2018年7月27日金曜日

「吉野家カフェ」の分析が甘い日経 中村直文編集委員

27日の日本経済新聞朝刊企業2面に載った「ヒットのクスリ~吉野家カフェの実験 『先入観の壁』を壊せるか」という記事は分析の甘さが目立った。筆者は中村直文編集委員。記事を見ながら問題点を挙げていきたい。
小長井駅(長崎県諫早市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

今月上旬に新潟へ出張したときのこと。JR新潟駅万代口の構内で時間をつぶそうと思ったが、なかなかカフェが見当たらない。地下に下りると「140円でコーヒーを提供」と告知する吉野家を発見。「販売不振か?」。結局牛丼店で安いコーヒーだけを注文するのは気が引け、スルーしてしまった。


◎「カフェが見当たらない」?

中村編集委員が見かけた吉野屋は「CoCoLo新潟店」だろう。新潟駅のCoCoLo万代という商業施設の地下にある。CoCoLo万代のホームページを見ると、1階には「VIE DE FRANCE CAFE」というカフェが入っているようだ。

ホームページの情報が古いのか、それとも臨時休業していたのか。なぜ「なかなかカフェが見当たらない」状況だったのかは気になる。

ついでに言うと「結局牛丼店で安いコーヒーだけを注文するのは気が引け、スルーしてしまった」のも引っかかる。流通担当の編集委員ならば、気になったのなら入ってほしい。時間がないわけでも、高額なわけでもない。「時間をつぶそうと」カフェを探していたのだから。「気になったら、できる限り自分で確かめる」という気持ちを、少なくとも担当分野に関しては持ってほしい。

牛丼店で安いコーヒーだけを注文するのは気が引け」という弁明も理解に苦しむ。牛丼380円とコーヒー140円ならば、大した違いはない。利益の額で言えばコーヒーが上回っていても不思議ではない。それに、接客するのがアルバイトだとしたら、店の利益に貢献してくれる客かどうかは重要ではない。コーヒーだけを注文する客に対して「コーヒー以外に何か頼めよ。儲けにならないよ」などと内心で思う可能性は非常に低いはずだ。

話が逸れてしまった。記事の続きを見ていく。

【日経の記事】

この話を吉野家にするとこちらの見当違いだった。実は新潟駅の吉野家はカフェ機能を備え、女性の入店増と繁閑をならす試みだ。“吉野家カフェ”とでも言うべき実験は2年前にさかのぼる。1号店は東京・恵比寿。看板は黒が基調で、黒・吉野家とも呼ばれる。



◎「女性の入店増と繁閑をならす試み」?

中村編集委員はしっかりした文章が書けるタイプではない。今後も記事を書かせるのならば、デスクなど周囲がしっかりと支えてあげるべきだ。
大雨で増水した筑後川(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係です

女性の入店増と繁閑をならす試みだ」という文はかなり拙い。この書き方だと「『女性の入店増』と『繁閑』をならす試み」になってしまう。しかし吉野屋に「女性の入店増をならす」意図はないはずだ。「女性の入店増を図り繁閑をならす試みだ」と中村編集委員は言いたいのだろうが…。

さらに記事を見ていく。

【日経の記事】

吉野家の女性客比率はわずか2割。男性ばかりで入りづらいなど抵抗感が強いからだ。そこで実験店では席に着いてから注文を聞くスタイルを廃止。カフェのように入店直後にレジで注文を聞き、客が自ら料理を運ぶキャッシュ&キャリーに転換した。コーヒーメニューを加え、店内もテーブル席を増やすなど雰囲気を一新した。

試みは見事に成功。恵比寿の店舗の女性比率は3割で、女性になじみやすいカフェ方式は成果を上げた。かつて吉野家が始めた「女子牛」(じょしぎゅう)と呼ぶ女性客拡大のためのキャンペーンは不発。「主力の男性客を減らさないように女性を増やす方法はないか」(河村泰貴社長)と試行錯誤を繰り返し、おじさん客の離反も防いだ


◎「試みは見事に成功」?

