2018年3月9日金曜日

「独立系金融アドバイザー」を手放しに持ち上げる日経に注文

8日の日本経済新聞朝刊 金融経済面に載った「アセットマネジメント新世紀~脱短期が生む商機(3) 報酬、顧客資産と連動 運用指南、独立系が台頭」という記事には色々と問題を感じた。まず、記事のテーマである「独立系金融アドバイザー(IFA)」に関する説明が不十分だ。「IFA」を手放しに持ち上げる書き方も感心しない。
有明海(佐賀県太良町)※写真と本文は無関係です

記事の最初の事例を見ていこう。

【日経の記事】 

2月、若手2人が野村証券を去り、新たな会社を立ち上げた。「独立系金融アドバイザー(IFA)」のジャパンアセットマネジメント(東京・品川)だ。既存の金融機関に属さず、顧客のライフプランに沿って長期の資産運用について助言する。日本での歴史は浅いが、「運用先進国」の米国では主流の業態だ。

「事実上の販売ノルマが残っていた。自分で理想の金融機関をつくるしかなかった」。こう語る代表の堀江智生氏(30)は野村時代に営業部門トップから表彰も受けた敏腕営業マンだった。「3~5年で転勤を繰り返していては顧客に寄り添った営業ができない」。都内有数の虎ノ門支店にいた長谷川学氏(27)も独立を決めた。

証券業界では株式や投資信託の短期売買を押しつけ、「取引手数料の形で顧客の資産を奪っていく」(大手証券OB)ような営業手法がまかり通る時代があった。そしていま、「顧客本位」が叫ばれるようになり、IFAという新たな勢力が存在感を強める。



◎どこから収入を得ている?

IFA」について「既存の金融機関に属さず、顧客のライフプランに沿って長期の資産運用について助言する」との説明はある。だが、どういう仕組みで「ジャパンアセットマネジメント」が収入を得るのかは不明だ。上記の説明だと「助言」に対して対価を得る仕組みにも見えるが、何とも言えない。これでは困る。

2番目の事例も見てみよう。

【日経の記事】

「2006年の創業時からの悲願だった」。IFA大手ガイア(東京・新宿)の中桐啓貴社長は16年に実施した報酬体系の転換を振り返る。顧客が投信などを売買するたびに手数料を取っていたのを、預かり資産の1.8%相当を年間報酬として得るよう改めた。資産規模が一定水準を超え、この報酬体系でやっていけると判断したからだ。

違いは大きい。顧客の資産が増えれば報酬も増えるため、業者側も長期の運用成績を重視するようになる。手数料を狙った短期売買は成立しない。報酬体系を変えた後、資産の年間の増加額は約100億円とそれ以前の約3倍に膨らんだ。「証券会社の営業マンは家計の状況も知らずに、新しい金融商品を売ろうとするだけ」。こんな不満を抱えてきた投資家たちを引きつけたのだ。



◎10年間は従来のやり方で…

ガイア」に関しては、創業が2006年で「顧客が投信などを売買するたびに手数料を取っていたのを、預かり資産の1.8%相当を年間報酬として得るよう改めた」のが16年らしい。つまり10年間は「株式や投資信託の短期売買を押しつけ、『取引手数料の形で顧客の資産を奪っていく』(大手証券OB)ような営業手法」だった可能性が残る。

その時も「ガイア」はIFAだったはずだ。だとするとIFAについて「顧客のライフプランに沿って長期の資産運用について助言する」などと顧客の味方のように説明するのが適切なのか疑問が湧く。

3番目の事例もよく分からない。

【日経の記事】

「相場を語らない」。IFAのファイナンシャルスタンダード(東京・千代田)が貫くスタイルは独特だ。毎月数回開くセミナーでは株価の先行きを占うような内容は排除し、投信の仕組みなど相場動向に関係なく役立つテーマに専念する。反応は上々で、管理する資産は18年1月末で280億円強と過去1年で2倍以上に増えた。



◎これも、どこで稼いでる?

ファイナンシャルスタンダード」の収益源も謎だ。「毎月数回開くセミナー」の参加料で稼いでいるのか、それとも「管理する資産」から手数料を取っているのか。判断する材料がない。
長崎県立諫早高校(諫早市)※写真と本文は無関係です

株価の先行きを占うような内容は排除し、投信の仕組みなど相場動向に関係なく役立つテーマに専念する」セミナーを開くだけで、顧客がどんどん資産運用を任せてくれるような書き方も怖い。本当にそんな簡単な話なのか。


IFAについては、日経ヴェリタスの「独立系FA 存在感じわり」(2016年10月30日)という記事を参考にしてみたい。そこでは以下のように解説している。

【日経ヴェリタスの記事】

日本のIFA制度は「貯蓄から投資」をスローガンに掲げる政府の政策の下、2004年にスタートした。独立した営業マンや仲介業者であるIFAが、証券会社と提携して金融商品の販売を仲介する仕組みが主流だ。狙いは顧客目線の徹底だ。IFAは必ずしも証券会社の営業方針に従う必要はないため、グループの運用会社の投信など、証券会社側が売りたい商品ばかり提案されるリスクが少ない。また、既存の金融機関のように営業担当者が頻繁に変わらない利点もある。


◎「証券会社と提携」するのならば…

この記事ではIFAについて「独立した営業マンや仲介業者であるIFAが、証券会社と提携して金融商品の販売を仲介する仕組みが主流だ」と解説している。特定の「証券会社」と組んで、そこから手数料を受け取るのであれば、「顧客本位」の営業姿勢になるとは限らない。「証券会社」が売りたい商品を顧客に薦めるインセンティブは当然に出てくる。

IFAを取り上げるのならば、その辺りはしっかりと論じてほしい。記事で紹介した「ファイナンシャルスタンダード」のホームページを見ると「なぜ相談は無料なの?」との問いに対し「弊社は楽天証券の仲介業者かつ、各社保険会社の代理店であり、報酬や契約手数料からの収益で運営している為、ご相談を無料でお受けすることが出来ます」との回答が載っている。

この場合、投資信託などでは「楽天証券」にとって都合のいい商品を薦められても不思議ではない。「そうならない仕組みになっている」と筆者が考えるのならば、それを記事で解説すべきだ。

「IFAならば必ず顧客本位」と取れるような記事の書き方をするのは、読者(金融業界の関係者を除く)のためにはならない。記事を読んで「IFAに任せれば顧客本位なので安心なんだな」と誤解する読者が出てこないか心配になる。


※今回取り上げた記事「アセットマネジメント新世紀~脱短期が生む商機(3) 報酬、顧客資産と連動 運用指南、独立系が台頭
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180308&ng=DGKKZO27701870V00C18A3EE9000

※記事の評価はD(問題あり)。

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