2015年10月3日土曜日

日経 松崎雄典記者 「スクランブル」での奇妙な説明(2)

3日の日経朝刊マーケット総合1面に載った「スクランブル~荒れ相場、枯れる商い 投機筋も逃げ出す悪循環」に関して、さらに指摘していく。

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                  ※写真と本文は無関係です
◎誰のコメント?

【日経の記事】

株式相場は今週も上に下にと値動きが激しい展開だった。2日は日経平均株価が2円71銭高と静かなように見えて、日中の高値と安値の差(237円)は1~7月平均を50円以上上回る。懸念されるのは荒れ相場が続き、売買を控える投資家が増えていることだ。相場の変動を嫌って資金が逃げ出し、それがさらに値動きを荒くする悪循環が起きている。

株は魅力が低下したということ」。欧州最大のヘッジファンド、英ブレバン・ハワードから株式運用の著名ファンドマネジャーが退社したことが9月に明らかになった。事情を知る国内の年金関係者は「成績不振による解雇」と言う。

為替や債券を得意とするブレバンだが、2013年以降は円売り・日本株買いの「アベトレード」を仕掛けるなど株式の比率を高めていた。だが今年の主要国の株式相場は軒並み下落に転じ、運用成績が悪化。60人規模の運用部隊のうち株式の担当者が減っている


株は魅力が低下したということ」というのが誰のコメントか判然としない。「国内の年金関係者」ぐらいしか候補者はいないが、コメントの主が断定できるような書き方にはなっていない。

事例としての必要性も疑わしい。最初の段落を読むと「相場の変動を嫌って資金が逃げ出し、それがさらに値動きを荒くする悪循環」について論じるのだろうと思ってしまう。しかし、ブレバンの話は「値動きの荒さを嫌った資金離散」でもなさそう。単に「世界的な株安で運用成績が悪化したヘッジファンドでファンドマネジャーが解雇された話」ではないか。付け加えると「60人規模の運用部隊のうち株式の担当者が減っている」との説明も雑すぎる。どの程度の減員なのかは触れるべきだ。


◎「乱高下」には上げもあるが…

【日経の記事】

東証1部の売買代金は連日2兆円を超え、売買は一見、活況にみえる。だが現場のトレーダーの感覚は違う。野村証券の久保昌弘セールス・トレーディング一課長は「値動きのわりに売買が膨らまない。個人の押し目買いも大幅に減り、薄商いの中、値段がずるっと落ちてしまう」と話す。

実際、売買の厚みは落ちている。東証1部売買代金を日経平均の日中高値と安値の差で割って1円変動当たりの売買代金をみると、従来は100億円を超えていたが、9月は50億~100億円に減少している


相場が乱高下しているのであれば、上昇時には買いが大幅に優勢となっているはずだ。上記の説明では、その視点が抜けている。薄商いの中で有力な買い手がいなければ、一方的な下げ相場となるはずだ。

1円変動当たりの売買代金」という数字で流動性の低下を印象付けようとしているのも無理がある。常識的に考えれば、日経平均の1日の変動幅が100円であろうと200円であろうと、売買代金が同水準であれば市場の流動性に大きな変化はないと考えるべきだろう。


◎「電子取引=プログラム売買」?

【日経の記事】

金融当局も流動性低下への警戒感を強めている。国際通貨基金(IMF)は10月の国際金融安定性報告書で「資産市場間の流動性ショックの波及の可能性が高まっている」と指摘した。

報告書が指摘したのは電子取引の拡大だ。10年の米国株や14年の米国債で起きた突然の価格変動を取り上げ、「瞬時に流動性が枯渇してしまうリスクがある」と分析。流動性の供給役が金融機関から電子取引に代わったが、電子取引は突然売買を停止するリスクがあるのが確認されている。

日本株も電子取引によるプログラム売買の比率が高まる投機筋が去り、個人も去ると多様な売買がなくなる価格が思わぬ動きをする市場の新たな火種になりかねない


個人投資家のネット取引も「電子取引」のはずだ。記事でいう「突然売買を停止するリスク」とは、取引システムの障害などではなく、「投資家が一斉に売買から手を引いてしまうこと」を指しているのだろう。しかし、個人のネット取引も含む電子取引ならば、すべての投資主体が同時かつ一斉に売買を控える事態は考えにくい。「電子取引は突然売買を停止するリスクがあるのが確認されている」と松崎記者は言うが、そういうリスクがあるとしても、電子取引の一部(高頻度取引など)に関してではないか。その辺りが記事ではきちんと説明できていない。

最後の段落の説明も奇妙だ。プログラム売買の比率が高まると投機筋も個人投資家もいないくなるような書き方を松崎記者はしている。しかし、プログラム売買を手掛けているのは基本的に投機筋だと思える。「プログラム売買の比率が高まる」のならば、投機筋は存在感を持ち続けるだろう。

価格が思わぬ動きをする市場の新たな火種になりかねない」との説明も引っかかった。この書き方だと「まだ火種にはなっていない」と解釈できるが、「思わぬ動き」はまだ起きていないのか。プログラム売買も株価乱高下も増えているのに、「将来の懸念材料」という認識しか松崎記者が持ってないのも気になった。

※記事の評価はD(問題あり)。松崎雄典記者の評価もDを維持する。

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