2019年6月21日金曜日

松井彰彦氏の「論理言語」に疑問残る日経「あすへの話題」

経済学者の松井彰彦氏は記事の書き手として問題があると考えた方が良さそうだ。20日の日本経済新聞夕刊1面に載った「あすへの話題~私と仕事、どっちが大事?」という記事を読んで、そう感じた。記事を見ながら疑問点を挙げていく。
タマホーム スタジアム筑後(福岡県筑後市)
          ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】 

経済学の教科書を繙(ひもと)くと、りんごとみかんの話が出てくることがある。りんごとみかんのどちらが好きか、と訊(き)かれても「りんご」「みかん」とは答えられない。

りんごばかり食べているとみかんが食べたくなるし、みかんばかり食べているとりんごが食べたくなる。だから答えは、「りんごを1個食べた今ならりんご1個とみかん2個は同じくらい好き」などとなる



◎「どちらが好きか」答えられるような…

まず「りんごばかり食べているとみかんが食べたくなるし、みかんばかり食べているとりんごが食べたくなる」とは限らない。「りんご」は大好きだが「みかん」は受け付けないという人もいるだろう。この場合「どちらが好きか」は明らかだ。

りんご」と「みかん」の1個当たりの量は同じとの前提で「りんごを1個食べた今ならりんご1個とみかん2個は同じくらい好き」という場合はどうか。「同じくらい好き」がやや解釈に迷うが、ここでは「りんごを1個食べた今の段階で、りんご1個とみかん2個が同じ価値に感じる」とする。これも明らかに「りんご」の方が「好き」なはずだ。「りんごを1個食べた」後でも、次の「りんご1個」の価値と釣り合うためには「みかん2個」が必要なのだから。

ここまではまだいい。問題は次だ。

【日経の記事】

りんごとみかんならそれでよい。しかし、この話を社会生活に安易に応用してはならない。極端な(しかし、よくある)例は「りんご=恋人(や子ども)」「みかん=仕事」と置き換えてしまうものだ。相手に「私と仕事、どっちが大事なの?」と訊かれたとしよう。こんなとき、間違っても、「君との1時間は、仕事の2時間と同じくらい大事だよ」などと答えてはいけない。相手も経済学徒でない限り、そんな論理は通用しない(そして、その質問を発した時点で、相手は間違いなく経済学徒ではない)。



◎そもそも枠組みが…

りんご」と「みかん」の話は、食べ物の中で同じものばかり食べると飽きるので、その状況によって価値が変わるという例だと思える。しかし「『りんご=恋人(や子ども)』『みかん=仕事』と置き換えてしまう」と話が違ってくる。

中には「恋人」とずっといると「仕事」がしたくなるという人もいるかもしれない。しかし、一般的に言えば、「仕事」を優先するのは「恋人」と一緒にいると飽きるからではない場合が多い。

安易に応用してはならない」のはその通りだが、「相手も経済学徒」であっても、この「応用」には無理がある。「社会生活」に当てはめるならば「恋人」と「同性の友人」の組み合わせなどか。

続きも見ておこう。

【日経の記事】

そもそもこれは質問ではない。質問文の体裁を採った不満の表明なのだ。ネットでよくある模範解答に、「そんな質問をさせてごめんな」というものがあるが、これも「ちゃんと答えろ」と切れられる可能性もある。「君のことが大事だから仕事をしているんだよ」という答えもあるらしいが、「りんごが好きだからみかんを食べているんだよ」という答えと五十歩百歩だ。要はこの質問は、された時点でアウトなのだ。

経済学は人間の行動に様々な論理的知見を与えてくれるが、生兵法は怪我(けが)のもと。論理言語と日常言語は違うのだ。経済学徒はこのことをゆめ忘れてはならない。



◎「五十歩百歩」になる?

君のことが大事だから仕事をしているんだよ」という「答え」は「りんごが好きだからみかんを食べているんだよ」という「答え」と「五十歩百歩」と言えるのか。

既に述べたが「りんごばかり食べているとみかんが食べたくなるし、みかんばかり食べているとりんごが食べたくなる」といった関係は「恋人」と「仕事」に置き換えると成り立たない場合が多い。

仕事」で早く一人前にならないと「恋人」との結婚もできないという状況であれば「君のことが大事だから仕事をしているんだよ」という「答え」には説得力がある程度ある。「恋人」に飽きないために「仕事」をしている訳ではない。

りんごが好きだからみかんを食べているんだよ」という「答え」とは全く異質だ。例えば、敵が攻めてきたから男性兵士が戦争に参加するとしよう。その時に「私と戦争(兵役)、どっちが大事なの?」と「恋人」に聞かれて「君のことが大事だから君を守るために戦争に参加するんだよ」と返すのも「りんごが好きだからみかんを食べているんだよ」という「答え」と「五十歩百歩」だと松井氏は考えるのだろうか。

論理言語と日常言語は違うのだ」と言うが、松井氏の話は「論理」がきちんと成り立っているのか疑問だ。


※今回取り上げた記事「あすへの話題~私と仕事、どっちが大事?
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190620&ng=DGKKZO45934950R10C19A6MM0000


※記事の評価はD(問題あり)。松井彰彦氏への評価は暫定C(平均的)から暫定Dへ引き下げる。

東大「ネコ文二」に関する経済学者 松井彰彦氏の解説に異議あり
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_31.html

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