2015年10月22日木曜日

市場分析は? 日経 高橋里奈記者「ウォール街ラウンドアップ」

22日の日経夕刊マーケット・投資1面に載った「ウォール街ラウンドアップ~若き新宰相、試される経済手腕」は記者の怠慢が目立つ記事だった。「ウォール街ラウンドアップ」と言いながら、NY株ではなくカナダの話なのは良しとしよう。しかし、筆者の高橋里奈記者はカナダの株式市場に関しても、分析らしい分析はしていない。カナダの総選挙や次期首相についてあれこれ書いて、記事のほとんどを埋めている。これで「一丁上がり」ならば仕事としては楽だろうが、書き手としての資質には疑問符が付く。

大濠公園(福岡市中央区) ※写真と本文は無関係です
記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

北米で今週最大のニュースといえば、19日のカナダ総選挙だった。10年もの長期政権を担ってきた保守党が敗北し、野党第2党の自由党が圧勝。若くルックスの良いジャスティン・トルドー党首を担いだ「トルドーマニア」旋風が巻き起こった。投開票翌日の20日はカナダ・トロント証券取引所の株価指数が83.54ポイント高で終え、市場も政権交代を歓迎した

43歳、イケメン。リベラルな雰囲気をまとうトルドー氏は「真のチェンジ(変化)」を掲げ、かつてのオバマ米大統領をほうふつとさせた。女性や若者、移民まで幅広く支持されたことが勝利につながった。

「ほとんどの国民、政治の専門家ですらトルドー氏が過半数の議席を勝ち取るとは思ってもみなかった」(50代女性)

保守党、自由党、新民主党の三つどもえの闘いが予想されたが、終盤戦に入りトルドー人気に火が付いた。自由党は11年の前回選挙(下院定数308議席)で34議席にとどまったが、今回は定数338議席のうち184議席を獲得した。

父親の故ピエール・トルドー氏も1960~80年代に首相を務めた。若者を中心に根強いファンを生んだ「トルドーマニア」は父が元祖だ。「カナダにも米国のケネディ家やブッシュ家のような『王朝』が生まれた」と騒ぐ人もいる。こうした「政界のサラブレッド」というイメージの一方、スノーボードの指導員や高校教師という経歴も市民に親近感を与えた

マリフアナの合法化過激派組織「イスラム国」(IS)への米国主導の空爆への反対――。抜本的な政治変革を掲げて広大な北米の大地を駆け巡る若い党首の姿勢を歓迎する声は多い。

だが経済界では不安の声も根強い。「低所得層へのばらまきで財政は悪化するだろう」。あるビジネスマンは漏らす。自由党は投開票当日までテレビCMで低所得者層に対する所得向上を約束すると繰り返し訴えた。

環太平洋経済連携協定(TPP)を推進してきた保守党のハーパー前政権に対し、トルドー氏は「内容を検証する」として選挙中に賛否を明確にしなかった。20日にオバマ米大統領との電話協議で「TPPを前進させる」ことで一致したが、検証のために締結手続きが遅れる可能性もある。TPP参加国のうちカナダの国内総生産(GDP)は米日に次ぐ3位。カナダの批准が遅れれば悪影響を与えかねない。

原油先物の指標、WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)は21日、1バレル45.20ドルと08年7月に付けた最高値の3分の1以下で低迷が続く。エネルギー革命で潤ってきたカナダ経済も原油安で頭打ちだ。

20日には政権交代をひとまず歓迎したカナダの証券市場も、21日は資源関連株や製薬株などが売られ反落した。資源国の経済をどう成長路線に戻すか。若き新宰相の手腕が試される


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カナダ株に関しては「投開票翌日の20日はカナダ・トロント証券取引所の株価指数が83.54ポイント高で終え、市場も政権交代を歓迎した」「20日には政権交代をひとまず歓迎したカナダの証券市場も、21日は資源関連株や製薬株などが売られ反落した」と書いてある程度だ。それで「資源国の経済をどう成長路線に戻すか。若き新宰相の手腕が試される」と締められても、記事の安易さが印象に残るだけだ。

市場はなぜ政権交代を歓迎したのか。新政権がどういう政策を打ち出すことを市場は求めているのか(あるいは恐れているのか)。その辺りさえ高橋記者は触れていない。他社の報道では「マリファナ合法化が進むと見て、関連株が買われた」とも伝えていた。一方、高橋記者は政権交代が市場に与える影響など最初から分析する気もなさそうだ。

カナダにも『王朝』が生まれたと騒ぐ人もいる」とか「スノーボードの指導員や高校教師という経歴も市民に親近感を与えた」といった話は、今回の記事には必要ない。そんな市場と関連の薄い話で行数を使う余裕があるのならば、市場に関する分析をもっと盛り込むべきだ。例えば「低所得者へのばらまき」は株価にプラスなのかマイナスなのかでもいい。TPPと株価を絡めることもできただろう。なのに、なぜ最初からやってみようともしないのか。それが残念だ。

ついでに言うと、株価指数が「83.54ポイント高」と書いても、多くの読者はどの程度の上昇なのかイメージしにくい。上昇率を入れてあげた方が親切だ。また、「『トルドーマニア』は父が元祖だ」と書くと、「父=最初のトルドーマニア」になってしまう。誤解する人は少ないだろうが、上手い書き方ではない。

マリフアナの合法化」と「過激派組織『イスラム国』(IS)への米国主導の空爆への反対」を「抜本的な政治変革」の例として挙げているのも理解に苦しんだ。これらを「抜本的な政治変革」と呼ぶのならば、もう少し説明が必要だろう。普通は「マリフアナの合法化」や「空爆反対」を「政治改革」とさえ考えないはずだ。


※記事の評価はD(問題あり)。ニューヨーク支局の高橋里奈記者の評価も暫定でDとする。

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