旗艦店、思わぬ不振 高コスト体質、減収で表面化」という記事の出来は、日経の中では悪い方ではない。だが、分析には甘さが目立つ。記事を見ながら、何が足りないのか探っていこう。
【日経の記事】
久留米市役所(福岡県久留米市) ※写真と本文は無関係です |
上場企業の2016年4~9月期決算は4年ぶりの最終減益となった。円高や新興国景気の減速、消費低迷など逆風が吹いたが、戦略ミスも見逃せない。業績が急速に悪化した企業は何を誤ったのか検証する。
「他社より弱い決算になって申し訳ない」。8日、アナリスト向け決算説明会で三越伊勢丹ホールディングスの大西洋社長は力なく語った。16年4~9月期の連結営業利益は61億円と前年同期比58%減。減益率は高島屋(2~8月期で0.3%減)、J・フロントリテイリング(同12%減)に比べ突出して大きい。
要因の一つは売上高の落ち込みだ。三越伊勢丹の売上高は5821億円と5%減った。高島屋は1%減と小幅。Jフロントは6%減ったが、旗艦店を改装している影響が大きい。実質的には三越伊勢丹が最も苦戦した。
免税売上高が前期で600億円と他社の2倍前後あり、訪日客消費が縮小した影響を受けやすかった面はある。加えて打撃だったのが婦人服などアパレルの不振だ。
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◎「旗艦店の改装」ならば利益に響かない?
販売面を見ると、3社の中で「実質的には三越伊勢丹が最も苦戦した」のはその通りだろう。だが、記事では「三越伊勢丹の減益率が他社よりなぜ大きくなったか」を分析しているはずだ。「旗艦店を改装している」場合でも、売り上げが減れば基本的には減益要因だ。なのに、なぜ減収率が小さい三越伊勢丹の方がJフロントより減益率は大きいのか。そこの説明は欲しい。例えば「利益率の高い衣料品の落ち込みが他社より大きかったから」などと書いてあれば納得できる。
次は三越伊勢丹の戦略ミスについて考えてみる。
【日経の記事】
ファッションの伊勢丹――。グループの百貨店売上高の2割を占める伊勢丹新宿本店(東京・新宿)は、流行の先端を行く品ぞろえで業界をリードしてきた。同店の衣料品の売上高比率は約40%で、靴やアクセサリーなどを含めると60%近くになる。13年の店舗改装に合わせてさらにファッション性を追求し、高級ゾーンの品数を増やした。
だが、昨年秋ごろから消費に減速感が強まると商品戦略は裏目に出る。同店の4~9月期の売上高(外商など除く)は5%減少。訪日客比率が高い三越銀座店も8%減収となり、屋台骨である東京都心の店舗のけん引力は弱まった。
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◎これは「戦略ミス」?
筆者の湯浅兼輔記者は記事の冒頭で「戦略ミスも見逃せない」と言い切っていた。では何が「戦略ミス」だったのか。新宿本店の衣料品の売上高比率がもともと高く「13年の店舗改装に合わせてさらにファッション性を追求し、高級ゾーンの品数を増やした」ことを指して「商品戦略は裏目に出る」と評しているので、これが「戦略ミス」だと思える。
だが、どこが「ミス」なのか判然としない。新宿本店でも、しまむらやユニクロに対抗できるような価格帯の商品を中心に据えるべきなのか。それとも、衣料品の売上高を1割とか2割に抑えるのが正解なのか。湯浅記者は教えてくれない。
常識的に考えれば、新宿本店が衣料品の「高級ゾーン」に強みを持っているのならば、そこは保持すべきだ。安易に低価格戦略を進めたり、品ぞろえを減らしたりすれば、既存の顧客が離れてしまう。もちろん「これまでの戦略は行き詰まりが明白」と言える場合もあるだろう。だが、湯浅記者はそこまで踏み込んで分析していない。
続いては経費面について見ていく。記事の中ではここに最も大きな問題を感じた。
【日経の記事】
売上高の落ち込みに伴い、これまで覆い隠されてきた弱みもあぶり出された。人件費など販売費・一般管理費の重さだ。百貨店事業の売上高販管費比率は前期で26%とJフロント(20%)、高島屋(24%)を上回る。
Jフロントは売り場を大胆にテナントに貸し出し、自前の販売員を極力置かない戦略を徹底している。高島屋はショッピングセンター開発など不動産事業を収益源に育てた。三越伊勢丹は旧来型の百貨店ビジネスが主体なうえ、間接部門のコスト削減も進んでいない。
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◎なぜ「不動産事業」が出てくる?
