2018年1月8日月曜日

根拠なしに結論を導く日経「パンゲアの扉」のキーワード解説

8日の日本経済新聞朝刊国際面に載った「パンゲアの扉~キーワード ジニ係数 IT革命、格差広げる?」という記事は、話の流れが結論と合っていない。記事の全文は以下の通り。
新鳥栖駅(佐賀県鳥栖市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

グローバリゼーションは富を生む一方で、再配分がうまく機能しなければ、格差も引き起こす。

政府の2017年の通商白書によると、税金や社会保障制度で低所得層などに所得を再分配した後の世帯所得の格差を示す「ジニ係数」は、日本を除く先進国で上昇傾向にある。係数は0から1の間で1に近づくほど格差が大きいことを示す。

経済協力開発機構(OECD)の加盟国の平均は10年の0.315から14年に0.318に上がった。15年に米国は0.39、英国は0.36で日本より高い水準にある

通商白書では格差の主な要因としてIT(情報技術)の革新を指摘する。ITがカバーする仕事の分野が広がり、知識に乏しい人が創造的な仕事をできなくなったり、雇用自体が失われたりする事例が増えた。格差の解消には国民のスキルを底上げする必要がある。

白書は貿易は格差を生む要因ではなく縮小させていると主張する。貿易額の対国内総生産(GDP)比が高い国ほどジニ係数が低い傾向がある。

日本は格差や反グローバル化の動きは米欧ほど目立たない。京大の柴山桂太准教授は「日本でも社会的弱者の不満が糾合され、反グローバル化の機運が高まるのは時間の問題だ」と語る。


◎「時間の問題」と言える根拠は?

記事の結びは「京大の柴山桂太准教授は『日本でも社会的弱者の不満が糾合され、反グローバル化の機運が高まるのは時間の問題だ』と語る」となっている。だったら「日本でも反グローバル化の機運が高まるのは時間の問題だ」と思える材料が欲しい。記事で提示しているのは、むしろ逆の材料だ。

税金や社会保障制度で低所得層などに所得を再分配した後の世帯所得の格差を示す『ジニ係数』は、日本を除く先進国で上昇傾向にある」のであれば、日本では低下か横ばいのはずだ。「15年に米国は0.39、英国は0.36で日本より高い水準にある」とも書いているので、水準自体もそれほど高くない。

さらに「日本は格差や反グローバル化の動きは米欧ほど目立たない」のであれば、なぜ「反グローバル化の機運が高まるのは時間の問題」なのか理解できない。「日本では社会的弱者の不満が糾合されて反グローバル化の機運が高まる可能性は低い」とのコメントで記事を締めた方がしっくり来る。

結論に説得力を持たせる記事作りを心掛けてほしい。


※今回取り上げた記事「パンゲアの扉~キーワード ジニ係数 IT革命、格差広げる?
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180108&ng=DGKKZO25430110Y8A100C1FF8000


※記事の評価はD(問題あり)。今回の連載に関しては以下の投稿も参照してほしい。

冒頭から不安を感じた日経 正月1面企画「パンゲアの扉」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_2.html

アルガンオイルも1次産品では? 日経「パンゲアの扉」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_4.html

スリランカは東南アジア? 日経「パンゲアの扉」の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_28.html

0 件のコメント:

コメントを投稿