2018年1月29日月曜日

「改憲は急がば回れ」に根拠が乏しい日経 芹川洋一論説主幹

29日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に載った「核心~改憲は急がば回れ  現実主義者の見せ場」という記事は「急がば回れ」に根拠が乏しい。筆者の芹川洋一論説主幹は記事の後半で以下のように書いている。
JAにじ吉井カントリー(福岡県うきは市)
       ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

次は改憲ドラマの出しものである。自民党が17年12月20日にまとめた論点整理をみると脚本は4幕構成だ。展開を占うと――。

▼第1幕=自衛隊明記 自民党内の意見集約が首相の意向にそうかたちで進むとして、より問題はその先の公明党との調整だ。昨年の衆院選で議席数を減らした公明党内では政権と距離を置こうとする機運が強まっている。

首相周辺では「希望の党から20人が賛同してくれれば、公明党も寄ってくる」と、希望をテコにたぐり寄せる戦術がささやかれているが、10条加憲論にしても公明党が乗ってくるのは容易ではない。

▼第2幕=緊急事態 万一の際の国会議員の任期延長などは与野党が合意しやすい。ただ大災害の規模や任期延長の期間など要件の詰めはまったくされていない。条文化までには時間がかかりそうだ。

▼第3幕=参院選挙区の合区解消 参院自民党が強く主張、自民党案として出てくるだろう。野党はこぞって反対している。実現可能性はまずない。

▼第4幕=教育 環境の整備は憲法に書くまでもないが、行政への指示にとどまる訓示規定であれば与野党合意は可能だ。

そしていちばん肝心なのが観客(有権者)の反応である。改憲の国会発議がされたとして、最後の関門になるのが国民投票だ。「否決されれば政権が倒れる」(岸田文雄政調会長)とみられている。

衆院憲法審査会は17年7月、欧州の国民投票を調査した。欧州連合からの離脱をめぐる国民投票で敗れた英国のキャメロン前首相の言葉が重く受けとめられている。

「現状を変更したい側は少なくとも60%程度の賛成者がいるような状況にしておく必要がある」

そうだとすると自衛隊明記も簡単な話ではない。「打ち出しは高い球だが、最後はしかるべきところにおちつかせる」というのが谷垣禎一前幹事長の首相評だ。公明党の太田昭宏氏も「安倍さんはリアリストだ」と語る。

ここはまず与野党合意が可能なものから改憲の発議をして国民投票にかけ、自衛隊明記など対立争点は次に回す2段ロケット方式は考えられないものか。

改憲で国論が二分、上を下への大騒ぎをするような事態は好ましくない。そこは主演者の演技しだいだ。リアリスト俳優の見せ場でもある。


◎「急がば回れ」で「大騒ぎ」を防げる?

まず与野党合意が可能なものから改憲の発議をして国民投票にかけ、自衛隊明記など対立争点は次に回す2段ロケット方式」が好ましいと芹川氏は考えているようだ。「改憲で国論が二分、上を下への大騒ぎをするような事態は好ましくない」というのが理由らしい。
筑後川沿いの風景(福岡県久留米市)
           ※写真と本文は無関係です

だが、「2段ロケット方式」で「国論が二分、上を下への大騒ぎをするような事態」を避けられるとは思えない。最初の改憲で「大騒ぎ」を避けられたとしても(これも難しそうだが…)、2回目の改憲では確実に「大騒ぎ」が待っている。2回に分けると「大騒ぎ」を避けられる可能性が高まると考える理由が分からない。「2段ロケット方式」にすると「自衛隊明記」への反対論は収まっていくものなのか。

そこは主演者の演技しだいだ」と言うならば、1回で済ませても2回に分けても同じではないか。結局は「主演者の演技しだい」なのだから。

芹川論説主幹は「自衛隊明記」について「60%程度の賛成者がいるような状況」を作り出すのは「簡単な話ではない」としている。仮にできても40%程度の反対者はいるわけで、結局は「国論が二分」される。それでも改憲を目指すのならば「国論が二分、上を下への大騒ぎをするような事態」を受け入れるしかない。「2段ロケット方式」に関しては「大変そうな問題はとりあえず先送りしよう」と訴えているとしか思えない。

ついでに言うと「『打ち出しは高い球だが、最後はしかるべきところにおちつかせる』というのが谷垣禎一前幹事長の首相評だ」というくだりが引っかかった。これは野球に絡めたコメントなのだろう。だが「打ち出しは高い球だが、最後はしかるべきところに」と聞くと「最初はホームランかと思ったが、結局は平凡な外野フライだった」といったイメージを抱いてしまう。

趣旨としては「最初は要求水準が高いが、最後には常識的な線に落ち着く」と言いたいのだろう。だが、例えとして成立しているとは思えない。「谷垣禎一前幹事長」が実際にそう言っていたとしても、記事に使うのは避けるべきだ。

最後に、芹川論説主幹の平仮名好きに注文を付けたい。平仮名が多すぎて読みにくいレベルに達している。改善は見込めないだろうが、指摘はしておく。

例1)これまでも平和安全法制、天皇退位とあつかいのむずかしい問題で党内をまとめてきた。

扱いの難しい」としてほしい。


例2)自民党内の意見集約が首相の意向にそうかたちで進むとして、より問題はその先の公明党との調整だ。

沿う形」の方が読みやすい。


例3)「打ち出しは高い球だが、最後はしかるべきところにおちつかせる」というのが谷垣禎一前幹事長の首相評だ。

落ち着かせる」としないと平仮名が長く続く。


※今回取り上げた記事「核心~改憲は急がば回れ  現実主義者の見せ場
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180129&ng=DGKKZO26193180W8A120C1TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。芹川洋一論説主幹への評価はE(大いに問題あり)を据え置く。芹川論説主幹については以下の投稿も参照してほしい。

日経 芹川洋一論説委員長 「言論の自由」を尊重?(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_50.html

日経 芹川洋一論説委員長 「言論の自由」を尊重?(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_98.html

日経 芹川洋一論説委員長 「言論の自由」を尊重?(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_51.html

日経の芹川洋一論説委員長は「裸の王様」? (1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_15.html

日経の芹川洋一論説委員長は「裸の王様」? (2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_16.html

「株価連動政権」? 日経 芹川洋一論説委員長の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_31.html

日経 芹川洋一論説委員長 「災後」記事の苦しい中身(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_12.html

日経 芹川洋一論説委員長 「災後」記事の苦しい中身(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_13.html

日経 芹川洋一論説主幹 「新聞礼讃」に見える驕り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_33.html

「若者ほど保守志向」と日経 芹川洋一論説主幹は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_39.html

ソ連参戦は「8月15日」? 日経 芹川洋一論説主幹に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/815.html

日経1面の解説記事をいつまで芹川洋一論説主幹に…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/blog-post_29.html

「回転ドアで政治家の質向上」? 日経 芹川洋一論説主幹に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_21.html

0 件のコメント:

コメントを投稿