2018年7月2日月曜日

「積み立て投資」の方が低単価? 東洋経済「定年後おカネ大全」

投資関連記事でやたらと持ち上げられるのが「積み立て投資」だ。個人的には「得も害もほぼない」と思っている。なので「積み立て投資」を目の敵にする必要はないのだが、それでも間違いだと感じる記述は看過できない。週刊東洋経済7月7日号の第1特集「定年後おカネ大全」では、FPアソシエイツ&コンサルティング代表取締役である神戸孝の解説に納得できなかった。
城戸南蔵院前駅(福岡県篠栗町)※写真と本文は無関係です

東洋経済編集部には以下の内容で問い合わせを送った。

【東洋経済への問い合わせ】

FPアソシエイツ&コンサルティング 代表取締役 神戸孝様  週刊東洋経済 編集部 担当者様

週刊東洋経済7月7日号の第1特集「定年後おカネ大全」の中の「PART1 定年後のおカネ ウソと本当 2時間目 教育費、住宅ローンにご用心 老後資金を見える化しよう」という記事についてお尋ねします。記事の中で神戸様は資産運用に関して以下のように記しています。

注意すべきは900万円を一気に投資に回すのではなく、たとえば半年ごとに150万円ずつ、3年かけて買うといった『積み立て投資』を行うことだ。高値づかみを避け、平均取得単価を引き下げることにつながる

記事の説明が正しければ、一括投資よりも「積み立て投資」の方が「平均取得単価」が低くなりやすいはずです。しかし、考えにくい気がします。相場が下落傾向の場合は「積み立て投資」の「平均取得単価」が下回るものの、相場が上昇傾向であれば一括投資の方が「平均取得単価」は低くなります。上昇か下落かは五分五分だと仮定すれば、「積み立て投資」の方が「平均取得単価」が低くなる可能性は50%です。

ただし、投資対象の期待リターンをプラスと見ると、話は変わってきます。この場合は相場が上昇する可能性の方が高いとの前提を置いていることになります。

神戸様が記事中で示した「現役時と退職後の望ましいポートフォリオ(例)」では、目標収益率が現役時で「5~7%程度」、退職後で「2~4%程度」となっています。これを期待リターンと理解するならば、「平均取得単価」が低くなる可能性が高いのは「積み立て投資」よりも「初期段階での一括投資」となるはずです。

積み立て投資」が「平均取得単価を引き下げることにつながる」との説明は誤りではありませんか。つながらない場合は当然ありますし、確率的に考えても一括投資と五分か、やや不利でしょう。記事の説明に問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

御誌では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。

今回の記事には他にも気になる点がありました。「現役時と退職後の望ましいポートフォリオ(例)」について、2点を記しておきます。

(1)目標収益率が高すぎませんか?

繰り返しになりますが、この図では、目標収益率が現役時(債券50%)で「5~7%程度」、退職後(債券60%)で「2~4%程度」となっています。
宇佐神宮(大分県宇佐市)※写真と本文は無関係です

JPモルガン・アセット・マネジメントが2017年に公表した資料によると、今後10年~15年の期待リターン(年率)は日本株で4.75%、先進国株式(日本除く)で5.50%、米国REITで5.00%です。債券となると日本国債で0.25%、先進国国債(日本除く・為替ヘッジなし)で1.25%に過ぎません。

神戸様の薦める「現役時」のポートフォリオは国内債券20%、外国債券30%、株式35%、REIT10%、コモディティー5%です。債券をやめて、全てを株式とREITで運用しても期待リターンは「5~7%程度」に届くかどうかだと思えます。債券を半分持つとしたら、多少は新興国の債券を持つとしても、「5~7%程度」を目標収益率とするのは無理があると思えます。

(2)国内債券でも投信を使うのはなぜですか?

神戸様の薦めるポートフォリオでは、国内債券も外国債券も投信を利用することになっています。特に国内債券については、ほとんど利回りが期待できない中で、信託報酬や販売手数料を払って公社債投信を活用する意味があるでしょうか。ポートフォリオのリスクを抑えるために国内債券を組み込むのであれば、個人の場合は個人向け国債で十分ではありませんか。

最後に、文の作り方について1つだけ指摘させていただきます。引っかかったのは以下のくだりです。

具体的には、さまざまな国や資産に投資する国際分散投資が望ましく、バランス型投資信託や投信を組み合わせたポートフォリオ運用を選択するのがいいだろう

この書き方だと「『バランス型投資信託や投信』を組み合わせたポートフォリオ運用」と読めてしまい、意味がよく分かりません。おそらく「『バランス型投資信託』や『投信を組み合わせたポートフォリオ運用』」と伝えたかったのでしょう。であれば「バランス型投資信託や、投信を組み合わせたポートフォリオ運用」と読点を打つだけで問題は解消します。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、回答をお願いします。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「PART1 定年後のおカネ ウソと本当 2時間目 教育費、住宅ローンにご用心 老後資金を見える化しよう

https://dcl.toyokeizai.net/ap/textView/init/toyo/2018070700/DCL0101000201807070020180707TKW006/20180707TKW006/backContentsTop


※記事の評価はD(問題あり)。神戸孝氏への評価も暫定でDとする。神戸氏については以下の投稿も参照してほしい。

投資初心者は読むな!東洋経済「50歳から増やすおカネ」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/11/50.html

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