2019年6月6日木曜日

日経 村山恵一氏の限界見える「Deep Insight~注目 シェア人類の突破力」

本社コメンテーター」という肩書で記事を書いている日本経済新聞の書き手では、村山恵一氏に最も安定感がある。しかし6日の朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~注目 シェア人類の突破力」という記事は苦しい内容だった。書くことがなくて四苦八苦して紙面を埋めた印象だ。書き手としての限界が見えてきた感は否めない。
久留米市の千光寺(あじさい寺)
       ※写真と本文は無関係です

記事を見ながら気になった点を指摘したい。

【日経の記事】

世界が注目するなか上場を果たした米ライドシェアの2社、ウーバーテクノロジーズとリフトの株価がさえない。優良ドライバーの囲い込みや研究開発に費用がかさみ、黒字化の道筋が不鮮明なためだ。両社を取りまいていた強い高揚感は市場から消えた。

しかし、シェア社会への移行が不可逆的なのは明白だろう。個別企業の盛衰は経営手腕に左右されるが、シェアそのものは歴史の必然といえる。

いま起きているシェアの潮流は、さまざまな構造変化が積み重なった結果だ。3つ挙げたい

まずインターネットの普及で人や物の大規模なマッチングが可能になった。相互評価を導入した競売サイトの定着は、見ず知らず同士でも取引できることを示した。

次にスマートフォンが日常に根づいたこと。いつでもどこでもほしいものが手に入るオンデマンドを支えるインフラが整った

そして環境の移り変わりの加速だ。何かを「所有」してそれに縛られるより、状況に応じて「利用」するほうが柔軟で合理的との考え方が広がった。


◎「構造変化」の説明が…

構造変化」を「3つ挙げたい」と言うが「スマートフォンが日常に根づいたこと」を挙げるのならば、最初の「インターネットの普及」は要らない。2つはまとめていい。例えば「カーナビの普及で世の中が変わった」と訴えたい時に「まず自動車が普及し、それにカーナビが付いたことで社会が変わった」と説明する必要があるだろうか。

3番目の「環境の移り変わりの加速」は何を言いたいのか謎だ。強引に読み解けば、世の中の「考え方」が急速に変化しているということか。だとしたら、「考え方」に関してなぜ「移り変わりの加速」が起きているのかの説明は欲しい。

さまざまな構造変化が積み重なった結果だ。3つ挙げたい」と大きく構えた割に、誰でも分かるようなことを長々と書いているだけだ。行数稼ぎの臭いがする。

ついでに言うと「いつでもどこでもほしいものが手に入るオンデマンドを支えるインフラが整った」と村山氏は書いているが、そんな「インフラ」は整っていない。例えば東京の日経本社にいて日本各地の人気ラーメン店のラーメンが「手に入る」だろうか。遠隔地の場合、大半は断られるだろう。

そもそも「ほしいもの」が何でも「手に入る」ようには永遠にならない。例えば、日経の首脳陣が朝日新聞社や読売新聞社を買収したいと考えたとしよう。「スマートフォン」を使えば、非上場の新聞社の株式を自由に買えるだろうか。試してみれば「いつでもどこでもほしいものが手に入るオンデマンドを支えるインフラ」が整っていないと実感できるはずだ。

記事をさらに見ていく。

【日経の記事】

もっと便利で快適にとエスカレートするのが人の性(さが)。そういう欲求とテクノロジーの発展が交差し、シェアが巨大なうねりになる。

ここで個人的な体験を書く。米国に留学していた2004年、カーシェアサービス、ジップカーの会員になった。必要なときネットで予約しアパートに備えられた車に乗った。つかまえにくいタクシーや手続きが面倒なレンタカーに比べ手軽で重宝した。だが、とにかくさっと移動したいという場合には、それさえまどろっこしい。

当然、野心的な起業家はこれを放っておかない。スマホをリモコン代わりに車を呼び寄せるライドシェアは出現すべくして出現した。現在、出張中の米国で私の主たる交通の手段だ。

シェアの対象は家やオフィスに及び、多くのユニコーン誕生がエネルギーの大きさを物語る。SNS(交流サイト)を通じ、コミュニティーの面白さを再発見したことも人々をシェアに駆り立てる。



◎行数稼ぎの臭いが…

上記のくだりは全て不要だ。「個人的な体験」をわざわざ書いている意味がない。ここでも行数稼ぎの臭いがする。

さらに続きを見ていく。

【日経の記事】

ライドシェアこそ規制に阻まれているが、日本でも熱量は着実に増している。

台所やリビングを皆でシェアする施設が都会や地方に点在する。広さが四畳半で車輪のついた「走る部屋」で好きな施設を巡りながら暮らす――。パナソニックが30年の住まいの一形態として描く姿だ。社会に問いかけ、自社テクノロジーの活用を探る。

考案した若手デザイナーたちに話を聞いた。多機能なマイホームを構えたり家電を買いそろえたりすることに共感できず、定住はリスクとさえ思うという。華やかな経済成長を知らず、助け合いが自然。倹約目的ではなく、人とのつながりに豊かさを感じるがゆえのシェアだ。こんな発言もあった。「45歳以上の人にはわからない


◎「45歳以上の人にはわからない」?

