25日の日本経済新聞朝刊国際面に載った「米、人種格差是正遠く~コロナ死亡率・住宅価格…」という記事には無理を感じた。中身を見ながら具体的に指摘したい。
山に沈む夕陽 |
【日経の記事】
全米で「ブラック・ライブズ・マター(BLM=黒人の命は大切だ)」運動が続く背景には、新型コロナウイルスでの死亡率や直近の失業率などで、黒人と白人との差が改めて浮き彫りになっている現実がある。バイデン米政権は格差是正を掲げ、企業も歩を合わせるが、道のりは険しい。
米疾病対策センター(CDC)によると、黒人の人口当たりのコロナ死亡率は白人の1.9倍だ。一方でワクチンの接種率は低い。米カイザー・ファミリー財団(KFF)が集計する17日時点でのワクチン接種率は白人42%に対し、黒人は28%にとどまり、人種別で最低だった。黒人は在宅勤務をしにくい接客業などに就く人が多く、接種に行く時間を捻出するのも難しい。ニューヨークに住む黒人女性は「仕事の時間の融通がきかない」とこぼす。
◎在宅勤務じゃないと接種が難しい?
「黒人は在宅勤務をしにくい接客業などに就く人が多く、接種に行く時間を捻出するのも難しい」から「ワクチン接種率」が低いと筆者ら(大島有美子記者、吉田圭織記者、野毛洋子記者)は見ているようだ。納得はできない。「接客業」で働いていても休日はあるはずだ。
米国のワクチン接種事情はよく分からないが、「接種」してもらえるのが平日だけならば、平日休みが多い「接客業」の方が「時間を捻出」しやすそうだ。曜日に関係なく「接種」できるのならば、仕事がない日に「接種」すれば済む。黒人の「ワクチン接種率」が低い原因は別にありそうな気がする。
続きを見ていこう。
【日経の記事】
米国では低金利が住宅購入需要を刺激し、住宅価格が上がり続けている。だがそこにも「人種の偏見で説明できる大きな価格差が存在する」(インターネット不動産仲介のレッドフィンの担当者)。同社の調べでは、人口数上位10%の大都市では、黒人の多い居住区の住宅価格が白人の多い居住区と比べて2021年2月時点で5万5000ドル(約600万円)低かった。その差は遡れることが可能な13年以降で最大だ。犯罪率の差などが理由にある。
◎「人種の偏見で説明できる」?
「黒人の多い居住区の住宅価格」が低いことは「人種の偏見で説明できる」だろうか。「犯罪率の差」が住宅価格に反映されているのならば「人種の偏見」とは関係ない。「黒人の多い居住区」の住宅が「白人の多い居住区」と比べて狭かったり作りが貧弱だったりすれば、それらも価格差を生む。「人種の偏見」に理由を求めているのに、その根拠を示せていない。
さらに見ていこう。
【日経の記事】
金融機関から住宅ローン申請を却下された割合は19年時点で黒人16%、白人7%と2倍超の開きがあった。「住宅価値で過小評価されている黒人居住区に政策でお金を回して、悪循環を断ち切るべきだ」(レッドフィンのチーフエコノミスト、ダリル・フェアウェザー氏)。住宅保有率の差も遡れる1994年以降、埋まっていない。
◎「過小評価」と言える?
「住宅価値で過小評価されている黒人居住区」と言い切るコメントを使っているが、「犯罪率の差」が原因で価格差が生じているのならば「過小評価されている」とは言い切れない。
「住宅保有率の差も遡れる1994年以降、埋まっていない」とも書いているが「住宅保有率」は高ければいい訳ではない。個人的には「住宅ローン」を抱えてまで持ち家にこだわるのは避けたい。
記事の終盤も見ておこう。
【日経の記事】
バイデン米政権は経済政策構想「米国家族計画」で格差の是正を目指す。企業や富裕層には増税とする一方、中低所得層の保育負担の軽減に2250億ドルを振り向けるなど、所得の再分配を促す。
企業も格差是正に向けた投資に積極姿勢だ。米銀最大手のJPモルガン・チェースは20年10月、5年で80億ドル(4万件)の住宅ローンを黒人やヒスパニック系向けに組成するとの目標を掲げた。スポーツ用品のナイキやグーグルなどIT(情報技術)も黒人など人種的マイノリティーの幹部起用を加速する方針。格差が格差を生む悪循環を断ち切れるかが課題となる。
◎「格差が格差を生む」?
米国では人種間の「格差が格差を生む悪循環」が起きているのかもしれない。しかし、今回の記事では、それを裏付ける材料を提示できていない。
ついでに「企業も格差是正に向けた投資に積極姿勢だ」という説明にも注文を付けたい。「住宅ローン」を提供するのならば「投資」というより「融資」だ。それに「住宅ローン」が「格差是正」につながるとは限らない。借金の負担が「格差」を広げる可能性もある。信用力の低さを反映して金利が高めに設定されている場合は、さらにその可能性が高まる。
全体として物の見方が単純で浅い印象を受けた。もっと深く多面的に考えて記事を書いてほしい。
※今回取り上げた記事「米、人種格差是正遠く~コロナ死亡率・住宅価格…」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210525&ng=DGKKZO72220500U1A520C2FF8000
※記事の評価はD(問題あり)。大島有美子記者への評価はDで確定とする。吉田圭織記者と野毛洋子記者への評価は暫定でDとする。
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