2019年6月20日木曜日

「三桜工業、全固体電池に参入」が本当か怪しい日経の記事

日本経済新聞の企業関連記事で「本格参入」という言葉を見つけたら要注意だとは以前から思ってきた。しかし単なる「参入」でも油断はできないようだ。19日の朝刊企業1面に載った「三桜工業、全固体電池に参入 米社とEV向け」という記事を読むとそれが分かる。
長崎水辺の森公園(長崎市)
      ※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

エンジン関連部品や配管部品の製造を主力とする三桜工業が電気自動車(EV)向けの車載電池の製造に乗り出す。米スタートアップと次世代電池「全固体電池」を共同開発し、年内にも試作品の検証に入る。ガソリン車からEVへ変わる流れに対応する。

全固体電池は現在使われているリチウムイオン電池の2倍以上の容量があり、充電時間も大幅に短くできるとされる。EVなどモーター駆動の車に載せ長時間走れる電池として期待されており、トヨタ自動車などが実用化に向けて開発を急ぐ。

ただ、安全性やコストなどの問題からまだ車載用に実用化されてはいない。三桜工業は2018年に出資した米スタートアップのソリッドパワーと共に全固体電池を研究、開発している19年内にも試作し実用化に向けた検証作業に入る

三桜工業は自動車メーカーの系列に属さない独立系の部品メーカー。日本車を中心に自動車各社に部品を納めている。ただ欧州の排ガス規制が影響し、19年3月期の営業利益は前の期比52%減少し、20億円に落ち込んだ。

中国など世界各国で環境規制が強化され、自動車各社はEVシフトを加速させている。電池の実用化を急ぎ、新たな事業の柱とする。


◎「試作」でも「製造に乗り出す」?

見出しでは「全固体電池に参入」となっているが、本文に「参入」という言葉は出てこない。「三桜工業が電気自動車(EV)向けの車載電池の製造に乗り出す」と書いているだけだ。なので、まずは「製造に乗り出す」かどうかを考えたい。

記事によると「19年内にも試作し実用化に向けた検証作業に入る」らしい。これで「製造に乗り出す」と言えるのか。「試作」段階ならば「製造に乗り出す」前だと考えるのが一般的だと思える。自動車メーカーが空飛ぶクルマを「試作」した場合、「ついに空飛ぶクルマの製造に乗り出した」と受け取るだろうか。

試作」も「製造」に当たるとの弁明は不可能ではないが、かなり苦しい。「参入」となると、さらに無理がある。「実用化に向けた検証作業に入る」のであれば、「検証」を経て「実用化」を断念する選択もありそうだ。

記者もそれを分かっているから「参入」とは書かなかったのだろう。しかし「試作」では見出しとして弱い。そこで見出しを付ける側は「参入」としたと考えると腑に落ちる。

米スタートアップと次世代電池『全固体電池』を共同開発」は既にしている。「参入」はまだ決まっていない。その途中経過の「試作し実用化に向けた検証作業に入る」という非常に弱いニュースを無理して大きく見せようとするから、こうなる。

記事の書き手として高いレベルを目指すのならば、この手のごまかしからは距離を置いてほしい。


※今回取り上げた記事「三桜工業、全固体電池に参入 米社とEV向け
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190619&ng=DGKKZO46191940X10C19A6TJ1000


※記事の評価はD(問題あり)。

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