火事(福岡県久留米市) ※写真と本文は無関係です |
筆者の峯岸博ソウル支局長は記事の最初の方で以下のように書いている。
【日経の記事】
韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領は4日、国民向け談話を発表し、国政介入などの疑惑に捜査のメスが入った長年の友人、崔順実(チェ・スンシル)容疑者との関係を改めて謝罪した。だが国民の厳しい視線は和らぎそうにはない。怒りは若者や主婦に広がる。2人への疑惑が過酷な競争社会に疲れる人々の虎の尾を踏んでしまった。
「私は憤怒している」。ソウル近郊で4人の子どもを育てる30代の主婦が矛先を向けるのは崔容疑者の娘の不正入学疑惑だ。乗馬の元韓国代表選手だった娘は2014年の仁川アジア大会で馬術の団体金メダルを獲得した。本来、選考対象でない金メダル獲得によって乗馬特待生として名門の梨花女子大体育科学部に入学できたとの疑惑だ。
同大の特待生の競技種目に馬術が加わったのはこの年からだった。大学が崔氏の意向を受け、学則を改正するなど便宜を図った疑いがある。アジア大会の代表選手の選抜過程が不透明だったり、20年の東京五輪をめざす選手団育成を目的としたサムスン電子の巨額支援を娘が独占したりした疑惑も報じられている。
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「怒りは若者や主婦に広がる」とは書いているが、ここから「急先鋒は若者・主婦」と解釈するのは無理がある。その後に「憤怒している」という「30代の主婦」が出てくるものの、この人だけで「急先鋒は主婦」と捉えるのも苦しい。
若者に関しては、記事の最後の方に「韓国の世論調査機関によると朴氏の支持率は5%と歴代政権の最低を記録。19歳~30代に限ると1%に沈む」との記述があるので、「急先鋒」だとは言えそうだ。だが、なぜ若者の怒りが特に強いのかは教えてくれない。
峯岸ソウル支局長の分析をさらに見てみよう。
【日経の記事】
韓国社会は「有名学習塾のある地区の地価が上昇する」ほどの学歴主義だ。背景には上位10%への所得集中度がアジアで最高という「両極化(格差)」社会がある。一握りの有名企業などに入るため、幼少期から過酷な受験戦争にさらされる。
うまく入社できても超ピラミッド型の出世レースが待ち受ける。そこで幅を利かすのが学歴と学閥。コネに頼れない一般市民はその肩書を手に入れようと子供の教育に血眼になる。人生は生まれた家庭によって決まってしまうという「金のさじ、銀のさじ、土のさじ」「ヘル朝鮮」(地獄のように生きづらい韓国社会)といったスラングが若者の間で流行する。
不正入学が疑われる娘の母親は大統領の友人、父親も元秘書だ。韓国では「最も市民が敏感なのは権力者による子供の不正入学と徴兵逃れ」といわれる。前述の主婦は「金持ちも貧乏人も分け隔てなく公正なものが受験のはず。その『最後の砦(とりで)』が大統領の友人によって壊された」と不正入学疑惑の深刻さを訴える。
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この分析だと「怒り、急先鋒は若者・主婦」になりそうな感じはない。幅広い年代の国民が「一握りの有名企業などに入るため、幼少期から過酷な受験戦争にさらされる」経験をしているはずだ。「過酷な競争社会に疲れる人々」は「若者や主婦」に限らないのではないか。
「怒り、急先鋒は若者・主婦」と峯岸ソウル支局長は考えていないのに、整理部の担当者が拡大解釈して見出しを付けた可能性はある。ただ、見出しは峯岸ソウル支局長も国際アジア部デスクも確認しているはずだ。整理部の案を受け入れたのならば「怒り、急先鋒は若者・主婦」という見出しに釣られて記事に目を通した読者を納得させる内容にする必要がある。
ついでに言うと、「人生は生まれた家庭によって決まってしまうという『金のさじ、銀のさじ、土のさじ』『ヘル朝鮮』(地獄のように生きづらい韓国社会)といったスラングが若者の間で流行する」という説明は引っかかった。
特権とは無縁の貧しい家庭に生まれても「過酷な受験戦争」と「超ピラミッド型の出世レース」を勝ち抜く道はあるのではないか。教育面では裕福な家庭が有利だとしても「人生は生まれた家庭によって決まってしまう」とは考えにくい。出世レースで「幅を利かすのが学歴と学閥」であれば、貧しい家庭に生まれても、トップクラスの学歴を手にして這い上がっていく可能性は十分にある。
実際の韓国社会がどうなっているかは分からないが、記事の流れでいけば「人生は学歴によって決まってしまう」と言われた方が納得できる。
さらについでに言うと、注釈なしに「スラング」を使うのは感心しない。「俗語」で十分だ。どうしても横文字を使いたいならば「スラング(俗語)」などと訳語を入れる手もある。日経の読者には高齢者が多い。その点にも十分に配慮してほしい。
※記事の評価はC(平均的)。峯岸博ソウル支局長への評価も暫定でCとする。
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