吉野ヶ里歴史公園(佐賀県吉野ヶ里町) ※写真と本文は無関係です |
さらに深刻なのは、早期退職の対象年齢が年々低下してきていることだ。本誌の集計によると、11年から15年までの5年間で、希望・早期退職を実施した主な上場企業のうち、38%で最も多かったのは40歳以上だった。
バブル経済崩壊以後の「失われた20年」では、早期退職者は主に50歳以上で失業者の3割近くに上っていた。近年はそれが大きく低下していることになる。
40歳といえば、バブル経済の恩恵を知らず、就職氷河期に企業に入り、伸び悩む賃金にも耐えながら、仕事に汗を流してきた世代だ。
そうして働き盛りを迎えた世代にも、早期退職の波が容赦なく襲う厳しい現状を見ると、「逃げ切り世代」のシニア層はどこまでもついているといえる。
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上記の説明では、まず2011~15年のデータを示している。しかし、それ以前の比較可能な数値はない。「バブル経済崩壊以後の『失われた20年』では、早期退職者は主に50歳以上で失業者の3割近くに上っていた」とは書いてある。しかし、これでは記事で示した11~15年のデータとの比較ができない。ゆえに「近年はそれが大きく低下している」との解説には裏付けが乏しい。
そもそも「早期退職者は主に50歳以上で失業者の3割近くに上っていた」との説明が謎だ。「失業者の3割近くに上っていた」のは「早期退職者」なのか「50歳以上の早期退職者」なのか微妙だが、いずれにしても失業者全体の3割近いというのは常識的に考えて多すぎる。記事で言う「失業者」は「早期退職した失業者」のつもりかもしれないが、そうは書いていない。
さらに言えば「50代から40代まで低下 低年齢化進む退職勧奨」という見出しも引っかかる。上記の早期退職者の話を基に「低年齢化進む退職勧奨」としているのだろう。しかし「希望・早期退職=退職勧奨」とは言えない。好条件で希望退職を募集して、特に退職勧奨はせずに募集を締め切る場合も珍しくないはずだ。
最後の「『逃げ切り世代』のシニア層はどこまでもついている」という説明も苦しい。記事では「『失われた20年』では、早期退職者は主に50歳以上」と書いていた。そして、90年代に早期退職で仕事を失った50歳代は今やシニア層だ。この層を「逃げ切り世代」に分類すると、整合性の問題が生じる。
続いては「2000年から5年間の購入者は数少ない逃げ切り」という住宅関連の記事を見ていく。この記事の説明も結局、解読できなかった。
【ダイヤモンドの記事】
逃げ切れなかった人たちがこれから住宅を買う際にはどうすればよいのか。
まずは築年数が古く、好立地の中古マンションを探してみよう。実は築20年に比べて築40年の方が、価格が高いケースがある。当時の物件は都心の高級住宅地にあることが多く、資産価値がこれ以上下がりにくいためだ。
逃げ切れない世代の間では最近、中古マンションの人気が高まっている。建設時期を選んで買えば、「ミニ逃げ切り」となれるかもしれない。
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しかし、都心の高級住宅地にあるという条件は築20年の物件も同じだ。それが理由で「資産価値がこれ以上下がりにくい」のだとすると、築20年も価格は下がりにくくなるはずだ。なのに、なぜ築40年の価格の方が高くなるのか。築20年より築40年の方が価格が高くなるなら、築年数以外で両者に何か差があるはずだ。それを明示してくれないと、情報としての意味がない。
この記事でもう1つ指摘しておく。
【ダイヤモンドの記事】
最も資産価値が高まったバブル期の1989年は、79年の新築坪単価160.5万円に対し、中古は817.2万円まで伸びた。仮に70平方メートルなら、3370万円だったものが1億7332万円まで値上がりしたことになる。
高度経済成長で不動産価格は右肩上がりの時代。物件価格もまだ安く、相対的に10年後の価値が上がる時期が続いた。
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一般的に、1979~89年は高度経済成長期ではない。高度成長は70年代前半で終わっている。上記のような書き方をすると「筆者はちゃんと分かって書いているのかな?」との疑念を読者に生じさせてしまう。
今回の特集には他にもツッコミどころが多いが、さらに長くなるのでこの辺りで終わりとしたい。特集の完成度としては日経の1面企画レベルまで下がってきている印象がある。ダイヤモンド編集部のメンバーには強い危機感を持ってほしい。一昔前のダイヤモンドであれば、こんなことはなかった。
※特集の評価はD(問題あり)。竹田孝洋副編集長への評価はDを維持し、中村正毅記者、宮原啓彰記者、大根田康介記者については暫定Cから暫定Dへ引き下げる。田島靖久副編集長への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。田島副編集長への評価に関しては「ダイヤモンド編集長へ贈る言葉 ~訂正の訂正について」を参照してほしい。
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