあるので「再びマイナス金利を導入」とは「マイナス金利の深掘り」を指すのでしょう。しかし、当然ながら「深掘り」はマイナス金利の再導入には当たりません。記事の冒頭の説明は誤りではありませんか。控え目に言っても「不正確な説明」だと思えます。

次は「16年2月のマイナス金利はエコノミストから評価されたものの~」という部分です。クレディ・スイス証券チーフ・エコノミストの白川浩道氏は御誌の16年4月5日号に「マイナス金利の副作用 イールドカーブのフラット化で金融機関の資金利益が悪化」とのタイトルで寄稿し、「少し長い目でみれば、マイナス金利政策が国内銀行貸し出しに縮小圧力をもたらすという事態は避けられない」などと厳しい評価を与えています。

16年2月16日号の記事では、ニッセイ基礎研究所チーフエコノミストの矢嶋康次氏が「異次元緩和の総括なき、政策変更と批判されても仕方ない」「効果は限定的だろう」などと否定的な見解を示しています。もちろん前向きに評価するエコノミストもいたのでしょうが、単純に「16年2月のマイナス金利はエコノミストから評価された」と言い切ってしまうのは誤りではありませんか。

せっかくの機会なので、さらにいくつか私見を述べさせていただきます。

記事では「2度目のマイナス金利となれば、体力の弱い金融機関が口座手数料などの形で預金者に負担を転嫁する可能性が高まる」と書いていますが、逆ではありませんか。一般的に体力の弱い金融機関ほど、高い金利で預金を集める傾向にあります。「体力の弱い金融機関」が率先して預金者に実質的なマイナス金利を課した場合、大幅な預金流出を招き経営不安が一気に広がりかねません。一般的には、そんな危ない選択は避けるはずです。

預金金利がほぼゼロ%となって金利収入を事実上断たれてきた預金者を、文字通りのマイナス金利が直撃すれば、インフレ期待は消し飛んでしまう」との見方にも同意できません。日銀の「生活意識に関するアンケート調査」によると、1年後の物価上昇予想に関する中央値は2.0%です。なので日本国民は2%程度のインフレ期待を有しているとしましょう。一部の銀行が預金にわずかな口座手数料を課した程度で、この予想が一気に0%以下へと落ち込むでしょうか。常識的には考えられません。

そもそもマイナス金利の深掘りは金融緩和策なので、原則としては期待インフレ率を高めるはずです。実際には期待インフレ率を高めず、むしろマイナスに働く場合もあるでしょうが、「インフレ期待は消し飛んでしまう」と断定するのは無理があります。

記事に関する問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、回答をお願いします。金山隆一編集長の方針なのだとは思いますが、御誌では読者からの間違い指摘を無視する対応が続いています。今号の「編集部からFrom Editors」では「週刊エコノミスト編集部で8月下旬からインターンシップとして2週間お世話になった」という本多彩さんが、その体験を振り返っています。「2週間一緒に働かせて頂いた皆さんは、とてもカッコよく私の目には映った」そうです。そんな本多さんに「読者からの間違い指摘に対し、自分たちはメディアとして責任ある対応を続けている」と胸を張って言えますか。その点をもう一度よく考えてみてください。

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※今回取り上げた記事「マイナス金利再来リスク

※記事の評価はD(問題あり)。筆者を特定できないので、書き手への評価は見送る。

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