2017年9月25日月曜日

日経「上がらない物価 世界を覆う謎」の奇妙な解説

24日の日本経済新聞朝刊総合2面に載った「上がらない物価 世界を覆う『謎』 原油安や供給過剰が原因? 金融政策に難題」という記事は無理のある奇妙な説明が目立った。着眼点は悪くないが、筆者(今堀祥和記者と高見浩輔記者)の分析力に難があるのだろう。
豪雨被害を受けた宝珠山駅(福岡県東峰村)
         ※写真と本文は無関係です

まず、最初の「奇妙な説明」を見ていこう。

【日経の記事】

国際決済銀行(BIS)のまとめでは、6月の物価上昇率が1%に満たない国は15カ国に上る。アイルランドなど4カ国はマイナス圏をさまよう。成長期待の高いインドでも6月の物価上昇率が1.5%と8年ぶりの低水準。国際通貨基金(IMF)は2017年の新興国の平均物価上昇率が4.6%となり、先進国との差が過去最小に縮むと予想している。

低インフレの理由として考えられるのはまず原油安だ。WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)は14年半ばの1バレル100ドルから下落し、最近は50ドル程度で推移。このあおりで16年6月までは4%台だったサウジアラビアの物価上昇率は17年1月に大きく下がり、今もマイナス圏にある。



◎時期がズレ過ぎでは?

記事に付けたグラフを見ると、2016年の初めまで下落基調だった原油相場はその後に上昇へ転じ、16年の半ばからはほぼ横ばい圏だ。「16年6月までは4%台だったサウジアラビアの物価上昇率」が「17年1月に大きく下がり、今もマイナス圏にある」理由にするには時期がズレ過ぎている。何らかの理由で大きな時間的ズレが生じる構造になっているのならば、その点を解説すべきだ。

次の「奇妙な説明」に移ろう。

【日経の記事】

供給力の問題もある。経済発展に伴って中国などの「世界の工場」である新興国では生産拠点が急拡大し、巨大な供給力が生まれた。一方でリーマン危機前には7~8%台あった新興・途上国の成長率は5%弱に減速しており、結果として大きな供給力に見合うだけの需要がない「供給過剰」の状態になっている。

経済協力開発機構(OECD)の統計では、需給ギャップはメキシコでマイナス2.5%、トルコでマイナス4.5%と大きい。需給ギャップは実際の国内総生産(GDP)と、民間設備と労働力を使って生み出せる潜在GDPとの差だ。一部の国ではなお需要不足で物価が下がりやすい状態だ


◎メキシコやトルコも低インフレ?

上記のくだりを読むと、需給ギャップのマイナスが大きいメキシコやトルコは、低インフレの新興国の代表格だと感じる。実際は違うのではないか。「メキシコ、物価上昇16年ぶり高水準 8月6.66%」という8日付の日経の記事には以下の記述がある。
比良松中学校(福岡県朝倉市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

1月に政府がガソリン価格を引き上げたほか、トランプ米政権発足前後に通貨ペソが米ドルに対し急速に弱含んだことをきっかけに物価上昇が続いている。メキシコ銀行(中央銀行)のカルステンス総裁は当面6%台の上昇率が続くとしながらも、18年後半には目標である3%台に落ち着くとの見方を示している。

◇   ◇   ◇

物価上昇16年ぶり高水準」で、インフレ率6%台のメキシコを「低インフレ」と見なすのは困難だ。メキシコは需要不足なのかもしれないが、それが「物価が下がりやすい状態」を招いているとは考えにくい。トルコも最近の物価上昇率は10%前後と高いようだ。記事の説明は成立していないと言うほかない。


※今回取り上げた記事「上がらない物価 世界を覆う『謎』 原油安や供給過剰が原因? 金融政策に難題
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170924&ng=DGKKZO21470280T20C17A9EA2000


※記事の評価はD(問題あり)。今堀祥和記者への評価は暫定でDとする。暫定でDとしていた高見浩輔記者への評価はDで確定とする。


※高見浩輔記者については以下の投稿も参照してほしい。

「損保市場は長らく鎖国状態」? 日経「真相深層」の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/10/blog-post_13.html

説明不足が目立つ日経 高見浩輔記者の「真相深層」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/10/blog-post_15.html

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