2018年1月31日水曜日

橋下徹氏リツイート訴訟で山田厚史氏の主張に異議あり

週刊エコノミスト2月6日号に載った「ネットメディアの視点~『リツイートでも名誉毀損』 橋下氏がジャーナリストを訴えた」という記事は興味深い内容だった。筆者の山田厚史氏(デモクラシータイムス同人)は「橋下氏がジャーナリストを訴えた」件で「ジャーナリスト」に同情的であり、橋下氏には「リツイートした内容が虚偽だというのなら、ひと言、訂正を求めて発信するゆとりはなかったのか」などと大人気のなさを指摘している。だが、山田氏の主張にはあまり説得力を感じなかった。記事を見ながら、思う所を述べてみたい。
横浜ランドマークタワー(横浜市)
       ※写真と本文は無関係です

【エコノミストの記事】

大阪府の職員が水死体で発見された事件が2010年にあった。遺書もあり警察は自殺と断定。雑誌『FACTA(ファクタ)』は11年1月号に「幹部職員の自殺に大阪府が異常な緘口令(かんこうれい)」という記事を掲載した。橋下徹知事(当時)が商工労働部の不手際を問題にし、叱られた部長が担当者を叱責したことが自殺と関係がありそうだという記事だった。10年度に6人の府職員が自殺したことが府議会で明らかになり、橋下知事の労務管理が職場を疲弊させているのではないかと取りざたされた。

昨年10月、ツイッター上で蒸し返すような匿名のツイートが発信された。これをネットメディアIWJ代表の岩上安身氏がリツイート(そのまま投稿)した。このことが裁判闘争へと発展。「岩上氏のリツイートによって名誉が毀損(きそん)された」と橋下氏は12月15日、大阪簡易裁判所に提訴。損害賠償100万円と弁護士費用10万円を支払えという。

これが名誉毀損になったら自由な言論空間であるSNSの世界がゆがめられる。訴訟権の乱用というしかない」。記者会見した岩上氏はこう述べ、「リツイートした時点で橋下氏から抗議や反論は全くなかった。沈黙からいきなり訴訟というのは何を考えているのか」と首をかしげる。

原告・被告とも訴状の内容を明かしていないが、橋下氏はツイッターでこう発信している。「リツイートした内容は『橋下が府の幹部を自殺に追い込んだ』という完全な虚偽事実だ。府庁に電話一本かければ虚偽であることがすぐに分かる内容だ。ジャーナリストを名乗る以上表現の責任を負う」「ちょっと確認すれば虚偽であることが分かる虚偽事実を公にすれば、たった1回のリツイートでも名誉毀損に該当する」。


◎岩上氏に問題があるような…

これが名誉毀損になったら自由な言論空間であるSNSの世界がゆがめられる。訴訟権の乱用というしかない」と「記者会見した岩上氏」は述べたという。この発言には矛盾を感じる。

これが名誉毀損になったら自由な言論空間であるSNSの世界がゆがめられる」との発言からは敗訴の可能性も想定しているように取れる。だとすると橋下氏の提訴には勝ち目があるわけで「訴訟権の乱用」には当たらない。

一方、「訴訟権の乱用というしかない」と確信しているのならば、裁判で橋下氏の主張が認められる心配はないはずだ。故に、裁判の結果次第で「SNSの世界がゆがめられる」と懸念する必要はない。

沈黙からいきなり訴訟というのは何を考えているのか」という発言も解せない。「何を考えているのか」は明白だ。「この件は裁判で争いたい」と橋下氏は考えているはずだ。裁判で決着を付けようとする姿勢自体も責められるべきだとは思えない。

記事の続きを見ていこう。

【エコノミストの記事】

虚実入り交じった情報が飛び交うネット空間。無責任に拡散する風潮に橋下氏は警鐘を鳴らしたいのかもしれない。SNSは「おしゃべり感覚の文字発信」。緊張感は「会話なみ」かもしれないが、文字として残る。転々と流通するうち、ウソや誤解がひとり歩きすることもある。ネットなんてそんなもの、と受け流す人もいれば、許せないと憤る人もいる。橋下氏は「個人に向けた中傷」と感じたのだろう

