2018年5月28日月曜日

週刊ダイヤモンド堀内亮記者「LNGパニック」の支離滅裂

週刊ダイヤモンド6月2日号の 特集「電力・ガス業界騒然! LNGパニック」の中の「日韓タッグで“爆買い”中国に対抗~急浮上する東アジアハブ構想」という記事は、支離滅裂と言える内容だった。筆者は堀内亮記者。以前にもLNG関連でおかしな記事を書いていた。今回の記事はどの辺りが問題なのか。具体的に指摘していく。


◎疑問その1~「東アジアハブ構想」は「急浮上」してる?

多比良港(長崎県雲仙市)の有明フェリー
        ※写真と本文は無関係です
まず「日韓タッグで“爆買い”中国に対抗~急浮上する東アジアハブ構想」という見出しから検証してみたい。「日韓共同のハブ構想が急浮上している」と堀内記者は言うが、どうも怪しい。記事では以下のように書いている。

【ダイヤモンドの記事】

こんなアイデアがある。橘川武郎・東京理科大学大学院教授は、日韓共同で運営する「東アジアハブ構想」を提唱する。「日本、韓国のエネルギー安全保障上の観点からも必要」とし、「スポットでLNGを買いたい中国にとっては、補完的な役割にもなる」と主張する。

なぜ日韓のタッグなのか。確かに、輸入国世界1位と3位の日韓が組めば4割を超える世界シェアとなり、市場整備に必要な取引量は増大する。

実は、日本同様に韓国も“アジア・プレミアム”で手痛い失敗をしており、需給を反映した価格指標を持ちたいという思いは日韓で共通しているのだ。

さらにLNGの転売を禁止する「仕向け地条項」の撤廃に向けて、日韓で“連携”した実績もある。橘川氏の言う通り、日韓共同ハブ構想のポテンシャルは高そうだ。

◇   ◇   ◇

橘川武郎・東京理科大学大学院教授」が「東アジアハブ構想」を提唱しているのは分かった。だが「急浮上」している感じはない。多くの人がこの「構想」に関心を抱き、議論が盛り上がっているのならば「急浮上」と表現するのも分かる。だが、記事からは「橘川氏」以外への広がりが感じられない。

しかも記事では「とどのつまり、国内の電力・ガス各社も商社も、本気で日本に取引ハブをつくろうなどとは、みじんも思っていないのだ」とも解説している。日本単独でできる「ハブ」さえ誰もできると思っていないのに、本当に「東アジアハブ構想」は「急浮上」しているのか。


◎疑問その2~スポット市場は「取引量に乏しい」?

LNGの取引は長期契約が基本で、いわゆるスポット取引の構成比は全体の3割にとどまる。市場に最も必要とされる取引量に乏しいのだ。しかも、LNG取引は相対契約がほとんど。わざわざ市場で取引する必要性がないからだ」との記述も問題が多い。

まず「スポット取引の構成比は全体の3割」ならば、そこそこのシェアがあると思える。なのに「取引量に乏しい」と結論付けている。仮に構成比が1割でも、市場全体が十分に大きければ必要な流動性は確保できる。記事の説明では「取引量に乏しい」かどうか判断できない。

しかも以下の記述と整合しない。

【ダイヤモンドの記事】

日本がLNG取扱量世界一の地位にあぐらをかいている余裕はない。なぜなら、17年冬にLNG市場の勢力図を塗り替える異変があったからだ。中国の“爆買い”だ。

中国政府が発電用や産業用の燃料を石炭から大気汚染の少ない天然ガスに転換する政策を進め、それに冬場の需要期が重なって天然ガスが不足。中国がスポット取引でLNGを買いあさった

◇   ◇   ◇

取引量に乏しい」のに「中国がスポット取引でLNGを買いあさった」らしい。流動性の乏しいスポット市場では「爆買い」が難しいはずだ。それができたとすれば「取引量に乏しい」との説明が怪しくなる。


◎疑問その3~「市場で取引する必要性がない」?