試みは見事に成功」と中村編集委員は言い切るが、根拠は乏しい。「恵比寿の店舗の女性比率は3割」というデータだけでは何とも言えない。問題は売り上げだ。女性比率は上がったものの、店舗の売り上げはほぼ横ばいだとしたら、「試みは見事に成功」とは言い難い。だが、その辺りの数字を中村編集委員は教えてくれない。

試みは見事に成功」だとしたら、「カフェのように入店直後にレジで注文を聞き、客が自ら料理を運ぶキャッシュ&キャリーに転換」することで売り上げを大きく伸ばせる。吉野家の多くの店に広げるはずだ。「“吉野家カフェ”とでも言うべき実験は2年前にさかのぼる」のだから、実験の成功を受けて「“吉野家カフェ”」は増殖しているころだ。

ここでも中村編集委員は何も教えてくれない。「黒・吉野家」が何店舗あるのかも不明だし、「CoCoLo新潟店」が「黒・吉野家」になっているのかも分からない。

中村編集委員は「『主力の男性客を減らさないように女性を増やす方法はないか』(河村泰貴社長)と試行錯誤を繰り返し、おじさん客の離反も防いだ」とも書いている。面白そうな話だが、具体的な離反防止策はこれまたなし。肝心な情報が抜け過ぎていて「試みは見事に成功」だと信じる気になれない。

吉野屋の話はここまでだが、せっかくなので記事を最後まで見てみよう。

【日経の記事】

消費を促すには習慣や先入観、罪悪感など購入を妨げる壁の破壊が必要だ。靴の通販で成長しているロコンドの田中裕輔社長は「自宅で楽しみながら買ってもらいたい。だから返品時に罪悪感を与えてはいけない」と話す。同社は返品無料だけでなく、返品期限も発注から21日と同業の2~3倍に設定している。

最近では配達を少し遅くする代わりに、安くなる「急ぎません。便」を追加した。物流業界は極度の人手不足。顧客の罪悪感をさらに薄める効果もあって、想像以上の利用率だ。マイナス要素を見事にプラスに変えた。


◎「返品無料」は逆効果では?

ここで言う「罪悪感」とは「返品したら通販会社に申し訳ない」という気持ちを指すのだろう。これを「返品無料」で減らせるだろうか。むしろ有料にした方が「罪悪感」を抱かせずに済むと思える。「返品期限」も同様だ。発注から10日で返品すると「罪悪感」を覚えるが「21日」後に返品すると「罪悪感」が減るという消費者がいるのだろうか。

さらに先へ進もう。

【日経の記事】

もちろん壁を壊すのは簡単ではない。一時話題になった「オフィスでのノンアルコールビールはOKか」論争。サントリービールは6月にペットボトル入り透明ノンアルビールを出し、「仕事中にビールを飲む」という罪悪感の払拭に挑んだ。発想は面白い。だが出足はいまひとつ。販売政策の問題に加え、壊せない壁が立ちはだかった。



◎「罪悪感の払拭」につながる?

仕事中にノンアルコールビールを飲む」ことに「罪悪感」を抱いている人にとって「透明ノンアルビール」は「罪悪感の払拭」につながる商品なのか。そうなる理由が理解できない。
「おとしよりが出ます注意」の看板
(大分県日田市)※写真と本文は無関係です

例えば「未成年での飲酒に罪悪感を抱く高校生」がいたとして、その生徒は透明なビールならば罪悪感なしに飲めるだろうか。「未成年の飲酒って意味では同じことでしょ」と言われそうな気がする。

透明ノンアルビール」は「仕事中にノンアルコールビールを飲むことに罪悪感はない。ただ、周囲の目は気になる」といった人の「」は壊せるかもしれない。だが「罪悪感の払拭」とは基本的に関係ない。

さて、いよいよ最後の段落だ。

【日経の記事】

それは色。ビールと称して売っているが、やはり黄金色じゃないとビール感が出ない。気分転換だけなら、普通の炭酸水で済む。透明ビールはどっちつかずの飲料になってしまった。罪悪感は消せても、先入観の壁はそれ以上に強い。まさに消費者心理は不透明……。



◎「黄金色じゃないとビール感が出ない」?

中村編集委員は「黄金色じゃないとビール感が出ない」らしい。個人的には賛成できない。黒ビールを飲んでも「ビール感」は十分に得られるからだ。中村編集委員は黒ビールを一切飲まないのかもしれないが、日本ではそこそこ根付いている。なのになぜ「黄金色じゃないとビール感が出ない」と判断したのかは引っかかった。「やはり透明だとビール感が出ない」なら賛成できるのだが…。


※今回取り上げた記事「ヒットのクスリ~吉野家カフェの実験 『先入観の壁』を壊せるか
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180727&ng=DGKKZO33327530U8A720C1TJ2000


※記事の評価はD(問題あり)。中村直文編集委員への評価もDを維持する。中村編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

無理を重ねすぎ? 日経 中村直文編集委員「経営の視点」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2015/11/blog-post_93.html

「七顧の礼」と言える? 日経 中村直文編集委員に感じる不安
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_30.html

スタートトゥデイの分析が雑な日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_26.html

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