2021年5月3日月曜日

「食と酒はリターンのいい投資」と言い切る堀江貴文氏に異議あり

3日付のプレジデントオンラインに載った「堀江貴文が『ランチでは5000円のうな丼を食え』と言うワケ~食と酒はリターンのいい投資だ」という記事は説得力がなかった。「本稿は、堀江貴文『非常識に生きる』(小学館集英社プロダクション)の一部を再編集したものです」との注記があったので、この本の内容も苦しい可能性が高い。

夕暮れ時の筑後川

中身を見ながらツッコミを入れていきたい。

【プレジデントオンラインの記事】

酒食に浪費をいとわないのは、純粋に美味しいものが好きだから。

そして、人生を楽しくする投資として、リターンがよいのだ。

食は文化であり、料理の成り立ちを遡っていくと、文化や歴史を学ぶことができる。例えば中国で料理技術が発展したのは、中国皇帝の顕示欲が背景となっているとか。日本での発酵食品の発達は、湿度の高い国土で保存の利く料理をつくりだす必要があったからなど、料理と文化・歴史は密接に関わっている。

美味しいものを突きつめていけば、歴オタの道に通じるのだ。

美食の経験を通して、僕はワインや日本酒など各国のお酒の歴史や蘊蓄を、ずいぶん学べた。これらは後に小説を書くのにも役立てられた。


◎「歴オタの道に通じる」ためなら…

歴オタの道に通じる」ことが「酒食に浪費をいとわない」メリットだと堀江氏は言う。しかし「各国のお酒の歴史や蘊蓄」は「酒食」にカネを投じれば必然的に得られる訳ではない。堀江氏は自ら学んだのだろうが、食べて飲んで終わりという人の方が多そうだ。この場合「リターンがよい」とは言えない。

さらに言えば「酒食に浪費をいとわない」やり方ではなく、「酒食」に使う金額を抑えて学ぶ方に時間やコストをかけた方が「歴オタの道に通じる」上ではコストと「リターン」の関係が良くなる。

それに「歴オタの道に通じる」のが目的ならば「美味しいものを突きつめ」る以外にも色々と道はある。城巡りをするとか鉄道好きになるとかでも「歴オタの道に通じる」場合はある。特に「酒食」の「リターンがよい」とは思えない。

堀江氏が挙げるもう1つの魅力は人脈だ。そのくだりも見ておこう。


【プレジデントオンラインの記事】

酒食にお金を費やすことで一番得られるものは、幅広い人間関係だ

美食の場には、経済界や放送業界、芸能界などさまざまな分野の成功者が集まっている。彼らとの新鮮で刺激的な会話も、ご馳走だ

グルメ好きは、分野の垣根を越える。仕事しているだけでは出会えない各界の著名人やタレント、インフルエンサーと知り合えるのも面白い。僕は社会に出てから、毎晩のように彼らと酒席を囲み、魅力的な情報を教えてもらい、しばしばビジネスプランの熱いディスカッションを交わしている


◎堀江氏はそうだとしても…

堀江氏は「毎晩のように彼ら(各界の著名人やタレント、インフルエンサーら)と酒席を囲み、魅力的な情報を教えてもら」っているらしい。だからと言って一般の人にとって「リターンがよい」とは限らない。

高い店で食事をし、たまたま同じ時間にその店に「成功者」がいたからと言って「酒席を囲み、魅力的な情報を教えてもら」える訳ではない。全く知らない人に「同席させてください」と頼んでも断られるケースがほとんどだろう。それに、有名人でもない限り「成功者」かどうかを見分けるのも難しい。

普通のビジネスパーソンが「酒食に浪費をいとわない」暮らしをしても、投じた金額に見合う「リターン」が得られる可能性は低いと考える方が自然だ。堀江氏にとって「リターンがよい」ことが、一般人にも当てはまるとは限らない。上記の話は、その典型だろう。

今回の記事で最も引っかかったのが以下のくだりだ。


【プレジデントオンラインの記事】

「起業するためにお金を貯めています!」と言って、食事は500円ランチか、吉牛やマクドナルドで済ませている若者がいる。500円ランチもファストフードも別に不味くはないが、起業家を目指すというなら、あまり推奨できる姿勢ではない。

美食には、お金を惜しんではダメだ! ご飯への出費からは、投じた以上の機会創出と、知識を満たすリターンが得られる。

安くてそこそこ腹を満たせるひとりメシを続けていると、その回数分、ライフステージを上げるチャンスを失っている。安いメシで腹を膨らませているビジネスパーソンに、良質な人脈が築けるとは思えない

僕は、ランチではうな丼を食え! と言っている。それもチェーン店の1000円程度のうな丼ではなく、浅草や日本橋など老舗店のうな丼を食べてほしい。ひとりで5000円以上するが、その金額分の情報の獲得と、学習の代金だ。

5000円のうな丼を食べる、それ自体が情報のシャワーだ。

このご時世に、なぜ5000円もの値段がついているのか? 味を維持する方法は? 経営がどう回っているのか? 知れば有益な情報が丼いっぱいに詰まっている

高額のランチは、外食産業の構造を考えるのに格好の機会だ。舌を通して考えるので、思考はより深まり、学びの質も上がるだろう。


◎「500円ランチ」も「情報のシャワー」では?

5000円のうな丼を食べる、それ自体が情報のシャワーだ」と言うのならば「500円ランチもファストフード」も「情報のシャワー」だ。「なぜ安くできるのか?」「味を維持する方法は? 経営がどう回っているのか?」などと考える機会は容易に得られる。10倍の値段を出した方が10倍の「情報のシャワー」を浴びられる訳でもない。

高額のランチは、外食産業の構造を考えるのに格好の機会」との見方を否定はしないが、それは「500円ランチもファストフード」も同じだ。

ついでに言うと「安くてそこそこ腹を満たせるひとりメシを続けていると、その回数分、ライフステージを上げるチャンスを失っている。安いメシで腹を膨らませているビジネスパーソンに、良質な人脈が築けるとは思えない」というくだりには引っかかりを感じた。

良質な人脈」を築き「成功者」の仲間入りをして「経済界や放送業界、芸能界などさまざまな分野の成功者が集まっている」場で「酒席を囲み、魅力的な情報を教えてもらい、しばしばビジネスプランの熱いディスカッションを交わ」すと高い「ライフステージ」に到達するのだろう。

堀江氏のそうした価値観を否定するつもりはないが、皆がそうした「ライフステージ」を上だと見ている訳ではない。そこは考えてほしかった。


※今回取り上げた記事「堀江貴文が『ランチでは5000円のうな丼を食え』と言うワケ~食と酒はリターンのいい投資だ

https://president.jp/articles/-/45234


※記事の評価はD(問題あり)

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