2016年11月29日火曜日

さらに苦しい日経 西條都夫編集委員の「内向く世界(4)」

第4回もやはり苦しい。日本経済新聞朝刊1面で連載している「内向く世界」は第3回に続いて、ほとんど「内向く世界」を論じていなかった。「『反大企業』の波 難題解決で『共益』導く」との見出しを付けた28日の記事の筆者は、何かと問題が多い西條都夫編集委員。「内向く世界」というテーマで見事に斬り込んでくれると期待する方が愚かではあるが…。
火事(福岡県久留米市) ※写真と本文は無関係です

記事を順に見ていこう。

【日経の記事】

ギリシャのレスボス島。太陽に輝く白壁の簡易住宅に暮らすのは、内戦と圧政、テロから逃れたシリア難民たちだ

スウェーデンの家具大手、IKEA(イケア)が建設を支援した。難民の生活改善へ簡単に組み立てられるシェルターを中東やアフリカに提供する。イケア基金のペール・ヘゲネス最高経営責任者(CEO)は「政府や援助機関だけではなく企業も難民問題に対応する義務がある」と話す。

世界で高まる「アンチ・ビジネス(反大企業)」の波。税テクを駆使して払うべき税金を払わず、ロビイストを使って政策決定プロセスをゆがめ、安い労働力目当てに海外展開し国内雇用を破壊する。こんな負のイメージを企業に貼りつける言説も目だつが、少し待ってほしい。

何があっても共に前進しよう」。米大統領選でドナルド・トランプ氏から中国生産を批判された米アップル。ティム・クックCEOはトランプ氏当選後、社員を鼓舞するメールを送った。内向きに傾く世界。グローバル企業の間で社会との接点を探る動きが広がる

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『アンチ・ビジネス(反大企業)』の波」が世界で高まっているとしよう。しかし、それは「内向き」なのか。「大企業の課税逃れを見逃すな」と訴えるのは「内向き」とは言い切れない。「(大企業が)ロビイストを使って政策決定プロセスをゆがめ」る行為を批判するのもそうだろう。「反大企業=内向き」「親大企業=外向き」と単純に色分けしても意味はない。

そもそも「アンチ・ビジネス」に「反大企業」という訳語を当てはめるのは適切なのか。どこから「」は持ってきたのだろう。

イケアとアップルの話もよく分からない。イケアが「建設を支援した」「簡易住宅」があるのはギリシャ(つまり欧州)だ。しかし記事には「難民の生活改善へ簡単に組み立てられるシェルターを中東やアフリカに提供する」とも書いてある。これだけ読むとギリシャは提供地域外だと受け取れる。「中東やアフリカにも」となっていれば問題はない。だが、西條編集委員の説明だと解釈に迷う。

アップルの話は「グローバル企業の間で社会との接点を探る動きが広がる」一例のつもりだろう。だが、CEOが社員に「何があっても共に前進しよう」と呼びかけても、「社会との接点を探る動きが広がる」一環とは言い切れない。「大統領からの圧力が強まるかもしれないが、団結して今まで通りのやり方で進めていこう」との趣旨とも取れる。

付け加えると「目だつ」は「目立つ」と表記してほしかった。

以下のウーバーの話も苦しい。

【日経の記事】

北海道北部の中頓別町で今夏、社会実験が始まった。かつて同地を走った国鉄・天北線は30年近く前に廃線になり、公共の足は1日4往復の路線バスぐらい。高齢者が最寄りの総合病院に行くにはバスと鉄道を乗り継ぎ、丸1日かかる

同町が頼ったのは米ウーバーテクノロジーズの「ライドシェア」サービスだ。ネットで送迎を頼むと登録する15人の運転手の中から都合のつく人が自分の車を配車する。同町役場の笹原等氏は「ウーバーを高齢化や過疎に悩む町民の足として定着させたい」と話す。

ウーバーは未上場ながら10億ドル以上の企業価値を持つ「ユニコーン(一角獣)」企業の筆頭格だ。見方によっては「グローバル資本主義の先兵」的な存在だが、地域の課題と真摯に向き合う

