2018年1月17日水曜日

ウェルスナビを好意的に取り上げる週刊エコノミストの罪

週刊エコノミスト1月23日号で「挑戦者2018」という新連載が始まった。金山隆一編集長によると「ベンチャー企業、未公開会社、中小企業のなかにもキラリと光る会社、見たこともない未来をつくろうと心血を注いでいる会社の経営者、創業者をインタビューする新コーナー」らしい。しかし、初回の「柴山和久 ウェルスナビ社長 暗闇に向かって跳べ」という記事には色々と問題を感じた。順に見ていこう。
平塚川添遺跡(福岡県朝倉市)※写真と本文は無関係です

【エコノミストの記事】

将来を考えずに財務省を辞めた後、転職活動で人生は変わった。書類選考で落とされ、ようやく面接にたどり着いてもことごとく不採用。「自分には存在価値がないのでは」と思うようになったころだ。預金はどんどん減って、残高は8万円。やることがなく、スターバックスで、コーヒー1杯を妻と2人で分け合っていると、ベビーカーに乗った犬がマンゴーフラペチーノをうまそうに飲んでいる。あれは、本当にうらやましかったなあ。


◎それでも「スターバックス」を使う?

残高は8万円」と言いながら「スターバックス」を使っているところに余裕を感じる。個人的には、価格が高すぎて利用する気になれない。「コーヒー1杯を妻と2人で分け合って」などと苦労話のように語っているが、マクドナルドに行けば2杯注文してもおつりがもらえそうだ。

次の展開がさらに余裕を感じる。

【エコノミストの記事】

社名の意味は「豊かさへの道しるべ」。働いて、一定の収入があれば、誰でも豊かになれるサービスにしたいという願いを込めた。

起業のきっかけは、財務省からマッキンゼーに転職した後、2014年秋までの1年間、ウォール街で機関投資家をサポートしたことだ。10兆円の資産運用のアルゴリズム開発に携わった。結局、ただの数式だった。「それなら、資産の多寡に関係ない」と強く思った。



◎結局、「マッキンゼーに転職」…

面接にたどり着いてもことごとく不採用」と書いてあったので、追い込まれて「起業しよう」となったのかと思ったら、「財務省からマッキンゼーに転職」したらしい。「マッキンゼー」への転職に成功した人が「書類選考で落とされ、ようやく面接にたどり着いてもことごとく不採用。『自分には存在価値がないのでは』と思うようになった」と語っても、あまり説得力はない。

まあ、ここまでは余談の部類だ。次からが本題と言える。

【エコノミストの記事】

投資、運用の王道「長期・積み立て・分散」を広めたい。これを正しく行うためには高度な知識と膨大な手間がかかる。その経費を預かり資産の手数料でまかなうためには、高額資産を持つ富裕層でなければ見合わない。AI(人工知能)による自動化で、コストを削減。運用額が10兆円でも10万円でも効果は同じだ。今は最低10万円だが、将来的には制限をなくしたい。


◎何をやってる会社?

記事を最後まで読んでも、何をやっている会社かよく分からない。いわゆるロボットアドバイザーの会社のようだが、記事の説明では不十分だ。「キラリと光る会社、見たこともない未来をつくろうと心血を注いでいる会社」を紹介するコーナーならば、事業の中身にはしっかり触れるべきだ。その上で会社の「キラリと光る」部分を見せる必要がある。
道の駅 歓遊舎ひこさん(福岡県添田町)
            ※写真と本文は無関係です

今回の記事で強いて挙げれば「AI(人工知能)による自動化で、コストを削減」ということか。しかし、どの程度の低コストなのかは触れていない。調べてみると「ウェルスナビ」は前向きに紹介すべき企業ではない。

同社のホームページによると、預かり資産額に対して年間1.0%(3000万円まで)の手数料がかかるほか、運用対象とするETFの関連経費として0.11~0.14%を支払うことになる。ウェルスナビに資金を預けようかと友人に相談されたら「絶対にやめろ」と助言するだろう。

まず1%の手数料が高すぎる。ETFの組み合わせを提案して、後はリバランスをしてくれるだけだ。預かり資産1000万円の場合、毎年10万円を支払うことになる。2年目以降はリバランス代として10万円を差し出すようなものだ。

これ(長期・積み立て・分散)を正しく行うためには高度な知識と膨大な手間がかかる」と柴山社長は言う。間違いではない。だが、それは「分散」だけだ。「長期・積み立て」はかなり簡単にできる。

分散」も「ある程度ちゃんとできてるね」というレベルで良ければ難しくないし、リバランスも「絶対にやらないとまずい」と言うほどのものでもない。せっかくETFには低コストという利点があるのに、ロボアドの会社に1%も手数料を払ったら、それだけで低コストが台無しになる。

「1%を払ってでもリバランスをしてもらいたい」と言う人がいれば止めない。だが、ほとんどの人にとっては必要ないはずだ。

柴山社長に文句を言うつもりはない。事業を成功させるためには「投資、運用の王道『長期・積み立て・分散』を広めたい」などと投資家の味方を装うのが当然だ。

問題は週刊エコノミストの側にある。今回の記事は「聞き手=金山隆一・本誌編集長 構成=酒井雅浩・編集部」となっていた。金山編集長には「ウェルスナビ」が「キラリと光る会社、見たこともない未来をつくろうと心血を注いでいる会社」に見えたのだろう。だとしたら、投資に関する知識がなさすぎる。

さらに言うと、今回のように取材相手に一方的に語らせるスタイルで記事をまとめるのならば、編集長が「聞き手」になる必要はない。そもそも「編集長がインタビューしたのならば、自分で記事にすればいいではないか」とも思うが、そこは編集長の特権として認めてもいい。ただ、「編集長自らがどんな問いを発したのか」は見えないのに「聞き手」にだけなるのであれば、「編集長の道楽」としか感じられない。

お世話係の酒井記者には同情を禁じ得ない。インタビュー形式ならQ&Aでつなげばいいので「構成」に不安は少ないが、今回のような形式だと編集長がきちんと聞いてくれない場合は「構成」に苦しむ。自分が酒井記者の立場だったら「俺がまとめるんだから、俺に聞き手をさせてくれ。頼むから、編集長は自分の席でおとなしくしててよ」と思うだろう。


※今回取り上げた記事「挑戦者2018柴山和久 ウェルスナビ社長 暗闇に向かって跳べ
http://mainichi.jp/economistdb/index.html?recno=Z20180123se1000000062000


※記事の評価はD(問題あり)。金山隆一編集長への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。金山編集長に関しては以下の投稿も参照してほしい。

FACTAに「声」を寄せた金山隆一エコノミスト編集長に期待
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/facta_25.html

週刊エコノミスト金山隆一編集長への高評価が揺らぐ記事
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_12.html

週刊エコノミスト編集長が見過ごした財産ネットの怪しさ
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_14.html

「無理のある回答」何とか捻り出した週刊エコノミストを評価
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_94.html

東芝は「総合重機」? 週刊エコノミスト金山隆一編集長に質問
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/02/blog-post_57.html

ついに堕ちた 週刊エコノミスト金山隆一編集長に贈る言葉
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/blog-post_8.html

駐車違反を応援? 週刊エコノミスト金山隆一編集長
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/blog-post_29.html

読者との「約束」守らぬ週刊エコノミスト金山隆一編集長
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_8.html

週刊エコノミストが無視した12の間違い指摘(2017年)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/12/122017.html

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