学習院大学(東京都豊島区) ※写真と本文は無関係です |
記事を順に見ていきながら、菅野編集委員の解説にツッコミを入れてみる。
【日経の記事】
米国と英国という、世界を代表する2つの民主主義国が、半年で次々と既存秩序をぶち壊した。
「再び偉大な米国を」(Make America great again)。トランプ米次期大統領の合言葉は6月の英国民投票で欧州連合(EU)離脱派が使った「再び偉大な英国を」とうり二つ。どちらも世論調査機関や市場は有権者の変革への意思を全く読み誤っていた。
写し絵のような米英の展開は、アングロサクソンの両国が導くグローバル化やエリート(支配層)主義に庶民が募らせる不満の表れだ。
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◎EU離脱は「反グローバル」?
「EU離脱=反グローバル」との見方は奇妙だ。一般的に言えば、EUはリージョナリズム(地域主義)に基づいたもので、グローバリズムと直接の関係はない。「EU加盟=親グローバル」「EU非加盟=反グローバル」と単純に色分けするのは無理がある。例えば、EU非加盟のスイスは反グローバル国家と言えるのか。
さらに記事を見ていこう。
【日経の記事】
国家や市場を分ける壁を取り、貿易や人の流れを自由にしても繁栄の果実は届いていない。むしろ激しい競争で職や生活に不安が増し、米国人の8割は所得水準が金融危機前を下回るとされる。
活発な競争を通じた新自由主義や多国間で自由貿易の枠組みを築く従来の路線を否定することが有権者の心をつかむ。トランプ氏のもと日本を含む環太平洋経済連携協定(TPP)や米・EUの環大西洋貿易投資協定(TTIP)の実現は極めて難しくなった。
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◎「国家や市場を分ける壁」は既にない?
「国家や市場を分ける壁を取り、貿易や人の流れを自由にしても繁栄の果実は届いていない」という書き方から判断すると、「国家や市場を分ける壁」は既になく、「貿易や人の流れを自由」にする作業は終わっているのだろう。菅野編集委員はEU域内に限定して語っているわけでもない。だとしたら、なぜTPPの発効が必要なのか。世界に自由な貿易を妨げる「壁」は現時点でもないはずだ。
ついでに、記事の書き方に関して菅野編集委員に助言したい。「活発な競争を通じた新自由主義や多国間で自由貿易の枠組みを築く従来の路線を否定することが有権者の心をつかむ」というくだりは非常に読みづらい。「や」を使って何と何を並立関係にしているのか分かりづらいからだ。
「活発な競争を通じた新自由主義」や「多国間で自由貿易の枠組みを築く従来の路線」を否定することが有権者の心をつかむ--と菅野編集委員は伝えたいのだろう。だが「活発な競争を通じた新自由主義」や「多国間で自由貿易の枠組みを築く従来の路線を否定すること」が有権者の心をつかむ--といった読み方もできる。改善例を示してみる。
【改善例】
活発な競争を通じた新自由主義や、多国間で自由貿易の枠組みを築く従来の路線を否定し、有権者の心をつかむ。
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記事の続きを見ていく。
【日経の記事】
反グローバルを唱えて票を稼ぐという模範例ができ、大衆迎合主義(ポピュリズム)を武器とする政党が勢いづく。
フランスの極右、国民戦線のルペン党首は「米大統領選は自由の勝利。我々も自由を阻むシステムを打ち壊そう」と2017年春の仏大統領選に向けて既存政党との対抗姿勢をむき出しにした。
英国に続く離反を避けたい欧州の周辺国は気が気でない。「人々を扇動するポピュリズムは、米国だけでなく西側の至る所で憂慮すべき事態になった」とドイツのショイブレ財務相は指摘する。
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◎国民戦線は非「既成政党」?
菅野編集委員は「国民戦線≠既存政党」と考えているようだ。近年新たに結成されたのならば分かるが、そこそこ長い歴史を持つ国民戦線を非「既存政党」と見なすのは解せない。
「西側」も気になった。今も「東側」があるのか。例えばバルト3国は、どっち側なのだろう。
記事の後半部分にも注文を付けたい。
【日経の記事】
来年の欧州は仏大統領選とオランダ、ドイツの総選挙が重なる選挙の当たり年だ。トランプ氏が大統領として剛腕を発揮するほど、反EUの機運は高まりかねない。世界経済を支える貿易の停滞に国際通貨基金(IMF)などの危機感も強い。
反グローバル化を叫ぶ勢力の伸長は止まりそうにないが、それを唱え、保護主義を強引に進めていくだけでは、経済の繁栄や生活の充実への解になり得ないのは明らかだ。「偏狭なナショナリズム(国家主義)の乱立になりかねない」。中前国際経済研究所の中前忠代表は危惧する。
グローバル化や市場主義に背を向けるのでなく生じたひずみをどう直していくのか。「グローバル化に代わる選択肢はない。もっと人間的な形に変えていく努力こそが必要だ」。仏モンテーニュ研究所のドミニク・モイジ首席顧問は過剰な不平等の解消など具体的な政策の明示を呼びかける。
有権者の怒りを踏み台にのし上がったトランプ氏も、これから彼らを納得させる答えを示さねばならない。日本、欧州も新興国の首脳にも、反グローバル化のうねりを抑える賢明で繊細な政策選択が問われる。トランプ・ショックを生んだ背景を正視すべき時だ。
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◎「彼ら」とは誰?
「有権者の怒りを踏み台にのし上がったトランプ氏も、これから彼らを納得させる答えを示さねばならない」という部分が分かりにくい。まず、素直に「彼ら=トランプ支持の有権者」の線で考えてみる。
トランプ氏が「反グローバル」を訴えて有権者の支持を得たのであれば、「彼らを納得させる答え」は「反グローバル」に沿ったものになる。だが、菅野編集委員は「反グローバル」の広がりに危機感を持っているようなので、辻褄が合わなくなる。
そこで「彼ら=中前忠代表やドミニク・モイジ首席顧問」と仮定してみる。そうすると話は合う。ただ、なぜトランプ氏が海外の研究所に所属する人を「納得させる」必要があるのかとの問題は残る。
今回の記事は「反グローバルのうねりを止めなくては…」という独自色の乏しい解説なのに、説明には色々と問題が多い。編集委員が書いてこのレベルでは辛い。
※記事の評価はD(問題あり)。菅野幹雄編集委員への評価はC(平均的)からDに引き下げる。菅野編集委員については以下の投稿も参照してほしい。
「追加緩和ためらうな」?日経 菅野幹雄編集委員への疑問
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_20.html
「消費増税の再延期」日経 菅野幹雄編集委員の賛否は?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_2.html
日経 菅野幹雄編集委員に欠けていて加藤出氏にあるもの
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/08/blog-post_8.html
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