ネットによる民泊仲介の米エアビーアンドビーも10月、ラグビーのワールドカップを控えて宿泊施設不足に直面する岩手県釜石市と提携した。

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まず言葉の問題を2つ。「高齢者が最寄りの総合病院に行くにはバスと鉄道を乗り継ぎ、丸1日かかる」ならば、日帰りは無理だ。本当だろうか。断定はできないが、「最寄りの総合病院で診察を受けようとすると1日仕事になる」と伝えたかったのではないか。だとすれば、説明がかなり下手だ。

もう1つ。「車を配車」は重複表現なのでお薦めしない。「都合のつく人が自分の車で迎えに行く」などとすれば問題は解消する。

中頓別町での取り組みを「『グローバル資本主義の先兵』的な存在だが、地域の課題と真摯に向き合う」と評価するのは、かなり大げさだ。田舎の町で運転者として登録している人が15人ならば、ウーバーを使う必要は乏しい。15人の電話番号を一覧にした表を高齢者に配って、個別に電話して交渉させた方が話は早いだろう。

SankeiBizによると「町ではスマホを持っていない人のために配車受け付け専用の電話番号を設け、連絡を受けてアプリから配車依頼を代行する対応もしている」。結局、ウーバーは大した力にはなっていないようだ。

ウーバーを使っての実験自体を否定はしないが、ウーバーが難しい問題を解決してくれるわけではない。解決してくれるのは「15人の運転手」であり、後は注文をどうやって捌くかの問題だ。田舎の町で運転者が15人ならば、そこは大きな障害にはなりそうもない。

最後に記事の結論部分を見ていこう。

【日経の記事】

「社会問題の解決を政府任せにせず、企業自ら取り組むことで持続的な富の創造が可能になる」。米ハーバード大のマイケル・ポーター教授が唱えた「shared value(共益)」の考え方に共鳴する企業が増えているのは、反グローバルに傾く世界と無関係ではない。社会との共生と自社の成長を両立できるモデルだからだ。

「反企業」のうねりは20世紀初頭の米国で独占企業に対する反トラスト法制が強化されるなど、幾度か浮上しては企業と社会の新たな関係性を形づくってきた。各国の財政余力も限られる低成長時代。企業が新たな「公共」の担い手として政府の手に余る課題解決に尽力できれば、閉じがちな世界を前に進める原動力となる

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結論も苦しい。課税逃れ、ロビー活動による利益誘導、海外への生産移転といった要因が「アンチ・ビジネス」の波を高めているのならば、それらを放置したままウーバーやエアビーアンドビーがライドシェアや民泊を普及させても「アンチ・ビジネス」を抑える効果は限られている。

大企業の課税逃れに怒っている人は、社会との共生を目指す企業がいくら増えても、課税逃れをやめない大企業への批判を続けるだろう。

それに、ウーバーやエアビーアンドビー自体が「反大企業」の機運を高める可能性も高い。両社が日本での事業を広げることで、中小のタクシー会社や旅館が次々と廃業に追い込まれた場合、「閉じがちな世界を前に進める原動力となる」だろうか。


※記事の評価はD(問題あり)。西條都夫編集委員への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。西條編集委員については以下の投稿を参照してほしい。

春秋航空日本は第三極にあらず?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/04/blog-post_25.html

7回出てくる接続助詞「が」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/04/blog-post_90.html

日経 西條都夫編集委員「日本企業の短期主義」の欠陥
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_82.html

何も言っていないに等しい日経 西條都夫編集委員の解説
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_26.html

日経 西條都夫編集委員が見習うべき志田富雄氏の記事
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_28.html

タクシー初の値下げ? 日経 西條都夫編集委員の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_17.html

日経「一目均衡」で 西條都夫編集委員が忘れていること
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_14.html

「まじめにコツコツだけ」?日経 西條都夫編集委員の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/07/blog-post_4.html

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