2015年10月29日木曜日

詰め込みすぎ? 最終回も苦しい日経1面「フィンテックの衝撃」

日経朝刊の苦しい1面企画「フィンテックの衝撃」がようやく最終回となった。第4回の「周回遅れの日本 巻き返し 官民連携で」もやはり苦しい。その原因は第一に詰め込みすぎだ。十分な説明をする前に次々と話題を変えていくので、どれも疑問が残ってしまう。「たくさん取材をしました」と社内にアピールするために事例を詰め込みたくなるのは痛いほど分かる。ただ、それが読者の利益にならないことも肝に銘じてほしい。

大濠公園(福岡市中央区) ※写真と本文は無関係です
では、気になった点を列挙していこう。

◎みずほは「店舗やATMだけ」?

【日経の記事】
 
「みずほは無知だと自覚している。みなさんと一緒にいいサービスを提供していく」。14日、みずほフィナンシャルグループが東京都内で開いたフィンテックイベントの会場で岡部俊胤副社長はベンチャー企業関係者に語りかけた。

 みずほの稼働口座は1600万。店舗やATMだけでは対応しきれない多様なニーズを持て余していた。切り札とみるのがフィンテック企業を巻き込んだオープンイノベーションだ。岡部副社長は「全てのサービスを自社で手掛ける時代ではない」と言い切る。背景には強い危機感がある。

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これだけ読むと、現状のみずほは「店舗やATMだけ」で顧客のニーズに対応しているように思える。しかし、実際には自らネットバンキングサービスを提供しているはずだ。自らのネットバンキングを他社も巻き込んでさらに進化させようとしているのだろう。しかし、記事からはそうは読み取れないし、具体的に何をどう進化させようとしているのかも不明だ。


◎せっかくの「衝撃」なのに…

店舗費、人件費、貸倒率ともにゼロ――。みずほの佐藤康博社長は4月、中国・浙江省のアリババ集団本社を訪れ、常識を覆す金融モデルに言葉を失った。中国のネット決済市場で5割のシェアを握るアリババでは数億人の利用データが秒単位で蓄積されていた。アリババは決済で得た顧客データを駆使し、小口金融に乗り出している。「データ処理ではかなわない。テクノロジーを持つ企業と勇気を持って組めるかが問われている」(佐藤社長)

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店舗費はともかく「人件費、貸倒率ともにゼロ」が本当ならこれこそ「フィンテックの衝撃」だろう。しかし、なぜ「人件費、貸倒率ともにゼロ」なのか謎だ。顧客データをどんなに細かく分析しても、小口金融で「貸倒率ゼロ」は不可能だろう。融資件数が非常に少ないなら話は別だが…。人件費に関しても、業務委託などで丸投げしない限り、ゼロは難しそうだ。なのに説明らしい説明は「決済で得た顧客データを駆使」ぐらいだ。そう考えると、「人件費、貸倒率ともにゼロ」は本当なのかと疑いたくなる。


◎米国の金融機関が1兆円投資?

【日経の記事】

「銀行に取って代わろうと、頭脳とカネに満ちた何百ものベンチャーが出てきている」。米銀最大手JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン最高経営責任者が株主に出した手紙の一文だ。文面からにじむのはフィンテックへの警戒感。協業こそが最良の防衛策とばかりに、米国ではリーマン・ショック後からフィンテック企業への出資が始まり、2014年の投資額は1兆円規模に上る。片や日本は50億円強だ。

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協業こそが最良の防衛策とばかりに」と書いてあるので、「米国では既存の金融機関がフィンテック企業への出資に積極的で、14年には金融機関による投資額が1兆円規模に達した」と解釈したくなる。しかし、「金融機関以外も含めた米国全体で1兆円規模の投資額」と言っているようでもある。調べてみると後者のようだ。上記の書き方では分かりにくいし、「1兆円規模」が金融機関の出資額ではないのならば「協業こそが最良の防衛策とばかりに」出資を進めているのかどうか微妙だ。


◎日本との比較は?

【日経の記事】

英国のキャメロン首相はこの夏、フィンテック企業を引き連れて訪れた東南アジア諸国で、「英国はフィンテックで世界をリードする」と力強く宣言した。英フィンテック業界の売上高は4兆円に迫る。英国は官民を挙げ有望市場での主導権を取りにきている。

フィンテックへの投資や事業化で周回遅れの日本。巻き返しは可能なのか。

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「投資」はいいとしても、日本が「事業化で周回遅れ」かどうかは記事で描けていない。例えば「英フィンテック業界の売上高は4兆円に迫る」という数字は出てくるが、日本の売上高が分からないので「周回遅れ」だとは実感できない。本来なら「なぜ周回遅れになったのか」まで分析すべきだ。もちろん、そこを論じれば、他の部分は大胆に捨てなければならない。今回のように事例をたくさん詰め込んでいては、結局どれも中途半端になってしまう。


※連載全体の評価はD(問題あり)。取材班には、山腰克也、岐部秀光、高井宏章、羽田洋子、大和田尚孝、小高航、弟子丸幸子、川上穣、馬場燃、木原雄士、関口慶太、小滝麻理子、原島大介、名古屋和希、兼松雄一郎、松本裕子、塩崎健太郎の各氏が名を連ねているが、ここでは筆頭デスクだと思われる山腰克也氏の評価を暫定でDとする。

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