2018年5月6日日曜日

「ぐっちーさん」に自由に書かせ過ぎる東洋経済オンライン

投資銀行家の ぐっちーさん(山口正洋氏)に関しては、以前から書き手として評価していない。東洋経済オンラインに載った「地方の若者に『夢を持て』と言っても無理筋だ~都会と地方の根本的な格差はどこにあるのか」(5月5日付)という記事も、見出しに釣られて読んでみたら、お粗末な内容だった。関係のない話はやたらと多いし、「地方の若者に『夢を持て』と言っても無理筋だ」と言える根拠も見当たらない。
諫早湾干拓堤防道路 ※写真と本文は無関係です

東洋経済オンライン編集部は「ぐっちーさん」に自由に記事を書かせ過ぎだ。任せておけばきっちりと記事を仕上げてくるような書き手ではない。見出しに関わる部分を見た上で、問題点を指摘したい。

【東洋経済オンラインの記事】

実は最近、新井紀子・国立情報学研究所教授(大ベストセラー「AI vs. 教科書が読めない子供たち」の著者)と最近いろいろお話をした中で、新井先生から「おもしろいから読んでみなさいよ」、と言われた記事がこちらです(「底辺校」出身の田舎者が、東大に入って絶望した理由)。

「東洋経済オンライン」ではないので、微妙ですが(笑)、実際逆に東京ど真ん中の出身者として岩手県・紫波町で10年近く仕事をしてきてみると、これは実感に非常に近い。

要するに東京のように「モデルになるような大人」(大学生を含む)が地方にはほとんどいない、というどうしようもない、しかし冷徹な現実があるのです。

紫波町も例外ではありません。

岡崎正信君(オガールプラザ株式会社の社長)はお父様も実は岩手の方ではありませんし、言って見れば「叩き上げの経営者」(成功者)の家に生まれておりまして、子供のころから非常に幅広い視野をもって、東京の大学にやってきた。しかし、地方の多くの高校生にとっては、自分が大学生になるということ自体にリアルな実感がない訳です。

そのなかで「夢をもて!」とかなんとか叫んだところで、彼らが住んでいる街(エリア)そのものに極端に言えば夢がないわけで、あるのは補助金で建てた、「いらない箱もの」(建物自体は東京も負けるような立派なもの)とイオングループなどのショッピングモールだけ(もちろん、イオンをけなしているわけではありません)。

こうした生活の中で若者に「夢を持て」、ということ自体がどれだけ非現実的か、これは実際に地方で仕事をしないとわかりません。「マイルドヤンキー」というのは、まさにそういう中から育ってきているのです。

◇   ◇   ◇

◎問題その1~「夢」をどう捉えてる?

彼らが住んでいる街(エリア)そのものに極端に言えば夢がない」とぐっちーさんは言っているが、「」は人それぞれという認識はあるのだろうか。「看護師になる」「教師になる」といった「」は、ぐっちーさんにとっては「」ではないのか。「」と認めているのならば、「彼らが住んでいる街(エリア)」には看護師も教師もいないのか。ちょっと考えにくい。
流川桜並木と人力車(福岡県うきは市)
        ※写真と本文は無関係です


◎問題その2~「地方」をどう捉えてる?

東京のように『モデルになるような大人』(大学生を含む)が地方にはほとんどいない」とぐっちーさんは言う。何の注釈もなく「地方には~」と書いているのが引っかかる。「東京以外」「首都圏以外」「三大都市圏以外」のいずれで「地方」を捉えても、「『モデルになるような大人』(大学生を含む)が地方にはほとんどいない」とは信じ難い。「地方に住む大人はダメな奴ばかりなので、ほとんどモデルにはならない」といった極端な主張にしない限り成立しない。

仮に「岩手県・紫波町」には「『モデルになるような大人』(大学生を含む)がほとんどいない」としても、それが他の「地方」にもなぜ当てはまるのか説明がない。「大学生」が多数いる「地方」は当たり前に存在する。その程度も分からないようでは「日本人としての常識が欠けている」と言われても仕方がない。


◎問題その3~夢を持つためには同じ地域にモデルが必要?

ぐっちーさんは「夢を持つためには同じ地域に住むモデルが必要」という前提を持っているようだ。個人的には「モデル」さえ必須だとは思わない。例えば「地球外生命体を最初に発見する」という夢を持つためには、地球外生命体を発見した経験を持つ「モデル」が要るだろうか。

百歩譲って「モデル」はいた方が好ましいとしよう。その場合でも同じ地域に住んでいる必要はない。テレビで試合を観て「大谷翔平のようなプロ野球選手になりたい」という夢を持つのは不可能なのか。スティーブ・ジョブズ氏の伝記を読んで「自分もあんな起業家になりたい」と夢を持つのは、地方に住んでいたら無理なのか。少し考えれば分かるはずだ。


◎問題その4~夢を実現させている地方出身者をどう捉える?

プロ野球選手でもJリーガーでもアイドルでもいい。医者でも官僚でも弁護士でもいい。地方出身で「」を実現させている人は数え切れないほどいる。そういう現実をぐっちーさんはどう捉えるのか。全て例外として切り捨てるのか。


◎問題その5~夢を持つには大学進学が必要?

地方の多くの高校生にとっては、自分が大学生になるということ自体にリアルな実感がない訳です。そのなかで『夢をもて!』とかなんとか叫んだところで」とぐっちーさんは述べている。地方でも大学進学率は4割前後に達しているので「地方の多くの高校生にとっては、自分が大学生になるということ自体にリアルな実感がない」という説明も怪しいが、取りあえず受け入れてみよう。

仮に「大学生になるということ自体にリアルな実感がない」としても「」なんていくらでも持てる。プロ野球選手やJリーガーを目指すならば、高卒で何の問題もない。寿司職人になるという夢を持つ人も同様だ。「大学に行けなければ夢なんて持てない」という前提に、ぐっちーさんの偏見が垣間見える。

繰り返すが、「」なんて人それぞれだ。職業に絡める必要もない。「結婚する」でも「家を持つ」でも「車を買う」でも問題はない。「そんなの夢とは呼ばない」とぐっちーさんが信じているのならば、その点を明示すべきだ。

この程度のことは東洋経済オンライン編集部の担当者も理解できるだろう。ぐっちーさんに記事を書かせるのならば、きちんと指導してほしい。それが無理なら書き手から外すべきだ。今の完成度で記事を世に送り出すのは、誰のためにもならない。


※今回取り上げた記事「地方の若者に『夢を持て』と言っても無理筋だ~都会と地方の根本的な格差はどこにあるのか
https://toyokeizai.net/articles/-/219477


※記事の評価はD(問題あり)。ぐっちーさん(山口正洋氏)への評価はDを据え置く。ぐっちーさんに関しては以下の投稿も参照してほしい。

ぐっちーさん「ニッポン経済最強論!」の雑な説明(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_19.html

ぐっちーさん「ニッポン経済最強論!」の雑な説明(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_24.html

ぐっちーさん「ニッポン経済最強論!」の雑な説明(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_5.html

ぐっちーさん「ニッポン経済最強論!」の雑な説明(4)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_27.html

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