成田山公園(千葉県成田市) ※写真と本文は無関係です |
記事の中身を見ていく。
【日経の記事】
10月、みずほフィナンシャルグループと第一生命ホールディングス系の資産運用会社が統合してアセットマネジメントOneが発足した。経営は一つになったが、統合しきれないものがある。投資信託の商品だ。
日経平均株価に連動する投信だけで7本を擁するなど重複商品は多い。だが「投信の統合は現実的には難しい」。1本1本、複数の金融機関をまたぐ調整が必要で、かえって時間やコストがかかってしまうという。
日本には、誰でも購入できる公募投信が約6千本。米国の約8千本と遜色なく、日本は「投信のデパート」だ。だが投信の資産残高は米国の20分の1。1本当たりの残高は米国の10分の1以下にとどまる。米国のファイナンシャルプランナーは「日本のファンドは種類が多すぎるね」と驚く。
市場規模に比べ投信の数が多いのは、国内金融機関が既存の投信より新商品の販売に力を入れてきたからだ。これが小規模で放置される「ゾンビ投信」の乱立をもたらした。三菱アセット・ブレインズによると残高10億円未満の国内投信は2000本強。1億円未満が700本、1000万円未満も180本弱ある。
有り余る商品に投資家も振り向かない。11月初旬、三菱UFJ国際投信は「ベストマネジャーズ」という投信の運用を始める予定だったが、急きょ取りやめた。理由は「お金が集まらなかったから」(同社幹部)。
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投信の回転売買が「長期投資の敵」というならば、まだ分かる。しかし、ゾンビ投信を「敵」と考えて「統合」を求めるのは理解に苦しむ。
「11月初旬、三菱UFJ国際投信は『ベストマネジャーズ』という投信の運用を始める予定だったが、急きょ取りやめた。理由は「お金が集まらなかったから」(同社幹部)」という話をゾンビ投信と絡めているのが、そもそも謎だ。投信の総数が少なければ「ベストマネジャーズ」にはカネが集まったのか。それを判断できる材料は記事中には見当たらない。
普通に考えれば、選択肢は多い方がいい。そもそも日本の「約6千本」に対し米国は「約8千本」と、日本以上に商品が「有り余る」状況だ。なのになぜ、米国では「有り余る商品に投資家も振り向かない」とはならないのか。「投信の数が多過ぎるから資金が集まらない」という説明は非常に苦しい。
「投信の数が多くても、優れた商品を提供すれば投資家は付いてくる」と考えると、新たな投資家を呼び込む上で、ゾンビ投信の存在は大きな障害にはならない。例えば、世の中には長年売れないお笑い芸人がたくさんいるが、そうした「ソンビ芸人」は、お笑い人気を阻害する要因になっているだろうか。お笑いのファンにとっては「ゾンビ芸人」の多寡は問題ではないはずだ。自分にとって好みの芸人がいるかどうかが重要だろう。
記事が言うように「投信の規模が小さいほど監査など管理費の負担は重くなり、投資家が支払う手数料が増えるもとになる」面はあるかもしれない。だが、ETFなど手数料の安い投信は既にある。ゾンビ投信を抱える運用会社が高い手数料の投信しか提供できないのならば、投資家はそうした投信には見向きもせず、ETFなどを選べばいい。
「長期投資に適した投信がないから長期投資が根付かない」と主張するのならば分かる。だが、今回の記事では「(長期投資に適した投信があったとしても)ゾンビ投信の数を減らさないとを長期投資が根付かない」と訴えている。これは解せない。長期投資に対する十分な需要があって、それに応える投信が揃っていれば、ゾンビ投信が山のようにあっても長期投資は根付くだろう。
投資家の立場で考えれば、取材班のメンバーにも分かるはずだ。例えば「2000本強あるゾンビ投信の統合を進め、年内に100本に統合します」というニュースを聞いた時、自分が投資家だったら反応するだろうか。「ゾンビ投信が多すぎるから長期投資を見送ってきたが、一気に統合が進むなら新たに長期投資を考えてみるか」などと思うだろうか。仮にそういう人がいたら「えっ!なぜそうなるの?」と聞いてみたくなる。
記事の後半部分にも気になる説明があった。
【日経の記事】
投信の規模が小さいほど監査など管理費の負担は重くなり、投資家が支払う手数料が増えるもとになる。運用先を分散してリスクを薄める手法もままならず、長期投資も根付かない。投信の数はもっと整理できないか。
制度面では投信の統合を後押しする仕組みはできている。2014年に改正投資信託法が施行され、手続きが簡素化された。ところが公募投信の本数は13年末から直近までに2割増えている。
なぜか。投信購入者と直接対峙する販売会社の協力が得にくいことが、最大のハードルだ。税金算出のため専用のシステム投資が必要なうえ、顧客への説明の手間もかかる。複数の販社が同じ投信を扱うことになればライバルに顧客も取られかねない。大手証券の営業担当者は「頼まれてもやりたくない」と漏らす。
同じ問題を抱えてきた韓国は改革に乗り出している。約5年前から小規模投信の整理に着手。当時1千本を超えていた残高500万ドル(約5億円)以下の投信は200本まで減った。韓国金融投資協会の黄永基(ファン・ヨンギ)会長は「小さい投信では分散投資もままならない」と強調する。
日本でも変化の芽はある。QUICK資産運用研究所によると10月の投信の新規設定額は前年同月に比べ8割減り、既存商品の割合が高まった。販売慣行は徐々に改まりつつある。だが投信の統合を通じた市場の新陳代謝はこれからだ。
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「投信の数はもっと整理できないか」との取材班の思いをとりあえず受け入れてみる。その場合、なぜ「統合」にこだわるのか。繰り上げ償還でいいではないか。「税金算出のため専用のシステム投資が必要なうえ、顧客への説明の手間もかかる」といった問題もかなり回避できる。
「統合」にそれほど障害が多いならば、繰り上げ償還を勧めてもよさそうなものだが、記事では全く触れていない。「繰り上げ償還は素晴らしい」と言うつもりは毛頭ない。ただ、投信の数を減らすには「統合」よりも現実的ではないか。
さらに言えば、せっかく韓国の改革を取り上げたのだから、「約5年前から小規模投信の整理に着手」したことが長期投資の呼び水になったかどうかは触れてほしかった。「小さい投信では分散投資もままならない」のは「韓国金融投資協会の黄永基(ファン・ヨンギ)会長」に語ってもらわなくても分かる。重要なのは「小規模投信の整理」が「長期投資」の拡大にどのぐらい寄与したかだ。そこを検証すれば、ゾンビ投信が長期投資の「敵」かどうかも多少は見えてきそうなのに…。
※記事の評価はD(問題あり)。
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