2015年10月23日金曜日

どこが「新型債券」? 日経「三菱UFJ 高利回りで資本増強」

23日の日経朝刊経済面に載った「三菱UFJ、高利回り債で資本増強 初の公募、1500億円」という記事は、説明に不十分さを感じた。三菱UFJが発行する債券がなぜ「新型債券」なのか、記事中の説明ではなかなか伝わらないだろう。問題のくだりは以下のようになっている。

シーサイドももち海浜公園(福岡市早良区) ※写真と本文は無関係です
【日経の記事】

三菱UFJフィナンシャル・グループは新金融規制「バーゼル3」で自己資本に算入できる新型債券を公募で発行する。事業会社や学校法人も参加できる公募債での資本増強は大手金融機関で初めて。月内に1500億円を調達し、今後も年数千億円程度の発行を計画している。2%台半ばの高利回りになる見通しで運用難の投資家に強い需要があると判断した。

新型債券は「永久劣後債」と呼ばれる。普通株などで算出される自己資本比率が5.125%を下回ると元本が削減される仕組みだ。比率が戻って一定条件を満たせば元本は回復するが、リスクが高いため同じ格付けの一般社債と比べ利回りは2%程度上乗せされる。元本1億円で発行する。

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『バーゼル3』で自己資本に算入できる新型債券を公募で発行する」「新型債券は『永久劣後債』と呼ばれる」という説明だと、知識の乏しい人は「永久劣後債ってこれまでにはなかった債券なんだ」と思ってしまうだろう。しかし、記事に付けた用語解説では「高い自己資本比率を求められる金融機関が発行するケースが多い」としているので「新型」とは考えにくい。併せて読むと、混乱してもおかしくない。

ではなぜ「新型」かと言うと、バーゼル3で資本として認められるための「特約」が付いているからだろう。記事で言えば「普通株などで算出される自己資本比率が5.125%を下回ると元本が削減される仕組み」が新型と称する根拠になるはずだ。とは言え、あくまで「永久劣後債」なので、個人的には「新型債券」だとは思わない。記者が「新型債券だ」と感じたのなら、それはそれでいい。しかし、「なぜ『新型』と呼べるのか」はしっかり説明してほしかった。

ROEの説明も不十分だと思えた。


【日経の記事】

バーゼル3は金融機関に高い自己資本比率を求める一方、新型債券を株式とほぼ同じ「中核的自己資本」(Tier1)に算入することを認めている自己資本利益率(ROE)を下げずに質の高い資本を増やせるため、金融機関による発行の増加が見込まれている。

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新型債券は自己資本への算入が認められているとすると、新型債券の発行は自己資本の増加要因、つまりROEの低下要因になるはずだ。では、なぜ上記のような書き方になったのか。新型債券はバーゼル3では「自己資本」だが、会計上はあくまで「負債」となるので、「ROEを下げずに質の高い資本を増やせる」という話になるのだろう。そこに触れないと、まともな説明とは言えない。

最後の段落にも説明不足が見える。


【日経の記事】

三菱UFJは3月に生命保険会社など投資家を絞った私募債を発行し、三井住友とみずほの両フィナンシャルグループなどが追随した。この際の引き合いが想定以上に強かったため、公募で発行できると判断した。

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3月に「新型債券」を私募形式で発行したのだろう。しかし、記事には「私募債」と出ているだけで、今回発行するのと同じタイプかどうかは明確ではない。例えば「三菱UFJは生命保険会社などに投資家を絞った私募形式で3月に新型債券を発行し~」とすれば、問題は解消する。


※記事の評価はD(問題あり)とする。

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