わざわざ市場で取引する必要性がない」との説明も整合性の問題がある。以下の記述とうまく噛み合わないからだ。

【ダイヤモンドの記事】

一方、政府に「市場を整備してほしい」と要望していた電力・ガス各社。実のところ、政府に面従腹背の行動を取っている。

すでに「情報収集」と称して、世界のトレーダーが集うシンガポールに各社共に拠点を設けている。経産省に「需給を反映した価格指標を作ってほしい」と要望しておきながら、取引価格やその実態を尋ねられれば「競争の中身に関わる」と開示を拒否しているという。

◇   ◇   ◇

堀内記者によると、「電力・ガス各社」は「わざわざ市場で取引する必要性がない」のに政府に対して「市場を整備してほしい」と要望していたことになる。これは奇妙だ。しかも「すでに『情報収集』と称して、世界のトレーダーが集うシンガポールに各社共に拠点を設けている」らしい。本当に「取引する必要性がない」のか。

特集の別の記事には以下の記述もある。

【ダイヤモンドの記事】

差し迫るLNG余剰危機を前に、電力・ガス各社に方策はあるのか。

そこで電力・ガス各社が編み出した手段が海外市場でのトレーディングだ。だが、「今頃トレーディングセミナーに参加して“お勉強中”の初級者が、百戦錬磨の海外プレーヤーと対等に渡り合えるはずもない」(電力関係者)。

◇   ◇   ◇

海外市場でのトレーディング」に活路を見出そうとしているのだから、やはり「わざわざ市場で取引する必要性がある」と理解するしかない。


◎疑問その4~日韓が組めば「取引量」が増大?

東アジアハブ構想」に関して「確かに、輸入国世界1位と3位の日韓が組めば4割を超える世界シェアとなり、市場整備に必要な取引量は増大する」と堀内記者は言う。だが「4割を超える世界シェア」となるのは、あくまで輸入量だ。「長期契約」中心の取引形態が変わらないのならば、日韓が組んでも「取引量」が「増大する」とは限らない。
島原城からの風景(長崎県島原市)※写真と本文は無関係です

記事には「世界のトレーダーが集うシンガポール」との記述があるので、アジアのスポット市場で中心的役割を果たしているのはシンガポールだと推測できる。シンガポールは輸入量のシェアが高いから、スポット市場で主導的な地位を築いているのか。堀内記者も少し考えれば分かるはずだ。


◎疑問その5~中国の「脅威」に日韓で対抗?

堀内記者は「中国の脅威」に対して「東アジアハブ構想」が有効だと訴えるが、その論理が理解できなかった。問題のくだりを見ていこう。

【ダイヤモンドの記事】

その結果、中国のLNG年間輸入量は前年比4割増の3900万トンとなり、韓国を抜いて日本に次ぐ世界2位に躍り出た。

世界一の日本とはまだ4000万トン以上も差はあるが、日本エネルギー経済研究所の小山堅首席研究員は「いずれ中国が日本を抜く可能性は高い」と言う。中国の脅威が、迫ってきているのだ

LNG取扱量世界一の称号が奪われても日本がLNG市場をリードしたいならば、HHやNBPのような日本発の価格指標を作っておくに越したことはない。中国をかく乱するくらいの“ウルトラC”の方策が必要かもしれない

◇   ◇   ◇

ここから判断すると、輸入量で中国が日本を上回るような事態になるのが「脅威」なのだろう。そして「中国をかく乱するくらいの“ウルトラC”の方策」に当たるのが「東アジアハブ構想」だと読み取れる。

中国が輸入量を増やしLNGの需給が逼迫することを「脅威」と捉えるのは分からなくもない。だが、そもそも「中国をかく乱するくらいの“ウルトラC”の方策」が必要だろうか。市場経済の下で需要の増大に応じて中国が輸入を増やすのであれば、責められるような行為ではない。なのに「中国をかく乱するくらいの“ウルトラC”の方策」が必要だと考えるのが、よく分からない。「輸入を増やせないように嫌がらせをしてやれ」とでも言いたいのか。

日韓のタッグ」による「東アジアハブ構想」が中国の「脅威」への対抗策になるとの考えも謎だ。日韓で作る新たなスポット市場に中国も参加するのならば、「爆買い」の場が増えるだけだ。中国を排除するのならば、他のスポット市場などでLNGを「爆買い」しようとするだろう。

東アジアハブ構想」が実現してもしなくても、中国の「爆買い」を止めることはできないのではないか。「東アジアハブ構想」は「日本、韓国のエネルギー安全保障上の観点からも必要」と専門家の「橘川氏」が語っているようなので、それなりの妥当性があるのかもしれない。ただ、記事の説明では全く納得できなかった。


◎疑問その6~長期取引は見直さない?

