佐世保バーガーの店(長崎県佐世保市) ※写真と本文は無関係です |
問題のくだりを見ていこう。
【日経の記事】
6月にフィンランドとスウェーデンの北欧2カ国を訪れた。そこで強い印象を受けたのは「高福祉国家」とは別に、「実験・イノベーション国家」としての顔だ。
フィンランドは17年から、所得にかかわらず一定の現金を支給するベーシック・インカム実験を実施している。先進国では初めてだ。失業者2000人を対象に、毎月560ユーロを無条件で配る。
政府は推進派の存続要望を退け、この実験を予定通り今年末で打ち切ることを決めた。賛否が分かれる政策は、まず実験し、その結果を検証して次へ進むという姿勢だ。
MaaS(Mobility as a Service)とは、自動車、鉄道、バス、カーシェア、レンタル自転車など様々な移動手段を、スマートフォン(スマホ)のアプリを通じて連携させる実験。この発祥地もフィンランドだ。試みには日本の自動車メーカーはじめ世界の産業界が注目する。
バルト海をはさんだ隣国のスウェーデンも実験では負けていない。民間主導で携帯送金アプリが普及し、多くの人が現金を持ち歩かないキャッシュレス先進国。17世紀に創設された世界最古の中央銀行で欧州の紙幣の生みの親でもあるスウェーデン中銀(リクスバンク)は、自国通貨のデジタル版「eクローナ」発行を検討中だ。
リクスバンクは、急速なキャッシュレス化に伴って現金が使えないお店が増えるなど負の側面にも目配りしつつも技術革新の手は緩めない。
システム運営の難しさなどから日米欧の主要中銀がデジタル通貨の発行に慎重ななかで、スウェーデンの実験は異彩を放つ。同国は今や国際標準になったインフレ目標政策でも先陣を切った国の一つだ。
そんな北欧の姿をながめて思い出したのは、日本の「国家戦略特区」だ。特区制度は加計学園問題ですっかりイメージが低下した。だが、本来の目的は、日本の経済社会の構造改革を推進し、国際競争力を高める規制改革を集中的に実施する実験的制度だ。
◎せっかく現地に行ったのなら…
藤井論説委員が北欧で具体的に何を見たのか。誰と会ってどんな話を聞いたのか。「そんな北欧の姿をながめて思い出したのは」と書いてはいるものの、どんな光景を目にしたのかは全く触れていない。
大雨で増水した筑後川(福岡県久留米市) ※写真と本文は無関係です |
取材で訪れたのだとしたら「何を取材したのか」と問いたくなる。夏休みの旅行で訪れたのだとしても、現地でしか見聞できない話があったはずだ。日本でも得られるような情報を並べるだけならば、現地を訪れた意味はない。「わざわざ書くような話はなかった」と藤井論説委員が判断したのならば「6月にフィンランドとスウェーデンの北欧2カ国を訪れた」との情報は要らない。
ついでに、記事の問題点を追加で2つ挙げておきたい。
◎「バルト海をはさんだ隣国」?
「バルト海をはさんだ隣国のスウェーデン」という説明は引っかかった。間違いではないが、陸続きの国にこういう言い方をするのは違和感がある。例えば「北朝鮮にとって中国は黄海をはさんだ隣国だ」と聞くと、変な感じがないだろうか。
◎スウェーデンは実験してる?
「スウェーデンも実験では負けていない」と藤井論説委員は言うが、記事ではどんな「実験」をしているのか教えてくれない。スウェーデンは「民間主導で携帯送金アプリが普及し、多くの人が現金を持ち歩かないキャッシュレス先進国」かもしれないが、「キャッシュレス」の「実験」をしているとは考えにくい。
「スウェーデン中銀(リクスバンク)は、自国通貨のデジタル版『eクローナ』発行を検討中」とも書いている。これもどこに「実験」の要素があるのか不明だ。「発行」に向けての「実験」を進めているのならば、そう書くべきだ。調べた範囲では、そうした事実は確認できなかった。
※今回取り上げた記事「中外時評~日本は北欧に何を学ぶのか」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180712&ng=DGKKZO32870510R10C18A7TCR000
※記事の評価はC(平均的)。藤井彰夫上級論説委員への評価はCで確定とする。藤井論説委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。
現状は「自由貿易体制」? 日経 藤井彰夫編集委員に問う
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/07/blog-post_9.html
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