まず「パナソニックが30年の住まいの一形態として描く姿」に新しさがない。キャンピングカーを自宅代わりにして、キャンプ場などを利用しながら暮らすのと大差ない。
新丸の内ビルディング(東京都千代田区)
       ※写真と本文は無関係です

さらに引っかかるのが「45歳以上の人にはわからない」とのコメントだ。明らかな偏見と言える。「45歳以上の人」で、こうした暮らしを魅力的に感じる場合も当然あるはずだ。それに44歳と45歳に明確な断層があるとも考えにくい。

記事をさらに見ていく。

【日経の記事】

起業も相次ぐ。20代の2人が設立したatsumari(あつまり)がシェアするのは楽器。音楽好きや楽器職人を結びつける。

ある推計では認知度アップなど条件がそろえば、国内シェア市場は30年度に11兆円を超す。


◎「起業も相次ぐ」と言うなら…

起業も相次ぐ」と言うならば、それを見せる必要がある。しかし出てくるのは「atsumari」の事例だけ。これでは「起業も相次ぐ」根拠とはならない。事例が1つだけならば、起業件数を見せるといった工夫が要る。

国内シェア市場は30年度に11兆円を超す」との説明も、いきなり「11兆円」と言われても多いのか少ないのか判断しにくい。他の市場との比較を入れたりしてほしかった。

さらに見ていこう。

【日経の記事】

シェア社会を本物にする力として目を引くのは、仕事に対する新しい価値観の台頭だ。

料理デリバリーのウーバーイーツで配達員をする尾崎浩二氏を見てみよう。自由に働けていいと始めたが、やがて感じたのは個人事業主という立場から生じる孤独や不安。ほかの人も悩んでいるはずと、ネット上にグループをつくり、事故に備えた保険やウーバー以外の仕事について情報交換した。メンバーは450人に達した。

5月にはこれを発展させ、配達員の福利厚生向上や店舗との関係強化をめざす協会を立ち上げた。配達員のための会社を設け、飲食店経営にも挑戦する。「個人が一致団結すれば何か起こせる」。コミュニティー運営がやりがいになっている。少額融資で個人の自立を促すグラミン日本の支援を受けることも決まった。


◎どこに「新しい価値観」?

尾崎浩二氏」のどこに「仕事に対する新しい価値観」が見出せるのか理解できなかった。「個人事業主という立場から生じる孤独や不安」は目新しいものではないだろう。同じ境遇の人間が集まって協力するのも、ありがちだ。「個人が一致団結」して社会をより良い方向に変えようとするのも「新しい価値観」とは言い難い。

この後、話はシェアから離れていく。

【日経の記事】

最近ベンチャー企業の取材に行くと、よそでも働いているという人によく会う。生活費を捻出するためあくせく、といった悲壮感漂う話ではない。キャリア形成のための副業・複業だ。特定の会社に漫然としがみつくのではなく、多様な職のポートフォリオを組み立てるべきときが来ている。

だから、社会に眠るニーズを掘り起こし、新種の仕事を編み出すシェアには重みがある。自分のスキルを生かし、顧客の評価をヒントに腕を磨き、励みや喜びにする人がいる。「福業」だ。



◎「シェア」との関連付けに強引さが…

副業」が増えているから「新種の仕事を編み出すシェアには重みがある」と村山氏は言う。間違ってはいないが、強引に「シェア」と絡めている印象はある。「自分のスキルを生かし、顧客の評価をヒントに腕を磨き、励みや喜びにする」のは「シェア」に限った話ではない。

ここから最後まで一気に見ていく。

【日経の記事】

人工知能(AI)やロボットによるオートメーション化が進み、働き手には逆風とされる。ライドシェア大手もドライバーに頼らない自動運転に投資する。といって個人は弱者とは限らない。増加するシェアピープルからは、したたかさ、たくましさを感じる。社会を革新する原動力たりえる。

シェアはサービスの安全性確保に課題を抱え、既存産業との摩擦もあるが、尻込みしてはいられない。世界はシェアを前提とした行動や発想に大きく振り子を振り、何がどこまで可能か試している。背を向ければ、個人も企業も国も進化の機会を逃す。

人的、物的な資源の効率利用につながるシェアは気候変動や貧困の対策、地域再生にプラスだ。新しい社会づくりのまっただ中にいるという時代認識をもとう



◎そう訴えたいなら…

シェアは気候変動や貧困の対策、地域再生にプラスだ」と言うが、その根拠は示していない。なのに「新しい社会づくりのまっただ中にいるという時代認識をもとう」と言われても困る。

シェア」が広がっていて、そこに関わっている人たちは「仕事に対する新しい価値観」を持っている(これにも説得力はないが…)とは書いている。しかし「気候変動や貧困の対策、地域再生にプラス」かどうかは何とも言えない。

ウーバー」の契約ドライバーの窮状なども報じられており、「シェア」が新たな「貧困」を生み出しているようにも見える。村山氏は「違う」と言うかもしれないが、この問題を記事では論じていない。なのに最後に「気候変動や貧困の対策、地域再生にプラス」と断定されて「なるほど」とは思えない。

このレベルの記事を顔写真付きで「本社コメンテーター」という肩書を付けて読者に届ける意味があるか。村山氏にはよく考えてほしい。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~注目 シェア人類の突破力
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190606&ng=DGKKZO45726650V00C19A6TCT000


※記事の評価はD(問題あり)。村山恵一氏への評価はC(平均的)からDへ引き下げる。村山氏については以下の投稿も参照してほしい。

「日本の部長、データを学べ」に説得力欠く日経 村山恵一氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_16.html

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