2018年1月6日土曜日

「かつての日本人は仕事熱心」に根拠がない日経の社説

6日の日本経済新聞朝刊総合1面に「いつの間にか『仕事熱心』をやめた日本人」という社説が載っている。筆者は「かつての日本人は仕事熱心だった」との前提で社説を書いているが、本当にそうだろうか。社説の前半部分を見ていこう。

筑後川と耳納連山(福岡県久留米市)
           ※写真と本文は無関係です
【日経の社説】

「日本人は仕事熱心」という常識はもはや過去のものかもしれない。米調査会社のギャラップが昨年公表した、仕事への熱意(エンゲージメント)についての国際比較によると、日本で「仕事に熱意を持って積極的に取り組んでいる」従業員の比率は全体の6%。調査した139カ国のなかで132位と、最下位級にとどまった

ほかの調査でもほぼ同様の結果が出ている。与えられた仕事を指示通りにこなす受け身の勤勉性はそれなりに高いものの、自ら主体的に仕事に取り組む姿勢に欠ける現状は非常に心配だ。

働き手の熱意の低い職場から目の覚めるようなイノベーションが生まれないのは自明だろう。企業業績と社員の熱心さの間には強い相関関係があることも知られている。日本企業の収益力が低い一因は社員の熱意不足ではないか。

仕事の「やらされ感」が強まれば、不祥事や労働災害も起こりやすくなる。政府が旗を振る生産性革命も、個々人が旧態依然の仕事ぶりを改め、新たな働きかたに挑戦しようとしなければ、絵に描いたモチに終わる。各人の熱意を引き出し職場を活性化することは、各企業にとっても日本全体にとっても待ったなしの課題である。

かつて旺盛だった「仕事熱心さ」が後退した理由のひとつは、人員の年齢構成のいびつさだろう。若い人が新しいアイデアを出しても、職場で多数派を占めることの多い中高年層が抵抗し、はね返される。そんなことが繰り返されれば、あきらめムードが広がり誰も何も言わなくなる。


◎過去の「熱心さ」は何で判断?

米調査会社のギャラップが昨年公表した、仕事への熱意(エンゲージメント)についての国際比較」で日本が「最下位級にとどまった」ことを根拠に、今の日本人は「仕事熱心」ではないと筆者は判断している。これは分かる。

だが「かつて旺盛だった『仕事熱心さ』が後退した」ことを示すデータは見当たらない。「かつて」がいつ頃を指すのかも不明だ。「かつては仕事熱心だった」との前提に根拠がないのに「いつの間にか『仕事熱心』をやめた日本人」というテーマで社説を書くのは無理がある。

社説では日本人について「与えられた仕事を指示通りにこなす受け身の勤勉性はそれなりに高いものの、自ら主体的に仕事に取り組む姿勢に欠ける」と評している。個人的な感想で恐縮だが、20年前も30年前もそうした傾向はあった気がする。

「そんなことはない。日本人の仕事熱心さは大きく減退している」と筆者が考えるのならば、「かつて」との比較をデータで示すべきだ。間違った前提に基づいて分析を進めても、意味のある結論は得られないだろう。


※今回取り上げた社説「いつの間にか『仕事熱心』をやめた日本人
https://www.nikkei.com/article/DGXKZO25406090V00C18A1EA1000/


※社説の評価はD(問題あり)。

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