3社の「百貨店事業の売上高販管費比率」を比べるのは悪くない。「Jフロントは売り場を大胆にテナントに貸し出し、自前の販売員を極力置かない戦略を徹底している」から販管費比率が低いという説明も分かる。だが、高島屋は謎だ。「ショッピングセンター開発など不動産事業を収益源に育てた」としても、あくまで「不動産事業」の話だ。なぜ「百貨店事業の売上高販管費比率」が低くなるのか。基本的には関係しないはずだ。特殊な事情があって関連してくるのならば、その事情を説明してほしい。
ついでに言うと、Jフロントが「売り場を大胆にテナントに貸し出し、自前の販売員を極力置かない戦略を徹底している」のであれば、「旧来型の百貨店ビジネスが主体」の三越伊勢丹と比較してもあまり意味がない。
Jフロントの手法は言ってみれば「不動産会社化」だ。販管費は減らせるが粗利益率も低くなる。一方、「旧来型の百貨店ビジネス」であれば、販管費率は高くなるものの、高めの粗利益率が期待できる。三越伊勢丹が高い販管費率に見合った粗利益率を確保していれば、「弱み」とは言えない。
以下の話はさらに理解に苦しんだ。
【日経の記事】
「持ち株会社が機能、人員ともに大きくなりすぎた」。三越伊勢丹のある幹部は自嘲気味に話す。持ち株会社の従業員数は前期末で583人と、売上高が1割ほど少ないJフロントの5倍。各店を横断する販売施策を考える営業企画部門も持ち株会社にある。傘下の百貨店事業会社も同様の部門を抱えており、機能が重複している。
経営統合から8年。組織改革をなおざりにしたツケが回ってきた。追い込まれる形でようやく構造改革の検討を始めた。まず今期中に間接部門を中心に管理職を減らし、人件費を26億円圧縮する。グループの管理職数は300超。「統合時は200~250を想定していた」(大西社長)といい、スリム化を急ぐ。
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◎管理職ポストを減らすだけで「26億円圧縮」?
三越伊勢丹は「今期中に間接部門を中心に管理職を減らし、人件費を26億円圧縮する」らしい。過去の日経の記事には「人員削減はせず、売り場などの現場に配置転換する」と書いてあるので、人は減らないのだろう。それで「26億円」も人件費を減らせるだろうか。
「グループの管理職数は300超。『統合時は200~250を想定していた』(大西社長)」との記述から判断して、管理職の数を100減らすと仮定してみる。この場合、1人当たり2600万円も人件費が減る計算だ。退職させてもここまでは減らないだろう。会社に残るとすれば、なおさらだ。
管理職を減らす効果はわずかで、他にも色々と手を付けて「人件費を26億円圧縮する」のではないか。それならば納得できる。だが、湯浅記者の説明では、管理職ポストを減らすだけで26億円の圧縮が可能と解釈するしかない。
最後に、記事の結論部分にも注文を付けたい。
【日経の記事】
低迷する地方店や郊外店の見直しも進める。来年3月に三越千葉店(千葉市)など2店を閉鎖するが、残った店も自主売り場の面積を縮小し、テナントへの賃貸に切り替える考えだ。
今期の営業利益は前期比28%減の240億円と期初予想を130億円下方修正した。修正後も下期の百貨店売上高は横ばいと甘めの想定で、株式市場では一段の下振れリスクがくすぶる。市場の信頼を獲得するには、改革案の早期の具体化が欠かせない。
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◎「改革案の具体化」とは?
「市場の信頼を獲得するには、改革案の早期の具体化が欠かせない」と湯浅記者は締めている。ならば、「改革案」は「具体化」していないのだろう。だが、何を「具体化」させる必要があるのか分かりにくい。「どの管理職ポストを減らすのか」「どの店のどの売り場をテナントへの賃貸に切り替えるのか」といった点で「早期の具体化が欠かせない」と見ているのか。
そうした細かい話が具体化していないとしよう。だが、「市場の信頼を獲得」するための重要な要素なのか。「修正後も下期の百貨店売上高は横ばいと甘めの想定で、株式市場では一段の下振れリスクがくすぶる」のであれば、例えば「市場の信頼を獲得するには、さらに大胆な経費削減策が欠かせない」などと書いてあった方が収まりがいい。
※記事の評価はD(問題あり)。湯浅兼輔記者への評価はDで確定させる。
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