2018年1月11日木曜日

雑な作りが目立つ日経「伊藤忠、アジアで病院運営拡大」

作りが雑な記事の典型と言うべきか。11日の日本経済新聞朝刊企業2面に載った「伊藤忠、アジアで病院運営拡大 インドネシア系に出資」という記事は、作り手のレベルの低さが感じられる内容だった。記事の全文は以下の通り。
古賀病院21(福岡県久留米市)
       ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

伊藤忠商事はアジアで病院運営事業を本格的に始める。インドネシア大手財閥のリッポー・グループ傘下の病院運営会社に出資する。アジアでも生活水準の向上で生活習慣病が増えている。こうした生活習慣病への対策など日本で培った経営ノウハウをリッポーに提供し、アジアでの病院展開を加速する。

リッポー傘下でシンガポールにある病院運営会社「OUEリッポーヘルスケア」の株式約25%を66億円で取得する。伊藤忠は神戸市の市民病院の経営参画で得たノウハウなどを使い、人材育成や医療機器の販売などで支援する

グループの経営資源を生かして、給食や院内コンビニエンスストアの運営ノウハウなども提供する。

伊藤忠は2014年に中国国有企業の中国中信集団(CITIC)グループと提携している。CITICとは病院事業でも今後協業を拡大していく計画で、OUEリッポーヘルスケアとの協業で得たノウハウを生かして中国での病院展開にも弾みをつける。

◇   ◇   ◇

問題点を列挙してみる。

◎いつ「始める」?

アジアで病院運営事業を本格的に始める」「株式約25%を66億円で取得する」と書いているが、時期に触れていない。日経の企業ニュース記事で頻繁に見られる「When抜き」だ。


◎何を以って「本格的」?

伊藤忠商事はアジアで病院運営事業を本格的に始める」と言う場合、これまでは本格的に「病院運営事業」をやっていなくて、これから「本格的」に手掛けるはずだ。だが、「これまで」の状況が不明だ。ちなみに2016年9月20日付の「伊藤忠、中国で病院運営 CITICと合弁」という記事で日経は以下のように報じている。

【日経の記事】

伊藤忠商事は中国で病院経営に参入する。資本提携している中国最大の国有複合企業、中国中信集団(CITIC)グループと合弁会社を設立する。伊藤忠側の投資額は総額で数百億円規模とみられる

◇   ◇   ◇

投資額で言えば中国が「数百億円規模」で、今回のインドネシアが「66億円」。ここから判断すると、中国での事業の方が「本格的」だ。

中国では合弁会社は作ったものの「病院運営事業」自体はほとんどやっていないという可能性もある。ただ、記事でその辺りに触れていないので、これまでは本格的にはやっていないかどうか判断する材料がない。

また、インドネシア企業への出資を以って「本格的に始める」とも言い難い。出資比率は「25%」で、出資後も「インドネシア大手財閥のリッポー・グループ傘下」のままだとすると、経営の主導権を握る訳でもない。伊藤忠のやることが「人材育成や医療機器の販売などで支援する」程度ならば「病院運営事業」そのものとは違う気がする。

結局、現状でどの程度の数の病院を運営しているのかも、今後それがどうなるのかも不明で、インドネシアでやろうとしているのが「病院運営事業」なのかも怪しい。やはり、日経の記事に「本格」の文字を見つけたら要注意だ。


◎見出しに整理の苦労が…

伊藤忠、アジアで病院運営拡大」との見出しには、「本格的に始める」ではニュース記事として苦しいと判断した整理部の担当者の苦労が透けて見える。完成度の低い記事に見出しを付けなければならないのは整理として辛いだろう。

記事の粗製乱造に慣れた企業報道部のデスクは、今回のような完成度でも問題視せずに紙面化してくれるかもしれない。だが、そこに甘んじていてはプロと呼ぶにふさわしい記事は永遠に欠けない。この記事の筆者は、そのことを肝に銘じてほしい。


※今回取り上げた記事「伊藤忠、アジアで病院運営拡大 インドネシア系に出資
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180111&ng=DGKKZO25516070Q8A110C1TJ2000


※記事の評価はD(問題あり)。

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