2019年6月12日水曜日

ソフトバンクグループ債を薦める東洋経済 山田雄一郎記者の罪

週刊東洋経済6月15日号の特集「50歳からのお金の教科書」の中の「STEP2 実践編 準備を怠るな! 50歳から始める資産運用~ソフトバンクグループ 現物株と個人向け社債 買うならどっち?」という記事は問題山積の内容だった。まずは前半の「個人向け社債」に関する説明に注文を付けてみたい。
久留米市の千光寺(あじさい寺)※写真と本文は無関係

【東洋経済の記事】

孫正義会長兼社長が率いる投資会社・ソフトバンクグループに投資する方法は大きく分けて2つある。個人向け社債を買うか、それとも現物株を買うかだ。

どちらも買い」と断言するのは野村証券・市場戦略リサーチ部の魚本敏宏チーフ・クレジット・アナリスト兼ストラテジストだ。

「(通信など)特定事業に投資するとその事業の業界変動に株価が左右されるが、(投資会社に特化したことで)全産業のAI(人工知能)関連企業に投資するようになり、死角がなくなった。(投資規模10兆円の)ソフトバンク・ビジョン・ファンドを設立し、レイトステージ(事業が軌道に乗った段階)の大型スタートアップ(新興企業)に次々と投資できる唯一のプレーヤーとなったことで独占的な地位を築いた」(魚本氏)からだという。

ソフトバンクグループが今年4月に発行した個人向け社債「第55回無担保普通社債」(愛称「福岡ソフトバンクホークスボンド」)は、募集総額5000億円と巨額なのにもかかわらず、応募が殺到。申し込み初日に募集枠を上回った。

人気の理由は利回りの高さだ。4月に発行した個人向け社債の利回りは年1.64%。昨年発行した社債の利回りは1.57%、一昨年は2.03%だった(下図。いずれも税引き前)。日本証券業協会の資料によれば、2015年以降で利回り1%以上の個人向け社債を発行したのはソフトバンクグループのみである(劣後債を除く店頭気配報告銘柄)。

なぜ利回りが高いのか。それは格付けが低いからだ。

ソフトバンクグループの長期債格付けはS&Pグローバル・レーティングが「BBプラス」、ムーディーズが「Ba1」。いずれもプロの投資家が「投機的」と見なす低い水準である。

格付けが低い理由の1つは、有利子負債の多さにある。有利子負債は3月末時点で15兆6851億円。S&Pが重視するノンリコース(親会社の債務保証なし)の子会社借り入れを除いた単体の有利子負債も7兆円弱ある。過去の積極投資が巨額負債の原因だ。

ソフトバンクグループの個人向け社債は、0.01%という定期預金の利息の低さと比べられることが少なくない。だが、預金と社債はまったく別の金融商品だ。

預金はペイオフの仕組みで1000万円まで保護される。これに対し社債は、発行会社が破綻に瀕した場合に利回りが支払われなかったり、破綻時に元本が償還されなかったりするおそれがある。

また、1口100万円と小口の個人向け社債は「手間のかかる商品」(大手証券幹部)だ。機関投資家向けなら1口1億円で固定客も多く、販売の手間はかからない。

その手間を惜しまず、しかも親しみのある愛称をつけて、さらに「今治のタオル」などのおまけまでつけて個人向け社債を発行する意図は何だろうか

会社側は個人向け社債発行の意義を「資金調達の多様化」「社債市場の拡大に貢献している」と説明してきた。が、要は投資資金を確保するためには可能な限りの手を尽くす腹積もりなのだろう。

以上を考慮したうえで、ソフトバンクグループの個人向け社債は「買い」なのだろうか。BNPパリバ証券グローバルマーケット統括本部の中空麻奈・市場調査本部長は、「利回りが高い理由を個人がきちんと知り、預金と比べるべきではないことを理解したうえでならば、リスクはまあまあ高いが限定的で、投資妙味はある」と語る。

ただ、買うと決めても実際に買える保証はない。まず、ソフトバンクグループの個人向け社債の発行は年1回程度と機会自体が少ない。しかもその多くは大手証券が引き受けて販売している。人気商品だけに、運用資産が大きな大口顧客でもない限り、大手に口座があっても手に入らないかもしれない。

◇   ◇   ◇

問題点を列挙してみる。

◎「預金と社債はまったく別の金融商品」?

