2018年5月26日土曜日

「日本ワインも需要増に追いつかず」が怪しい日経ビジネス

日経ビジネス5月28日号に載った「時事深層 INDUSTRY 日本ワインも需要増に追いつかず~ウイスキーだけではない酒不足」という記事によると「日本産のブドウを原料に造る日本ワインも、原料不足のため酒類各社の販売拡大にブレーキがかかる」というが、どうも怪しい。「日本ワインも需要増に追いつかず」に「酒不足」が起きていると納得できる具体的な材料が記事には全く見当たらない。
佐世保港(長崎県佐世保市)
       ※写真と本文は無関係です

日本ワイン」に関する記事の説明を見ていこう。

【日経ビジネスの記事】

供給懸念から販売拡大にブレーキがかかっているのは、ウイスキーだけではない。国産ブドウを原料にして国内のワイナリーで造る日本ワインも、原料不足が課題だ。日本ワインも、ウイスキーと同様に国際コンクールで入賞する商品が出るなど品質が向上してきた。飲食店での取り扱いが増えたほか、海外からのニーズが高まる。

キリングループのワイン大手、メルシャンの代野照幸社長は「国内ワイン市場に占める日本ワインのシェアはまだ5%ほどと小さいが、3年連続で伸びている有望な市場だ」と期待を寄せる。



◎「不足」の根拠はどこに?

これを読んで「日本ワインは原料の国産ブドウが不足してるんだな。そのせいで販売拡大ができなくなってるな」と思えただろうか。「原料不足が課題だ」とは書いているものの、具体的な話は一切ない。「原料不足のため酒類各社の販売拡大にブレーキがかかる」と言えるだけの事例もデータも出てこない。一方で「3年連続で伸びている有望な市場だ」という「販売拡大にブレーキがかかっていない」とも取れるコメントはしっかり使っている。

記事は以下のように続く。

【日経ビジネスの記事】

ただ、生産拡大はウイスキー以上に難しいとみられる。農家の高齢化で生産者の数が減っている上、地球温暖化の影響もあり、ブドウ栽培に適した地域が限定されるためだ。そこで各社は自らブドウ栽培に適した地を探し出し、自社農場の拡大に乗り出している。

アサヒビールは北海道余市町に新たな農地を取得し、面積を5倍に広げた。サッポロビールも長野県の農地を拡張し、さらに北海道に自社農地を新規開設する。サントリーワインインターナショナルは農地の栽培品種を見直すほか、農業法人も活用し、生産量の確保に力を入れる。メルシャンも農地を増やす計画を立てている。


◎拡大「難しい」はずでは?

生産拡大はウイスキー以上に難しい」はずだったのに、各社は原料確保に向けた「拡大」策を次々と打ち出しているようだ。本当に「生産拡大は難しい」のか。

ついでに言うと「自社農地を新規開設」には違和感がある。「開設」と組み合わせるならば「農場」とした方がいい。

日本ワインも需要増に追いつかず~ウイスキーだけではない酒不足」という見出しを付けて記事を作るのならば、「日本ワイン」の供給が需要に追い付いていない状況をまずはしっかり描くべきだ。ワインの供給が追い付かない原因がブドウ不足ならば、そちらの状況説明も欲しい。今回の記事にはその辺りが丸々抜けている。

そして「日本ワインも、ウイスキーと同様に国際コンクールで入賞する商品が出るなど品質が向上してきた。飲食店での取り扱いが増えたほか、海外からのニーズが高まる」という前向きな話に移り、さらには「3年連続で伸びている有望な市場だ」と「メルシャンの代野照幸社長」に語らせている。

記事中でワインに関するコメントは「代野照幸社長」しか出てこない。推測だが、日本ワインに関して「原料不足」が起きているのかどうか、生産が需要に追い付かないのか、筆者の長江優子記者はきちんと取材していないのではないか。

「違う。ちゃんと取材した。原料となるブドウの不足は確かに起きているし、日本ワインの供給も全く追い付いていない」と長江記者は言うかもしれない。だとしたら、なぜ記事で具体的な根拠を示さなかったのかとの疑問が生じる。

記事を読む限りでは「日本ワインの原料となるブドウは不足していない」「日本ワインの供給は需要にほぼ対応できている」「日本ワインの生産を拡大する上で、ワイン栽培に関する制約はそれほど大きくない」と理解しておいた方が合っているような気がする。もちろん推測の域は出ないが…。


※今回取り上げた記事「時事深層 INDUSTRY 日本ワインも需要増に追いつかず~ウイスキーだけではない酒不足
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/NBD/15/depth/052101054/?ST=pc


※記事の評価はD(問題あり)。長江優子記者への評価も暫定でDとする。

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