2015年10月14日水曜日

期待を込めて永井洋一NQN編集委員へ注文

永井洋一NQN編集委員には期待している。マーケット関連記事を日経に書いている編集委員の中では、最も才能があると感じる。13日の夕刊マーケット・投資2面に載った「マネー底流潮流~産油国資金に目配りを」も大筋では期待に応えてくれている。独自の視点で市場の動向を解説しようという意図は読み取れるし、構成もしっかりしている。

さらに優れた書き手に育ってほしいという願いを込めて、細かい部分でいくつか注文を付けておきたい。


◎「同日」はいつ?
福岡市総合図書館と福岡タワー(福岡市早良区)
                  ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

10月に入り、世界の株式市場は「小春日和」を迎えたように落ち着きを取り戻している。だが、これまで世界の株価を支えてきた産油国資金(オイルマネー)の変調への目配りは必要だ。

市場予想を大きく下回った9月の米雇用統計の発表を境に世界の株式・商品相場は回復基調に入った。「悪い経済指標の結果、米利上げが遠のいたため」と解説されるが、それは一面にすぎない。同日に米大手石油サービス会社ベーカー・ヒューズが発表した米国の原油掘削設備(リグ)の週間稼働数が前週比で大幅減となり、原油の供給過剰懸念が後退。原油相場が反発し、資源関連株を中心に世界の株式市場で買い安心感が広がった面が大きい。


9月の米雇用統計の発表を境に世界の株式・商品相場は回復基調に入った」というなら、それが何日なのかは明示してあげた方が親切だ。冒頭で「10月に入り」と書いているので、10月の何日かだろうとは分かるが…。「米国の原油掘削設備(リグ)の週間稼働数」の発表が雇用統計の発表と「同日」となっているので、余計に日付を特定させたい。


◎文が成立してない

【日経の記事】

株式市場が原油相場の騰落に一喜一憂するのは、世界の株式や債券、不動産に巨額資金を投じてきた産油国の財政が悪化。投資資金の回収に動いていると見られるからだ。東京市場でも日経平均が700円強下落した先月29日、サウジアラビア通貨庁(SAMA)が大株主とみられる情報通信株などの下げが目立ち、市場で話題となった。

オイルマネーの手口は「英国の運用会社経由の売買に含まれている」との見方が一般的だ。そこで財務省の対外・対内証券投資で国・地域別データを確認すると、8月に日本株を売り越した筆頭は英国で、その額は7644億円。ウクライナ情勢の緊迫などで市場が揺れた14年3月(1兆2939億円)以来の大きさだ。「SAMAが海外で運用する資金のうち、数百億ドルを引き揚げた」という9月下旬の英紙フィナンシャル・タイムズの報道に符合する。


株式市場が原油相場の騰落に一喜一憂するのは、世界の株式や債券、不動産に巨額資金を投じてきた産油国の財政が悪化」だと、文として成立していない。その後の「投資資金の回収に動いていると見られるからだ」と一体化して文を作る必要がある。改善例を示しておこう。


【改善例】

株式市場が原油相場の騰落に一喜一憂するのは、世界の株式や債券、不動産に巨額資金を投じてきた産油国の財政が悪化し、投資資金の回収に動いていると見られるからだ。


上記のくだりの関連で記事には「米国・英国・香港による日本株の累積売買差額」というグラフが付いている。英国は分かるが、米国と香港を入れている理由は謎だ。記事を最後まで読んでも手掛かりさえない。これは明らかな説明不足だ。


◎オイルマネーは積み上がる一方?

【日経の記事】

T&Dアセットマネジメントの神谷尚志チーフ・エコノミストは「出入りするお金ではなく、オイルマネーのように積み上がる一方だったお金が、一転して売りに回ることの影響は軽視できない」と指摘。原油安による収入減などに伴う産油国の財政悪化を考えると、英国経由の売りは続く可能性があるとみる。

市場では「中国経済や米国の金融政策など不透明要因は未解決のままで、足元の株高は早晩、終わるだろう」(UBS証券の大川智宏エクイティ・ストラテジスト)との見方が多い。合理化努力で「稼ぐ力」を高めた日本企業の優位性は揺らがないとみられるが、今は長期マネーの変化がもたらす影響についてじっくり分析する機会かもしれない。


コメントにある「オイルマネーのように積み上がる一方だったお金」という説明が気になった。記事によると、オイルマネーは「英国経由」が多いようだ。しかし、記事中のグラフで「英国による日本株の累積売買差額」を見ると、09年頃に大幅に落ち込んでいる。ならば、「積み上がる一方」とは考えにくい。

もちろん「英国による日本株の累積売買差額」にはオイルマネー以外も含まれるのだろう。「だから、オイルマネーが積み上がる中でも、累積売買差額が大きなマイナスになることもある」というのならば、この数値を用いてオイルマネーの動向を読み取るのは問題がある。


※注文が長くなってしまったが、全体として出来は悪くない。記事の評価はC(平均的)。永井洋一編集委員の評価はB(優れている)を据え置く。

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