預金と社債はまったく別の金融商品」だと山田雄一郎記者は言う。間違いではないが、むしろ「預金と社債は似た金融商品」だと考えた方がいい。「預金はペイオフの仕組みで1000万円まで保護される」ので、リスクとしては国債と同じだ。なので国債と社債を比べるように「預金と社債」も比べていい。
名護屋城跡から見た風景(佐賀県唐津市)
         ※写真と本文は無関係です

預金金利が1%で社債利回りが3%ならば2%分がリスクブレミアムになる。これが適正かどうかを判断することになる。「預金金利より利回りが高いから社債の方が得」と単純に考えるのは論外だが「まったく別の金融商品」と思う必要もない。


◎「買い」の理由が…

記事では「ソフトバンクグループの個人向け社債」を最終的には「買い」だと判断している。しかし、まともな理由は提示していない。

野村証券・市場戦略リサーチ部の魚本敏宏チーフ・クレジット・アナリスト兼ストラテジスト」は「レイトステージ(事業が軌道に乗った段階)の大型スタートアップ(新興企業)に次々と投資できる唯一のプレーヤーとなったことで独占的な地位を築いた」から「個人向け社債」も買いだと判断しているようだ。これは社債に関しては意味がない。

問題は発行企業の返済能力と社債利回りだ。そこさえ分かれば、事業内容はどうでもいい。「独占的な地位」を確立していても、返済能力との見合いで利回りが低ければ「買い」とはならないはずだ。

BNPパリバ証券グローバルマーケット統括本部の中空麻奈・市場調査本部長」の「利回りが高い理由を個人がきちんと知り、預金と比べるべきではないことを理解したうえでならば、リスクはまあまあ高いが限定的で、投資妙味はある」とのコメントもほとんど参考にならない。

リスクはまあまあ高いが限定的」がまず分かりにくい。なのに結論は「投資妙味はある」となってしまう。

自分が投資家の立場で考えれば、「ソフトバンクグループの個人向け社債」に関して知りたいのはリスクプレミアムが適正かどうかだ。国債などの無リスク資産の利回りをゼロと仮定すれば「1.64%」や「1.57%」という利回りがそのままリスクプレミアムとなる。

S&Pグローバル・レーティングが『BBプラス』、ムーディーズが『Ba1』」という低い格付けの「ソフトバンクグループの個人向け社債」であれば、そこそこのリスクプレミアムが求められる。

しかし記事では、「1.64%」や「1.57%」という利回りがリスクプレミアムとして高めと判断できる根拠を示していない。例えば、同程度の格付けの社債と比較してもいい。そうした材料なしに「リスクはまあまあ高いが限定的で、投資妙味はある」と言われても「確かにそうですね」とは頷けない。


◎買うべき「個人向け社債」がある?

個人的には、すべての「個人向け社債」を投資対象から外してよいと思う。記事にもヒントがある。「その手間を惜しまず、しかも親しみのある愛称をつけて、さらに『今治のタオル』などのおまけまでつけて個人向け社債を発行する意図は何だろうか」と山田記者も問題提起している。

要は投資資金を確保するためには可能な限りの手を尽くす腹積もりなのだろう」という漠然とした説明しかしていないが、基本的には「機関投資家よりも低い利回りで買ってくれるから」と考えるべきだ。同じ利回りで機関投資家が買ってくれるのならば「手間」をかける意味がない。

ゆえにリスクプレミアムから見て「投資妙味」がある「個人向け社債」はないと考えておけばいい。本当に「投資妙味」があるのならば、機関投資家が喜んで買うはずだ(機関投資家が愚かで投資妙味に気付けないという可能性はあるが…)。

山田記者は触れていないが「個人向け社債」には流動性が極めて低いという問題もある。総合的に判断すると「個人向け社債」には手を出さない方が賢明だ。「ソフトバンクグループの個人向け社債」のような低格付けの「社債」ならば、なおさら慎重になる必要がある。


※今回取り上げた記事「ソフトバンクグループ 現物株と個人向け社債 買うならどっち?
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/20764


※記事の評価はD(問題あり)。記事の後半部分には別の投稿で触れる。山田雄一郎記者への評価はC(平均的)を維持する。山田記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

東洋経済の特集「東芝が消える日」山田雄一郎デスクに疑問
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/04/blog-post_19.html

東洋経済「保険に騙されるな」業界への批判的姿勢を評価
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/01/blog-post_15.html

東洋経済 山田雄一郎記者「社外取締役のお寒い実態」に高評価
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_18.html

さすが山田雄一郎記者 読むに値する東洋経済の特集「保険の罠」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/blog-post_20.html

「旧民主党が年金破綻を喧伝」と東洋経済 山田雄一郎記者は言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/blog-post_10.html

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