早稲田大学での早稲田祭(東京都新宿区) ※写真と本文は無関係です |
【東洋経済の記事】
あくまで極論だが日米同盟を解消し、自主防衛に切り替えた場合、どれくらいのコストがかかるのか。それを試算したのが右ページ下の図だ。
空母や戦闘機の購入、情報収集能力の独自開発などのコストが高く、合計金額は4兆円を超す。自主防衛によって在日米軍関係費をなくす代わりに、約4兆円のコストが新たに発生するわけだ。単年度でこれを行うと防衛費は倍近くに膨らむ。維持費を考えると、その後も従来の防衛費の水準に戻るとは考えにくい。忘れてはならないのは、同盟解消に伴って「核の傘」がなくなること。NPT(核兵器不拡散条約)体制に入っている中、日本が独自に核開発に動こうものなら、外交や貿易面で多大な負担と批判にさらされるだろう。
結局、自主防衛による完全な代替は難しいだけに、日米同盟の維持を前提に現実的な対応をしていくしかない。
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取材班が検討していない要素を挙げてみる。
(1)本当に「4兆円」も必要?
記事に載せた「自主防衛に必要なコストの内訳」では、コスト総額が「4兆2069億円」となっている。「出所」については「武田康裕・武藤功『コストを試算! 日米同盟解体』を基に本誌作成」と記している。
記事では、この試算を無条件に受け入れている。だが、内訳を見ると「民間防衛2200億円▶簡易シェルター保有など」という、よく分からない項目もある。「簡易シェルター」とは日米同盟があれば不要で、自主防衛ならば必要なものなのか。
試算では「空母機動部隊1兆7676億円」という項目もある。しかし、自主防衛で空母が必要かどうかは見方が分かれるだろう。空母なしで試算すれば必要金額は「4兆円」を大きく下回るはずだ。自主防衛に必要な軍事力がどの程度かの答えは1つに決まるものではない。前提を変えれば、金額も大きく変わってくる。
(2)「4兆円」はそんなに大きい?
「4兆円」という金額をとりあえず受け入れて考えてみよう。取材班は「単年度でこれを行うと防衛費は倍近くに膨らむ」と訴える。それは間違っていないが、在日米軍関係費が年間5000億円浮くと考えると、これの8年分だ。10年単位で考えると、4兆円の支出増加に対して5兆円の支出減少となる。「維持費を考えると、その後も従来の防衛費の水準に戻るとは考えにくい」のは分かるので、維持費増加を年間1000億円とすると、10年間では1兆円の支出が加わる。これで合計の収支が見合う。
「維持費」の増加がどの程度になるかは分からないという問題はあるが、記事から読み取れる情報を基に考えると、「自主防衛」のコスト負担は不可能ではない。
(3)「完全代替」できないと現状維持?
「自主防衛による完全な代替は難しいだけに、日米同盟の維持を前提に現実的な対応をしていくしかない」と記事では結論付けているが、そもそも「完全な代替」が必要なのか。「『核の傘』がなくなる」と国を守れなくなるわけではない。
例えばベトナムは中国と国境を接し、領土問題も抱えている。「核の傘」はなく、空母も保有していないようだ。だからと言って「ベトナムに自主防衛は無理」と考えるべきだろうか。もしベトナムが自主防衛を機能させているとすれば、日本ではなぜ実行できないのか。その辺りを取材班には検討してほしかった。
米国と同盟を組めば、米軍に守ってもらえるかもしれない。だが、米国を敵視する国から同じように敵視されるリスクも引き受けなければならない。逆に言えば、自主防衛にはそうしたリスクからの解放という利点もある。同盟を解消した後に米軍の「完全な代替」ができないからと言って「日米同盟の維持を前提に現実的な対応をしていくしかない」と決め付けるのは、あまりに考えが浅い。
「日米同盟の維持がベスト」という結論はあり得る。だが、それは他に選択肢がないからではないはずだ。
※この記事の評価はD(問題あり)、特集全体の評価はC(平均的)。特集の担当者の評価は以下の通りとする。
秦卓弥記者(暫定B→暫定C)
福田恵介編集委員(暫定B→暫定C)
野村明弘記者(暫定C→C)
山田徹也記者(B→C)
平松さわみ記者(暫定C)
中川雅博記者(暫定C→C)
リチャード・カッツ記者(暫定C)
井下健悟副編集長(暫定C)
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