有明海(佐賀県太良町)※写真と本文は無関係です |
【FACTAの記事】
東京都内の大学入試もほぼ終わり、試験業務から解放され安堵しているはずの大学職員たちの表情が冴えない。東京一極集中是正に向け23区にある大学の定員増を今後10年間禁じる「劇薬」新法案が今国会に提出されているからだ。とりわけ、地方学生の受け皿となっているMARCH(通称「マーチ」=明治、青山学院、立教、中央、法政の有名マンモス私大群)が「狙い撃ちにされる」(政府関係者)と物議を醸している。
立法化を求めたのは東京への学生流出に憤る全国知事会だが、実質的に主導したのは内閣官房所管の有識者会議。座長に坂根正弘コマツ相談役、カギを握る座長代理には地方創生の旗振り役、増田寛也元総務相が就任。首相の側近、山本幸三地方創生担当相時代の2017年2月に「法制化ありき」で始まった。
2月上旬、都内で開かれた大学関係者らによるシンポジウムは、危機感がにじむ内容だった。
「稀に見る愚策。(大学の)中身の競争を自由にすべきで23区の大学が活性化できないと、国全体のレベルが落ちてしまう」。大学定員抑制策を槍玉に挙げたのは「オネエキャラ」で知られる尾木ママこと、教育評論家の尾木直樹。憤懣やるかたない様子で口角泡を飛ばした尾木は、長年にわたり法政大で教鞭をとり、テレビのワイドショーなどへの出演を通じて法政大の名を拡散した広告塔的な存在だ。
看板教授陣のメディア露出が学生募集の武器となり、特に潤沢な軍資金(授業料収入)を持つマーチの広報力は、他大学を圧倒する。教育学者でベストセラーを量産する齋藤孝・明大教授、法律問題のコメントで定評のある野村修也・中央大法科大学院教授、箱根駅伝4連覇を達成した青学の原晋監督らは、今もテレビに引っ張りだこだ。
あまたの看板教授を抱えるマーチが、23区内の大学定員抑制法案で狙い撃ちにされる理由は、いくつか考えられるが、まず学生の多さが標的だ。16年の23区内の大学などの学生数は46万7千人に上り、全国の学生数の約17%、実に6人に1人が集中している。ちなみに、マーチ5大学の在学生は計約12万人。大手予備校がまとめた18年度(3月1日時点)のマーチへの志願状況も計46万人超(前年比108%)と、「日東駒専」「関関同立」の私大群を大きく引き離す。少子化の逆風にもめげず、その人気は衰えない。地方学生を吸い寄せる「巨大なブラックホール」のような存在だ。
私学助成を出す国からすれば、高校で理系科目をさっさと捨て、私学文系コースに走る学生の「駆け込み寺」となっていることも、気に入らないようだ。国立大学改革の一環として文部科学省が出した「文系学部廃止」通知が物議を醸したのは3年近く前。科学技術立国を支える人材育成への貢献度が低い私大文系が、大学行政の観点から「冷や飯」を食わされるのは必至。私大文系組が殺到するマーチへの風当たりが強まるのも当然だ。
◎「早慶上智」や「日東駒専」は狙われてない?
MARCHが「23区内の大学定員抑制法案で狙い撃ち」されているとの見方が正しいとすれば、「早慶上智」や「日東駒専」は「狙い撃ち」の対象外となる。しかし、なぜそう言えるのかは謎だ。「地方学生の受け皿となっている」のは「早慶上智」も同じだ。
「高校で理系科目をさっさと捨て、私学文系コースに走る学生の『駆け込み寺』となっている」のは「日東駒専」にも当てはまるだろう。
例えば「早慶上智」や「日東駒専」は「23区内の大学定員」を増やす気がそもそもなく、増やしたがっているのはMARCHのみといった事情があれば「MARCH狙い撃ち」で納得できる。しかし、そうした話は出てこない。
MARCHを「地方学生を吸い寄せる『巨大なブラックホール』のような存在だ」と記事では書いているが、「地方学生を吸い寄せる」力ならば「早慶上智」の方が上だろう。「MARCHに入れるなら上京するが、早慶上智なら地元で進学する方がマシ」と考える学生はかなり少数派だと思える。
※今回取り上げた記事「平成版『人返しの法』が私大MARCH狙い撃ち」
https://facta.co.jp/article/201804032.html
※記事の評価はD(問題あり)。
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