日本同様に韓国も“アジア・プレミアム”で手痛い失敗をしており、需給を反映した価格指標を持ちたいという思いは日韓で共通している」と堀内記者は言う。「LNGの輸入価格が原油価格に左右される状況から脱したいと、政府がぶち上げたのが『LNG市場戦略』」で、電力・ガス各社も「政府に『市場を整備してほしい』と要望していた」とも記している。

だったら、長期取引での原油価格連動の契約を改めるのが先ではないか。既契約分は変更が難しいとしても、新規契約は「需給を反映した価格」にすればいい。そうした取り組みを進めているのかいないのか記事では触れていない。記事からは「長期契約=原油価格連動」が変更不可能な前提のように感じられる。常識的には考えにくいし、仮に変更できない事情があるのならばそこを解説すべきだ。


◎疑問その7~日本は「主導権」を持ってる?

いずれにしろ日本がLNG市場で主導権を握り続けたいならば、官民、アジアを巻き込んだ取引ハブの整備は必須だ。さもなくば、あっさり日本のプレゼンスは中国に奪われてしまうに違いない」と堀内記者は記事を締めている。「LNG取扱量世界一の称号が奪われても日本がLNG市場をリードしたいならば、HHやNBPのような日本発の価格指標を作っておくに越したことはない」との記述もあるので、LNG市場での「主導権」は日本にあると堀内記者は確信しているはずだ。

これが解せない。記事には以下のような説明もある。

【ダイヤモンドの記事】

一方、世界を見渡してみると、原油価格に連動した価格指標は日本、厳密に言えばアジアだけだ。米国のヘンリー・ハブ(HH)、英国のナショナル・バランシング・ポイント(NBP)は需給を反映した価格指標になっている。

下図の通り、原油価格が1バレル当たり100ドル前後と高騰した2011~14年は、原油価格に左右されないHHやNBPに比べ日本のLNG輸入価格が高いのが分かるだろう。これが、日本の電力・ガス各社が高値つかみした、いわゆる“アジア・プレミアム”だった。

◇   ◇   ◇

アジア・プレミアム」を払って他国より高い価格でLNGを輸入せざるを得なかった日本がLNG市場で「主導権」を握ってきたと言えるのか。「主導権」を持っているのならば、日本にとってもっと有利な条件で取引できたはずだ。

記事には「LNGの転売を禁止する『仕向け地条項』の撤廃に向けて、日韓で“連携”した実績もある」とも書いている。「主導権」を握っていた日本がなぜ「仕向け地条項」を受け入れる必要があったのか。不利な条件で取引していても「主導権」を握っているとするならば、「主導権」は持っていても意味がないのではないか。


◎疑問その8~「取引ハブの整備は必須」?

日本がLNG市場で主導権を握り続けたいならば、官民、アジアを巻き込んだ取引ハブの整備は必須だ」との説明もどう理解すべきか迷う。

仮に、スポット市場での価格決定権を持つかどうかで「主導権」の有無が決まるとすれば、「取引は相対契約がほとんど」の日本には元々守るべき「主導権」がないはずだ。

「取引量の大きな国がスポット市場でも価格決定権を握る」とすると、いくら「取引ハブの整備」に力を入れても、その市場で中国の取引シェアが大きくなれば、やはり「主導権」は中国が握ってしまう。なぜ「主導権」を握り続けるために「取引ハブの整備は必須」なのか、やはり分からない。

結局、この記事の解説は疑問だらけだ。これだけおかしな説明が多いのだから「支離滅裂」と言わざるを得ない。堀内記者は要注意の書き手だ。


※今回取り上げた記事「日韓タッグで“爆買い”中国に対抗~急浮上する東アジアハブ構想
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/23619


※記事の評価はD(問題あり)。堀内亮記者への評価はC(平均的)からDへ引き下げる。堀内記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

天然ガスは「高止まり」? 週刊ダイヤモンド堀内亮記者に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_6.html

堀内亮記者の説明下手が目立つ週刊ダイヤモンド「Inside」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/inside.html

冒頭から分かりにくい週刊ダイヤモンド「新・新エネ戦争」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/blog-post_28.html

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