だが、「いきなり提訴」とはけんか腰である。紛争の解決を裁判所に委ねるのが裁判だ。その前に当事者が話し合ってお互いの誤解を解き、折り合おうとするのが円満な社会ではないか。リツイートした内容が虚偽だというのなら、ひと言、訂正を求めて発信するゆとりはなかったのか


◎「けんか腰」でいいのでは…

橋下氏が岩上氏の行動を「個人に向けた中傷」と感じて「許せないと憤る」のであれば「けんか腰」になるのも分かる。ならば「いきなり提訴」でいいではないか。暴力に訴えたりするならともかく、社会で認められている合法的な対抗手段だ。
筑後川橋(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係です

ひと言、訂正を求めて発信するゆとりはなかったのか」と山田氏は言うが、「訂正」では気が済まない人もいる。そこで裁判を選ぶかどうかは個人の自由だ。

さらに続きを見ていく。

【エコノミストの記事】

ネットでは多数の参加者が情報を共有し、異論があれば反論する。別の見方を提示する人もいて、暴走の危険をはらみながらも衆知が融合し、情報の渦が形成される。

IWJは大手メディアが触れない問題を執拗(しつよう)に追及することで存在感を示してきた。活動を煩(うるさ)く思う人たちもいる。「提訴はIWJを黙らせたいからではないか」と見る人は少なくない。橋下元知事はそんな疑いを晴らしてほしい

新聞や放送局など大手メディアでも訴訟は敬遠される。対策や資金負担が悩ましく、訴訟になった記事を書いた記者は迷惑がられる。弱小メディアやフリーランスにとって訴訟は重荷でしかない。気に入らないメディアや記者を裁判ざたで追い詰めることは「スラップ(脅し)訴訟」と呼ばれ、世界で問題になっている。ネットメディアの影響力が増す中で、これまで紙メディアを悩ましてきた「スラップ」がネットに広がることが心配だ


◎どうやって「疑いを晴らす」?

「『提訴はIWJを黙らせたいからではないか』と見る人は少なくない。橋下元知事はそんな疑いを晴らしてほしい」と山田氏は求める。遠回しに「訴訟を取り下げろ」と言っているのだろう。仮に橋下氏が「提訴はIWJを黙らせたいからではない」と訴えても「疑い」は晴れないだろう。山田氏の求めに最大限に応じるならば訴訟はやめるしかない。しかし、裁判を起こす権利は橋下氏にも当然ある。個人的には、正当な権利の行使に待ったをかけるような山田氏の主張に賛同できない。

IWJは大手メディアが触れない問題を執拗に追及することで存在感を示してきた」という。だったら、自らの言動に関しても「執拗に追及」されるリスクを覚悟すべきだ。

ツイッター上で蒸し返すような匿名のツイートが発信された。これをネットメディアIWJ代表の岩上安身氏がリツイート(そのまま投稿)した」のであれば、岩上氏の脇が甘いと感じる。他者の名誉を傷つけるような情報を発信する場合、ジャーナリストでなくても慎重であるべきだ。「大手メディアが触れない問題を執拗に追及することで存在感を示してきた」メディアの代表であれば、なおさらだ。

山田氏は「紙メディアを悩ましてきた『スラップ』がネットに広がることが心配だ」と言うが、「ネット」だけが安全地帯にいられると考える方がおかしい。「気に入らないメディアや記者を裁判ざたで追い詰める」権利が認められているのであれば、ネットメディアもその対象になるのが当然だ。それが嫌ならば、裁判を起こす権利の制限を求めていくしかない。


※今回取り上げた記事「『リツイートでも名誉毀損』 橋下氏がジャーナリストを訴えた
http://mainichi.jp/economistdb/index.html?recno=Z20180206se1000000070000


※記事の評価はC(平均的)。山田厚史氏への評価は暫定D(問題あり)から暫定Cへ引き上げる。山田氏については以下の投稿も参照してほしい。

事実に反する山田厚史デモクラTV代表の大手メディア批判
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_87.html

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