2015年10月10日土曜日

「When」に触れない日経企業ニュースの強固な“伝統”

企業ニュースで将来のことを書いているのに「いつから」に触れない記事が、日経では当たり前のように出てくる。組織に染み付いた強固な“伝統”であり、改善は非常に難しい。若手のうちに、記事の書き方の基礎として身に付けていくしかないのだが、「When」が抜けていても気にならない記者・デスクが数多くいるだけに、きちんとした教育を受ける機会が少ない。ゆえに「悪しき伝統」が引き継がれてしまう。
大濠公園(福岡市中央区) ※写真と本文は無関係です

10日の日経朝刊企業面にも「When」の抜けた記事が複数あった。そこからも日経にとっての「当たり前」だと感じられる。

まずは「出光が有機EL材料増産  韓国で能力2.5倍 LG新工場に対応」という記事の全文を見てみよう。「有機ELパネルの材料の生産能力を韓国で従来の2.5倍に引き上げる」という内容だが、最後まで読んでも「生産能力を引き上げる時期」は分からないはずだ。


【日経の記事】

出光興産は有機ELパネルの材料の生産能力を韓国で従来の2.5倍に引き上げる。提携先の韓国LGディスプレーが1月に新工場を稼働させるなど生産を拡大していることから、需要増に対応する。

出光は韓国で有機ELパネルを青や赤、緑色に光らせるための発光材料を生産している。数億円を投じ、原材料に含まれる不純物を取り除く設備などを導入する。

生産能力を韓国で年間5トンに引き上げ、静岡県にある日本国内の工場と合わせて合計7トンに増やす。

有機EL関連部門の売上高は2014年度に約120億円と前年度比5割増に拡大した。大型の有機ELパネルの量産は難しいとされてきたが、LGが70型を超える大型テレビの販売を始めるなど製品群が徐々に増えている。

出光は韓国で技術者を数人採用し、有機EL材料の品質評価なども現地でできるようにする。これまでは日本で実施してきたが、韓国で手掛けることで顧客のニーズに合わせた有機EL材料の開発や量産化までの期間の短縮を目指す。


できれば、韓国のどこ(市町村)にある何という名称の工場かも記事に入れたい。「有機EL材料の品質評価なども現地でできるようにする」時期も入れた方がいい。「大型の有機ELパネルの量産は難しいとされてきたが、LGが70型を超える大型テレビの販売を始めるなど製品群が徐々に増えている」といった背景説明をするのは、その後だろう。

では、「When」が抜けたもう1つの記事「日本特殊陶業 水素漏れセンサー量産 燃料電池車向け」も全文を見てみよう。


【日経の記事】

日本特殊陶業は燃料電池自動車(FCV)向けの水素漏れ検知センサーを製品化する。小牧工場(愛知県小牧市)に量産ラインを設けた。FCVの燃料の水素は臭いや色がないため、同社のセンサーは漏れた際のわずかな温度変化を検知して引火を防ぐ。トヨタ自動車に続いてホンダもFCVの発売を予定しており、関連部品の市場拡大が見込めると判断した。

同社のセンサーは触媒を使わず、セ氏100度からマイナス30度で稼働するのが特徴。FCV向けは寒冷地から酷暑まで環境に対応する必要があるためで、0.2~2%の低濃度の水素を微小な誤差内で検知する。


FCV向けの水素漏れ検知センサーを製品化する」と書いてはみたものの、製品化の時期には触れていない。「量産ラインを設けた」とも書いているが、いつから量産するのかはやはり謎だ。

日経の「Whenが抜ける記事」には2種類ある。圧倒的に多いのが「無意識型」で、何も考えていないタイプだ。一方で「確信犯型」もいる。過去の話では記事として弱いとの判断で、あえて「過去形」を避けるものだ。すでに参入済みなのに「参入する」などと書くのだから、「いつ」が抜けるのは当然だと言える。

上記の日本特殊陶業の場合、「確信犯型」の可能性も感じる。「量産ラインを設けた」のにいつまでも遊ばせておくとは思えないので、既に量産に入っている(=既に製品化できている)のかもしれない。

「確信犯型」でも「無意識型」でも、記事に問題があるのは当然だ。さらに言えば、「製品化する」と書いたのなら、販売目標ぐらいは入れたい。センサーの特徴についても、他社製品と比べて何が強みなのかは言及してほしい。

※2つの記事の評価はD(問題あり)。

0 件のコメント:

コメントを投稿