2019年6月4日火曜日

奥田由意氏のアイドル分析が雑な週刊ダイヤモンド「使える哲学 」

週刊ダイヤモンド6月8日号の特集「仕事に必須の思考ツール~使える哲学 」に出てくる「米津玄師はニーチェ、星野源はアリストテレス!?~哲学で読み解くJポップ」という記事は雑な分析が目立った。大阪大学国際共創大学院学位プログラム推進機構特任助教である戸谷洋志氏のコメントを使いながら、ライターの奥田由意氏が以下のように「アイドルグループ」を分析してみせる。
旧内外クラブ記念館(長崎市)※写真と本文は無関係です

【ダイヤモンドの記事】

Jポップの哲学からの考察は、形而上学的なテーマだけではなく、社会事象を考える上でも有効だ。

例えば、アイドルグループ、AKB48のライバル的存在として結成された乃木坂46と欅坂46の歌詞は、日本社会の変化を反映している

2000年代後半に登場したAKB48は、選挙投票による競争をゲーム化することで脚光を浴びた。「競争をしないはずのゆとり世代のアイドルが、ハングリーな競争を繰り広げるところが支持を得た」(同)のだ。

しかし、東日本大震災でこの流れは変わる。くしくも乃木坂46の結成は11年8月だ。AKB48と異なり乃木坂46のセンターは、ファンではなく運営が決める。メンバーは競い合わず、人気投票もない。「戦いのない世界に戻りたい。ポスト3・11の協調重視の流れが見て取れます」(同)。



◎色々と誤解が…

AKB48と異なり乃木坂46のセンターは、ファンではなく運営が決める」と書いてあると「AKB48」は「運営」ではなく「ファン」が「センター」を決めると理解したくなる。それは年1回の選抜総選挙(2019年は開催見送り)後のシングルだけだ。「AKB48」も基本的には「センターは、ファンではなく運営が決める」。記事の説明は誤解を招く。

乃木坂46」に関する「メンバーは競い合わず」という説明は完全に間違いだ。どのシングルでも選抜と選抜以外に振り分けられるので「メンバー」内の競争は常にある。

そもそも「乃木坂46」は「AKB48のライバル的存在として結成された」のだから「戦い」に身を置くのが前提だ。なのに「戦いのない世界に戻りたい。ポスト3・11の協調重視の流れが見て取れ」るのか。

さらに続きを見ていく。

【ダイヤモンドの記事】

18年のヒット曲「シンクロニシティ」では、「言葉を交わしていなくても 心が勝手に共鳴するんだ 愛を分け合って」「いつしか心は一つになる…」と、人間は自然に理解し合えるという世界観が色濃い

「これはハーバーマスの政治哲学を思わせる普遍主義の考え方。敵や敵意はない、他者はいない、コミュニケーションできない人はいないことが前提です」(同)

ハーバーマスは、マルクスの影響を受けた社会学者で、コミュニケーションによって望ましい社会が到来する可能性を探った。人々が対話を重ねる「公共性」によって、合意に達したものが真理であると説く。

この乃木坂46に対し、体制と闘う反抗のアイドルとして15年に結成されたのが欅坂46だ。17年のヒット曲「不協和音」には、「僕はyesと言わない(中略)最後の最後まで抵抗し続ける」「君はyesというのか 軍門に下るのか」といった歌詞がある。団結して闘うのだという明確なメッセージが打ち出されている

戸谷氏は「敵を否定することで結束を固め、闘うことで自由や自分の存在意義を求める世相の表れ」とみる。そしてそれは、共同体が外部を否定することで内部を維持、強化する、デリダの洞察を想起させるという。相対化の視点である。

流行りのJポップの背後に哲学あり。ぜひお気に入りの一曲を分析してほしい。



◎日本社会は劇的に「変化」した?

乃木坂46と欅坂46の歌詞は、日本社会の変化を反映している」と奥田氏は言うが、どんな「変化」なのかは明確ではない。強引に読み解けば「人間は自然に理解し合えるという世界観」が支配する社会から「敵を否定することで結束を固め、闘うことで自由や自分の存在意義を求める」社会へと「変化」したということか。

この劇的な「変化」は「欅坂46」が結成された「15年」から「不協和音」が発売された「17年」にかけて起きたのだろう。ずっと「日本社会」で生きてきたが、そんな急激な変化が起きた印象はない。

ポスト3・11の協調重視の流れ」では「戦いのない世界に戻りたい」と願ったのに、わずか数年で「闘うことで自由や自分の存在意義を求める」方向に社会の意識が変わったのか。「3・11」の前は「戦い」を肯定する社会だったと取れるので、短い間に何度も急激な変化が起きている。

それを裏付ける材料を奥田氏は持っているのか。この手の分析は多少は主観的な要素が入ってもいいとは思うが、それにしても強引すぎる。

さらに言えば時系列的な問題もある。「乃木坂46」から「欅坂46」へという流れで「日本社会の変化」を見ているのに、取り上げたのは「乃木坂46」が「18年のヒット曲」で「欅坂46」が「17年のヒット曲」だ。「乃木坂46」の曲が先に出ていないと、話の展開としては苦しい。

結局、深く考えずに話を作ってしまったということだろう。


※今回取り上げた記事「米津玄師はニーチェ、星野源はアリストテレス!?~哲学で読み解くJポップ
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/26668


※記事の評価はD(問題あり)。奥田由意氏への評価も暫定でDとする。

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