2018年5月17日木曜日

「医学部への道」が奇妙な週刊ダイヤモンド「医学部・医者」特集

週刊ダイヤモンド5月19日号の「20年後も医学部・医者で食えるのか? 医歯薬看の新序列」という特集について、さらに問題点を指摘したい。2年前の特集「最新 医学部&医者」もそうだったが、図表にツッコミどころが目立つ。例えば、今回付けた図で「医学部入試の壁は、早慶理工学部以上!」と書かれた壁を乗り越えているのは「三大都市圏の私立中高一貫校生」だけだ。だが「早慶理工学部以上」に合格できる学力を持つ生徒は「三大都市圏」以外にも公立高校にも当たり前にいる。
筑後川橋(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係です

特集の担当者らには以下の内容で問い合わせを送ってみた。

【ダイヤモンドへの問い合わせ】

週刊ダイヤモンド編集部 土本匡孝様 臼井真粧美様 西田浩史様 野村聖子様

5月19日号の「20年後も医学部・医者で食えるのか? 医歯薬看の新序列」という特集についてお尋ねします。問題としたいのは「Prologue 小学校時代から始まる『安定』『高収入』医者へのルート大争奪戦」という記事に付けた図についてです。この図では「三大都市圏の私立中高一貫校生」「公立トップ校生」「その他の高校生」の3つに分けて医学部に入り医師になるまでの道のりを示しています。質問は以下の5つです。

(1)図には「医学部入試の壁は、早慶理工学部以上!」と記された壁があり、これを越えているのは「三大都市圏の私立中高一貫校生」だけです。言うまでもありませんが、こうした壁を越えられる学力を持つ生徒は「公立トップ校生」「その他の高校生」の中にも当たり前にいます。この「」の説明は誤りではありませんか。

(2)さらに「公立トップ校生」に関しては「早慶理工学部以上」の壁を越えられず「地方国公立大の地域枠入試を目指す」ルートにしかありません。言うまでもありませんが、公立高校から地域枠のない旧帝大の医学部に合格する生徒も珍しくありません。医学部を目指す「公立トップ校生」には「地方国公立大の地域枠入試」しか選択肢がないような表記は誤りではありませんか。

(3)また、この「地方国公立大の地域枠入試を目指す」ルートからは「下位層」が「ダメなら下位国立大学か学費を払えそうな私立大医学部」に流れると示しています。これもおかしな話です。「公立トップ校生」は「早慶理工学部以上」の壁を越えられないはずなのに「下位国立大学」や「私立大医学部」を目指す道があるようです。ここはどう理解すればよいのでしょうか。

(4)図の中の医学部のピラミッド構造にも整合性の問題があります。ピラミッドの頂点には「医学部四天王」として東京大、京都大、大阪大、慶應義塾大が入り、これらを「」と呼んでいます。その下に「旧帝大」「旧制六医科大」があって、さらに下に「私立旧制医科大」が出てきます。ここでは「私立御三家」として慶應義塾大、東京慈恵会医科大、日本医科大が「私立旧制医科大」に入ると説明しています。

つまり慶應は頂点の「」にも、上から4番目の階級の「私立旧制医科大」にも入っています。矛盾していませんか。

(5)図で「三大都市圏の私立中高一貫校生」「公立トップ校生」「その他の高校生」の3つに分けているのも解せませんでした。特に「三大都市圏の私立中高一貫校生」と区分しているのが謎です。国立大医学部への合格者ランキングを見ると、久留米大附設(福岡)やラ・サール(鹿児島)といった「三大都市圏以外の私立中高一貫校」が上位に入っています。こうした高校を除外して「三大都市圏」に絞る意味があるでしょうか。

さらに言えば、「公立トップ校」もどう定義しているのか不明です。各都道府県で入試の難易度が最も高い公立高校という意味でしょうか。東京都で言えば、日比谷が「公立トップ校」で西や国立が「その他の高校」となるのでしょうか。しかし、日比谷と西、国立を分ける意義は感じられません。

学区内の「公立トップ校」と言いたいのかもしれませんが、この区分もあまり意味がなさそうです。例えば熊本県では公立トップの熊本と2番手の済々黌が同じ学区です。この2校に大学合格実績で大差はありません。3つに分けるならば「入試難易度上位の私立中高一貫校生」「入試難易度上位の公立校生」「その他の高校生」とでも分けるべきでしょう。

質問は以上です。御誌では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。


◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた特集「20年後も医学部・医者で食えるのか? 医歯薬看の新序列
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/23478


※特集全体の評価はD(問題あり)。担当者らへの評価は以下の通りとする。

土本匡孝記者:Dを維持
臼井真粧美副編集長:暫定D→D
西田浩史記者:Dを維持
野村聖子記者:暫定D→D


※今回の特集に関しては以下の投稿も参照してほしい。

説明が雑な週刊ダイヤモンド「医学部・医者」特集
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/05/blog-post_19.html

3番手でも「2番手グループ」?  週刊ダイヤモンド医学部特集
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/05/blog-post_73.html

近大は「医科大学」? 週刊ダイヤモンド「医学部・医者」特集
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/05/blog-post_18.html

今回も「学閥」に疑問 週刊ダイヤモンド「医学部・医者」特集
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/05/blog-post_82.html


※ダイヤモンドは2016年6月18日号でも「最新 医学部&医者」という特集を組んでいる。これに関しては以下の投稿を参照してほしい。

「学閥」に疑問残る 週刊ダイヤモンド特集「医学部&医者」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_15.html


※学校関連で多くの記事を書いている西田記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「大学序列崩し」が見えない週刊ダイヤモンド西田浩史記者の記事
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/07/blog-post_7.html

偏差値トップは東大理3? 週刊ダイヤモンド「大学序列」の矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_68.html

昔の津田塾は「女の東大」? 週刊ダイヤモンド特集「大学序列」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_11.html

九州知らずが目立つ週刊ダイヤモンド特集「大学序列」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_17.html

「中高一貫校」主要178校の選び方がおかしい週刊ダイヤモンド
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/03/178.html

「医学部は三大都市圏の高校出身が大多数」? 週刊ダイヤモンドの誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/04/blog-post_16.html

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