ハンググライダー発進基地(福岡県久留米市) ※写真と本文は無関係です |
【日経の記事】
米国を除く環太平洋経済連携協定(TPP)の11カ国が8日、チリで新協定に署名した。「21世紀型」と呼ぶ通商ルールを多国間協定に織り込んだTPP11の誕生である。経済成長のカギを握るデジタル分野の新ルールは、ネット空間の自由貿易に役立つだろうか。
答えはノーだ。元のTPPの中身が完成したのは2015年の10月。2年半が過ぎ、デジタルの技術とビジネスは加速度的に進化した。オリジナル版を踏襲しただけのTPP11のルールは、すでに技術面で陳腐化している。
それだけでなく、TPPをモデルにした東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の交渉で、合意を阻む障壁にもなっている。
RCEPの16カ国は3日、シンガポールで閣僚会合を開いた。だが結果は合意への意思を確認しただけ。自由化の理念重視でTPPと同じルール導入を目指す日本に、アジア各国が反発しているためだ。
たとえばベトナムでの越境EC(電子商取引)を考えてみよう。利用者一人ひとりの関心や消費、取引記録などの情報は企業のサーバーに蓄積される。
米アマゾンがベトナム国内にサーバーを置く場合、共産党の一党独裁国家の政府から、情報を差し出すよう要求されたり、サーバーを差し押さえられたりするのでは困る。集めたビッグデータは、人工知能(AI)や機械学習による明日のビジネスを生みだす貴重な“原材料”だからだ。
このため元のTPP交渉では、データの扱いに国家を介入させないルールづくりに精力を注いだ。(1)サーバーをどの国に置いてもよい(2)国境を越えてデータを移転してよい(3)ソースコードを開示しなくてよい――という自由3原則だ。
日米が恐れていたのは、中国発のデジタル保護主義の拡大だった。中国はネット空間に万里の長城を築き国内市場を守っている。その一方で、アリババ集団、騰訊控股(テンセント)などの巨大企業は国外に手を広げる。ルールで囲い込み中国を開城させるのが、TPPの狙いだった。
ところが囲い込む側のTPPから米国が抜けた。一方、米国が加わらないRCEPでは、中国が中核メンバーだ。TPPの3原則をそのままRCEPに移植すると何が起きるか……。
中国企業の一人勝ちとなるはずだ。ベトナムではアリババやテンセントが躍進し、あらゆる情報を収集する。一方通行の壁の向こう側にデータが吸い上げられるだろう。データ移転やサーバー設置の自由が協定で定められれば、ベトナムは誰にも文句を言えない。
ベトナムなど新興国は、自由3原則を含む協定を受け入れ難い。RCEP交渉難航の最大の要因は、中国企業が圧倒的に強い現実を直視できない日本にある。保護主義を封じるために放ったブーメランで、自分が苦しんでいるのだ。
ブロックチェーン技術の発達で「守るべき本丸はサーバー」という前提も崩れ始めた。国境を問わず、不特定多数による分散と共有がデータの信用を支える時代に入るからだ。21世紀型とされる国家間のルールだが、現実の21世紀の経済から周回遅れとなっている。
◇ ◇ ◇
気になる点を列挙してみる。
◎疑問その1~「陳腐化している」のに気にする?
「TPP11のルールは、すでに技術面で陳腐化している」と太田編集委員は断定している。「陳腐化」の具体的な内容は不明だが、とりあえず「あってもなくても変わらないルールになった」と考えよう。だとしたら「TPPの3原則をそのままRCEPに移植」しても、大きな変化は起きないはずだ。「すでに技術面で陳腐化している」のだから。
門司港から見た関門海峡 ※写真と本文は無関係です |
だが、「移植すると何が起きるか」というと、ベトナムでは「中国企業の一人勝ちとなる」らしい。「アリババやテンセントが躍進し、あらゆる情報を収集する。一方通行の壁の向こう側にデータが吸い上げられるだろう」と太田編集委員は予想する。
「TPP11のルールは、すでに技術面で陳腐化している」のではなかったのか。「ベトナムなど新興国は、自由3原則を含む協定を受け入れ難い」と太田編集委員は言うが、これは解せない。「ベトナムなど新興国」は最新の技術を用いてルールを「陳腐化」させれば済む。
すぐには対応が難しいと言うのならば、「すでに技術面で陳腐化している」との説明が怪しくなってくる。
◎疑問その2~なぜ「一方通行」になる?
「TPPの3原則をそのままRCEPに移植する」場合、ベトナムは中国によって「一方通行の壁の向こう側にデータが吸い上げられるだろう」とも太田編集委員は言う。これも奇妙だ。
中国も「RCEP」に参加しているのだから、他国からデータを「吸い上げ」る一方で「吸い上げられる」側にもなるはずだ。記事の説明だと、中国は一方的にデータを得る立場のように見える。
そもそも、そんなに中国にとってメリットのある話ならば、「自由化の理念重視でTPPと同じルール導入を目指す日本に、アジア各国が反発している」のも解せない。中国は日本と一緒に「ルール導入」を推進しようとするのが自然だ。
◎疑問その3~目的は「中国の開城」では?
「中国はネット空間に万里の長城を築き国内市場を守っている」ので「ルールで囲い込み中国を開城させるのが、TPPの狙いだった」と太田編集委員は解説する。そして、「TPPの3原則をそのままRCEPに移植する」と、規制の強いベトナムでも中国企業などによって「データが吸い上げられるだろう」と予測する。
ならば、同時に「中国を開城させる」という目標も実現する。だったら、日本がそこに執着するのは当然だ。「ルール導入」の狙いは「中国企業の一人勝ち」の阻止ではなく、「中国を開城させる」ことだったのだから。
「いや、ルールが陳腐化してるんだから…」と太田編集委員は言うかもしれない。その場合は「陳腐化しているのならばなぜ、ベトナムでは『壁の向こう側にデータが吸い上げられる』ような変化が起きるの?」という疑問に戻ってしまう。
結局、「太田編集委員が書いている記事でもあり、参考にすべき中身ではない」と考えるのが適切だろう。
※今回取り上げた記事「経営の視点『TPPルール』の誤算 データ争奪 周回遅れに」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180312&ng=DGKKZO27980240R10C18A3TJC000
※記事の評価はD(問題あり)。太田泰彦編集委員への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。太田編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。
問題多い日経 太田泰彦編集委員の記事「けいざい解読~ASEAN、TPPに冷めた目」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/05/blog-post_21.html
日経 太田泰彦編集委員 F評価の理由
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_94.html
説明不十分な 日経 太田泰彦編集委員のTPP解説記事
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_6.html
日経 太田泰彦編集委員の力不足が目立つ「経営の視点」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/07/blog-post_18.html
日経 太田泰彦編集委員のTPP解説記事に見える矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/11/blog-post_12.html
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