2015年10月28日水曜日

企業にデフレ心理? 日経 清水功哉編集委員への疑問

日経の清水功哉編集委員が書く記事は基本的にツッコミどころが少ない。独自の視点を提供してくれるわけではないが、穴が少ないという点では日経の編集委員の中でも高いレベルにある。ただ、27日の夕刊マーケット・投資2面に載った「マネー底流潮流~問題は企業のデフレ心理」は納得できない中身だった。 見出しにもあるように「問題は企業のデフレ心理」と清水編集委員は訴えるものの、「企業部門の根強いデフレ心理」があるのかどうか怪しいと思えた。

大濠公園(福岡市中央区)の亀 ※写真と本文は無関係です
問題のくだりは以下のようになっている。

【日経の記事】

賃上げが十分に進まない裏側には、原油安や中国経済減速を背景とした企業部門の根強いデフレ心理がありそうだ。9月の日銀全国企業短期経済観測調査(短観)で、企業の消費者物価上昇率見通し(全規模全産業、消費増税など制度変更の影響を除く)は1年後が1.2%。3カ月前と比べると0.2ポイント低下、1年前比では0.3ポイント下がった。3年後、5年後も低下した。

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1年後の物価上昇率見通しが「1.2%」だと「企業部門の根強いデフレ心理」があると言えるだろうか。「企業は緩やかな物価上昇を予想している」と解釈すべきだろう。デフレと言うよりはインフレだ。しかも1年前には1.5%予想だったのならば、「1年前の段階でも企業部門のデフレ心理はかなり払拭されていた」と考えられる。

企業部門の根強いデフレ心理」があるのならば、企業の物価予想はマイナスになるはずだし、かなり甘めに見てもゼロ近辺だろう。しかも記事では「円安などを背景に家計に身近な商品の値上げが増えている」とも書いている。企業部門を全体として見れば、デフレ心理よりインフレ心理が上回っているはずだ。記事では企業のデフレ心理を「岩盤」に例えているが、ちょっと大げさすぎる。

清水編集委員によると「岩盤」を崩すためには「金融緩和だけでは不十分」で、「政府は法人減税や規制緩和などで企業が支出をしやすい環境を整える」必要があるらしい。しかし、この主張にも同意できない。記事の後半部分を見てみよう。



【日経の記事】

黒田東彦日銀総裁は語る。「企業は今や史上最高益を享受し、労働市場は完全雇用状態だ」「『これだけの収益水準の割に設備投資や賃金の伸びが鈍い』といわれることも事実だ。背景には、長く続いたデフレ下で企業や家計のマインドセットの転換に時間がかかっていることがある」

安倍晋三政権にも同様の問題意識があり、企業に積極的な設備投資などを促す「官民対話」を始めた。ただ、国内市場に関する成長期待をあまり持てない企業としてはおいそれとは支出を増やしにくい。この状況を打開するには、改めて政府、民間、日銀の協調を進めるしかない。

政府は法人減税や規制緩和などで企業が支出をしやすい環境を整える。民間企業はリスクをとって新しい成長分野を切り開く経営に努める。日銀はデフレ心理払拭を促すような機動的な金融政策運営に努める。こうした役割分担が家計部門に「真のデフレ脱却」をもたらすための課題だ。

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清水編集委員が言うように、史上最高益でも成長期待が持てないから企業部門は支出を増やしにくい状況だとしよう。その場合、法人税率を引き下げると企業は支出を増やすだろうか。カネがあるのに成長期待が持てないから支出を増やさないとすれば、減税でさらにカネの面で余裕を持たせても支出が増えるとは思えない。効果はあってもわずかだろう。「法人税の負担を減らせ」という日経の方針に沿って記事を書いているのだろうが、説得力はない。


※記事の評価はC(平均的)。清水功哉編集委員への評価もCとする。今回は注文を付けたが、可もなく不可もない記事を書けるという意味で清水編集委員には安心感がある。

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