2015年10月22日木曜日

東洋経済「GMS撤退戦が始まる」に足りない分析

東洋経済10月24日号の深層リポート「GMS撤退戦が始まる」(42~47ページ)は悪くない出来だが、分析にやや物足りなさを感じた。「『GMSの時代は終わった』。流通業界の定説がいよいよ現実局面へ移ってきた」と冒頭で言い切っているが、記事を読む限りそうは思えなかった。それはメインの記事の最後に表れている。

福岡城跡(福岡市中央区) ※写真と本文は無関係です
【東洋経済の記事】

地方のGMSも強気だ。滋賀を地盤に好調な業績を続ける平和堂の夏原平和社長は、ユニーの大量閉鎖について「弊社には有利に働くだろう。10月にもユニーさんの滋賀で閉店する店があるが、うちの売り上げは上がると思う」とほおを緩める。

中国、四国と九州で「ゆめタウン」などを展開するGMSのイズミの山西泰明社長は「ドミナント(地域集中出店)で圧倒的な地域一番店を築いてきた」としたうえで、他社店舗閉鎖による居抜き物件にも興味を示す。店舗跡地の奪い合いは熾烈さを増していく。


記事では、イトーヨーカ堂とユニーグループ・ホールディングスが業績低迷を背景に閉店へと動いていることを受けて「撤退戦が始まる」と書いたのだろう。しかし、上記のくだりを読む限り、同じGMSでも平和堂やイズミは好調なはずだ。だとしたら「GMSの徹底戦が始まる」のは、負け組に限った話ではないか。業績に勢いのないイオンにしても、記事によれば「閉鎖は基本的に考えていない。改装を中心に、すべて作り変えてピカピカにしていく」とコメントしている。これまた「撤退戦」には当面なりそうもない。

そもそもGMSが全体として不振なのか微妙だ。「GMSは日本の流通業の中核を担ってきたが、コンビニエンスストアや専門店の台頭で、年々その影は薄くなっていた(44ページ図)」と記事では解説している。その44ページの図を見ると、90年代以降では確かに「ジリ貧」だが、近年は2010年を底に総販売額がやや上向いている。

イオン、ヨーカ堂、ユニーが不振で、平和堂、イズミが好調だとすれば、なぜ明暗が分かれているかを分析してほしい。そこに触れないで「『撤退戦』が始まる」と訴えてもあまり意味がない。あくまで「ダメなGMSの撤退戦」に過ぎないからだ。

記事中にヒントがないわけではない。イズミ、平和堂は出店地域を広げすぎていないことがプラスに働いているようだ。ユニーも地盤の中京地域では3~8月の地域別売上高が「3.3%増」と書いてある。ヨーカ堂にして「閉めるとすれば地方に集中する」ようなので、店舗の多い首都圏ではそこそこの業績だと推測できる。その辺りを掘り下げれば、もっと優れた分析記事になったはずだ。

最後に1つ付け加えておく。気になったのは以下のくだりだ。


【東洋経済の記事】

11月下旬には東京・板橋でGMS同業のイズミの閉鎖店舗に「イオンスタイル」を開業予定だ。くしくもイオンにとって手薄な都心部の店舗であり、首都圏に多いヨーカ堂の大量閉鎖もチャンスと映る。


「都心」とは「大都市の中心部」という意味だ。「東京都心」の範囲を明確に決められるわけではないが、「板橋」を「都心」と見なすのは無理がある。上記の場合、「手薄な都市部」「手薄な都市圏」などとすれば問題はない。

※総括すると決してダメな記事ではない。筆者らがもう少し工夫すれば、「さすが」と読者をうならせる記事にもできただろう。期待も込めて、記事の評価はC(平均的)とする。田野真由佳記者の評価は暫定でCとする。冨岡耕記者の評価は暫定Cを据え置き、堀川美行記者は暫定Bから暫定Cへ引き下げる。

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