佐世保港(長崎県佐世保市)※写真と本文は無関係です |
【日経への問い合わせ】
日本経済新聞社 甲原潤之介様
13日の夕刊ニュースぷらす面に載った「政界Zoom~非核化の歴史 3勝3敗 信頼関係の構築 不可欠」という記事についてお尋ねします。記事の中で甲原様は「(NPT発効後も)核開発の懸念が生じた6地域の非核化の成否を分類すると3勝3敗」と述べています。しかし、何回数えても合いません。記事では以下のように説明しています。
「非核化の契機は冷戦終結だ。70年代に核実験疑惑があった南アフリカは、自発的に核放棄し、91年に核解体を終えた。中央アジアではソ連が崩壊すると、旧ソ連諸国にあった核兵器の拡散の懸念が広がった。旧ソ連のウクライナ、カザフスタン、ベラルーシは、核兵器をロシアに移送して核を放棄した。軍事政権の交代も契機になる。南米では70~80年代、ブラジルとアルゼンチンが核開発を検討した。隣国が核を保有する懸念が生じると、核開発競争が進む。この時は両国の軍事政権が姿を消すと、共に開発計画を放棄した。北朝鮮が核保有した東アジア、インドとパキスタンが競う南アジア、中東は非核化が難航する。南アジアでは98年にインドが核実験をすると、パキスタンも対抗して核実験を実施。中東ではイスラエルの核保有後、イランの核計画疑惑が問題になった。(中略)大国主導でも、非核化を先行させた後に経済制裁を解除したのが03~04年のリビア。非核化後にリビアは体制が崩壊した」
甲原様の説明を基に分類すると以下の7つに分けられます。
1、南アフリカ 2、旧ソ連(ウクライナ、カザフスタン、ベラルーシ) 3、南米(ブラジル、アルゼンチン) 4、東アジア(北朝鮮) 5、南アジア(インド、パキスタン) 6、中東(イラン、イスラエル)、7、リビア
南アフリカとリビアを「アフリカ」とすれば「6地域」にはなりますが、甲原様はそうした説明をしていません。また地理的にも時期的にも大きく離れた両国の核開発放棄を合わせて「1勝」とするのは無理があります。「6地域の非核化の成否を分類すると3勝3敗」というくだりは「7地域の非核化の成否を分類すると4勝3敗」とすべきではありませんか。南アフリカとリビアを「アフリカ」として分類しているのならば、記事中でその点を明示すべきです。
せっかくの機会なので、追加で3つ指摘しておきます。まず「中央アジアではソ連が崩壊すると、旧ソ連諸国にあった核兵器の拡散の懸念が広がった。旧ソ連のウクライナ、カザフスタン、ベラルーシは、核兵器をロシアに移送して核を放棄した」という説明についてです。
この書き方だと「ウクライナ、カザフスタン、ベラルーシ」が「中央アジア」の国に見えてしまいます。「ウクライナ」と「ベラルーシ」は中央アジアの国ではないはずです。
次は以下の解説です。
「まず自発的な放棄。『南アフリカ方式』といわれる。89年就任のデクラーク大統領が核開発終了を決断し、核を解体した。国際関係や安全保障が専門の佐藤丙午・拓殖大教授は『維持コストの問題や、アパルトヘイト政策から民主政権への移行期だったことなどが、核放棄を促した。特殊なケースだ』と話す」
「特殊なケース」と「佐藤丙午・拓殖大教授」は述べていますが、「ブラジルとアルゼンチン」について甲原様は「両国の軍事政権が姿を消すと、共に開発計画を放棄した」と説明しています。これも「自発的な放棄」だと思えます。だとすると「南アフリカ方式」は「特殊なケース」とは言えなくなってきます。
最後に「非核化」の分類についてです。甲原様は「誰が主導したかで分類した」と述べており「自発型」「大国主導型」「多国間合意型」の3つに分けています。
「ウクライナなど旧ソ連3カ国の非核化は大国の米ロが主導した」ので「大国主導型」としています。一方で「イランは15年、英仏独米中ロの6カ国と、段階的に核計画を縮小する合意を締結」したので「多国間合意型」です。しかし「英仏独米中ロの6カ国」はいずれも「大国」なので「大国主導型」とも言えます。大国が2カ国絡むと「大国主導型」で6カ国絡むと「多国間合意型」になるのは、やや苦しいでしょう。個人的には「自発型」と「非自発型」の2つで十分だと思います。
付け加えると「合意を締結」には違和感があります。「契約」や「条約」は「締結」できますが「合意を締結」するでしょうか。記事には「米ロが3カ国と安全保障の覚書を締結」という表現も出てきました。普及しつつある使い方でしょうが、「覚書」も「締結」と組み合わせるのはお薦めしません。「覚書を交わす」などとした方が無難です。
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◇ ◇ ◇
追記)結局、回答はなかった。
※今回取り上げた記事「政界Zoom~非核化の歴史 3勝3敗 信頼関係の構築 不可欠」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180713&ng=DGKKZO32952120T10C18A7EAC000
※記事の評価はC(平均的)。甲原潤之介記者への評価も暫定でCとする。
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