2018年1月27日土曜日

「大雪報道は渋谷駅の情報ばかり」と誤解した 日経「春秋」

26日の日本経済新聞朝刊1面コラム「春秋」に首を傾げたくなる記述があった。東京に大雪が降った22日の夜を振り返って「おもだったメディアは渋谷駅の混雑を繰り返し伝えたが、他の駅の事情はよくわからなかった。ネットでもリアルタイムの状況は不明」と書いていたからだ。あり得ない気がしたので調べてみたら、やはり違うようだ。
八女匠の門(福岡県八女市)※写真と本文は無関係

日経には以下の内容で問い合わせを送ってみた。

【日経への問い合わせ】

26日朝刊の「春秋」についてお尋ねします。まず筆者は以下のように書いています。

東京が4年ぶりの大雪に見舞われた22日の夜。都心部をはしる地下鉄から郊外へ向かう私鉄に乗り換えようとして、足が止まった。駅のホームからあふれた人の波で階段が埋まっている。想定外だったわけではないけれど、情報が足りなかったことへの苛(いら)立ちが募った

その上で「あの日、おもだったメディアは渋谷駅の混雑を繰り返し伝えたが、他の駅の事情はよくわからなかった。ネットでもリアルタイムの状況は不明で、展望のないまま帰路につくしかなかった」と記しています。これを信じれば「おもだったメディアは渋谷駅の混雑を繰り返し伝えた」ものの、「他の駅の事情」はほとんど報じなかったはずです。

そこで「おもだったメディア」のサイトを調べてみました。NHKでは「22日17時48分」に以下のように報じています。

都内の駅では午後3時ごろから混雑が始まり、ツイッター上には、東急田園都市線の渋谷駅や、西武池袋線の池袋駅などに人があふれ、改札内やホームへの入場が制限されている様子が相次いで投稿されました。このうち京急電鉄の品川駅では、午後4時ごろから改札内への入場が制限され駅の中は多くの乗客であふれていました

渋谷駅だけでなく、池袋駅や品川駅の様子もしっかり伝えています。テレビ朝日では当日の夕方に新宿駅から生中継して「JR新宿駅は、中央線の八王子駅方面のホームが人であふれていて、まもなく入場規制がかかるかもしれないという混雑ぶりです」と記者がコメントしています。

NHKも報じているように「ツイッター上」にも入場制限された駅の様子などが投稿されています。つまり、少なくともテレビは渋谷駅以外の情報をかなり伝えているし、「ネットでもリアルタイムの状況」がある程度は分かったはずです。

あの日、おもだったメディアは渋谷駅の混雑を繰り返し伝えたが、他の駅の事情はよくわからなかった」というのは、単に筆者が「他の駅の事情」を伝える報道に接していなかっただけではありませんか。今回の「春秋」の説明は事実誤認に基づくものと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。クオリティージャーナリズムを標榜する新聞社として、掲げた旗に恥じない行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

他の駅の事情はよくわからなかった」と書いているだけで「他の駅の事情を報じなかった」とは断定していないので、間違いと言う程ではない。ただ、「主要駅には監視カメラがあるのに、その情報を内側にため込むばかりで利用者のために生かしきっていない。そんな不満をおぼえた」などと読者に向けて問題提起するのならば「本当にメディアの報道は渋谷駅に集中したのか」「ネットからリアルタイムに近い情報を得る術はなかったのか」といった点をきっちり検証してから書いてほしい。

ついでに言うと、この件で日経が当日どう報じたのかも触れるべきだろう。経済紙とは言え、社会部があって社会面もある。リアルタイムの情報を伝えられる電子版という手段も持っている。「あの日、おもだったメディアは渋谷駅の混雑を繰り返し伝えたが~」と部外者のような書き方をするのは感心しない。


※今回取り上げた記事「春秋:東京が4年ぶりの大雪に
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180126&ng=DGKKZO26165630W8A120C1MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。

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