2017年9月5日火曜日

「懸念」の必要なし 日経社説「小売り値下げに2つの懸念」

4日の日本経済新聞朝刊総合・政治面に載った「小売り値下げに2つの懸念」という社説はあまり意味のない中身だった。「2つの懸念」が気になって読んでしまったが、「懸念」すべき状況にあるとは思えなかった。まずは最初の「懸念」から見ていこう。
九州北部豪雨後の筑前岩屋駅(福岡県東峰村)
          ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

大手小売り各社が安売り志向を強めている。イオン、セブン&アイ・ホールディングス、西友は食品や日用品を相次ぎ値下げした。専門店チェーンでもイケア・ジャパンや良品計画が家具や衣料品の価格を引き下げている。

ユニー・ファミリーマートホールディングスがドンキホーテホールディングスと資本提携し、不振のスーパーをディスカウントストアに衣替えすると決めたのも、こうした流れと無縁ではない。

消費者の節約志向が理由だという。ネット通販に対抗する狙いもあろう。しかし安売り頼みの小売り経営には2つの懸念がある

第1は値下げの原資だ。家具のニトリホールディングスや大手100円ショップ各社は、商品調達先の育成や物流自動化などの努力を重ね価格競争力を築いた。今の値下げ合戦はビジネスモデルの改革を伴っているか。従業員や納入先に過剰な負担を与える値下げだとしたら、長続きしない


◎あやふやな前提に基づく「懸念」では…

社説では「従業員や納入先に過剰な負担を与える値下げだとしたら、長続きしない」と訴えるものの、今回の動きが「従業員や納入先に過剰な負担を与える値下げ」に当たるかどうかは教えてくれない。あやふやな前提に基づいて「懸念がある」と言われても困る。それに、「長続きしない」のならば「懸念」する必要もあまりなさそうだ。
豪雨被害を受けた福岡県朝倉市 ※写真と本文は無関係です

2番目の「懸念」も納得できなかった。

【日経の記事】

第2は値下げする対象だ。一般的な普及品の値下げが目立つが、チェーンストアの原点は「良いものをより安く」にある。欲しいが高くて手が出ないものを工夫で値下げしてこそ、消費者の満足度が高まり需要喚起につながる。

米ネット通販大手アマゾン・ドット・コムは買収した高級スーパー、ホールフーズ・マーケットの商品を大幅に値下げした。有機野菜や産直の肉などのぜいたく品を手の届く価格で提供し、健康志向の中間層に歓迎されている。


◎「良いもの=高級品」?

チェーンストアの原点」が「良いものをより安く」かどうか知らないが、仮にそうだとしよう。だが「良いもの高級品」ではないはずだ。「一般的な普及品の値下げ」が「良いものをより安く」に反しているとは言えない。例えばビール類の値下げは「一般的な普及品の値下げ」でもあり、同時に「良いものをより安く」する動きにもなり得る(「良いもの」かどうかの判断は難しいが…)。

また、「欲しいが高くて手が出ないものを工夫で値下げしてこそ、消費者の満足度が高まり需要喚起につながる」という認識も誤りだ。牛丼やハンバーガーは「欲しいが高くて手が出ないもの」ではないが、過去に大幅値下げで「需要喚起」に成功している。「一般的な普及品」であっても、値下げによる「需要喚起」は期待できる。改めて説明するまでもない当たり前の話だ。


※今回取り上げた社説「小売り値下げに2つの懸念
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170904&ng=DGKKZO20711550U7A900C1PE8000


※社説の評価はD(問題あり)。この社説に関しては以下の投稿も参照してほしい。

小売り値下げで「納入先」に過剰な負担? 日経社説の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_4.html

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