2021年1月13日水曜日

寄付の税額控除が「日本にはない」と週刊ダイヤモンドで村上春樹氏は語るが…

週刊ダイヤモンド1月16日号に載った村上春樹氏のインタビュー記事は興味深く読めたが、引っかかる部分もあった。「誰もが間違う世界を何が救うのだろうか?」という記事の一部を見ていこう。まず聞き手の杉本りうこ副編集長の問いが気になった。

大阪市中央公会堂

【ダイヤモンドの記事】

ーー記者としてはコロナ禍のような事態になると、シングルマザーや学生などの未来ある若者により多くの痛みが生じることに、どうしようもなさを感じます。中高年の正社員より、ずっと多くの痛みを受けています。


◎なぜ「シングルマザー」限定?

なぜ「シングルマザー」に限定して「シングルファーザー」は除外したのだろう。「シングルファーザー」は「痛みが生じ」ていないと杉本副編集長は見ているのか。「正社員」の割合は「シングルファーザー」の方が高いかもしれないが、「シングルマザー」の中にも「正社員」はいる。1人で子育てする非正規労働者に「より多くの痛みが生じる」との認識ならば、そう書いてほしい。

そもそも杉本副編集長はどうやって「痛み」の多寡を判断したのだろう。「コロナ禍」で重症者や死者が高齢者に集中していることを重く見れば「シングルマザーや学生などの未来ある若者」よりも高齢者が「ずっと多くの痛みを受けて」いるとも推測できる。

もちろん「痛み」に関しては様々な考え方が成り立つ。それを「シングルマザーや学生などの未来ある若者により多くの痛みが生じる」と言い切ってしまうところに危うさを感じる。

この問いに対する村上氏の答えは以下の通り。

【ダイヤモンドの記事】

うん、うん、そうだね。

僕が20歳ぐらいだった時代は「世の中は必ず良くなっていく」とみんなが思っていたものです。でも今は、誰もそんなことを思っていない。そればかりか、世の中はどんどんひどくなっていくと思っている。僕はこれが一番の問題だと思う。


◎決め付けが凄い…

村上氏が「20歳ぐらいだった時代」と言えば1970年頃。当時「『世の中は必ず良くなっていく』とみんなが思っていた」のに、50年後には「誰もそんなことを思っていない」。そこまで全員が画一的な考えを持っているのかとの疑問が湧く。決め付けが過ぎる。

自分を振り返ると1970年代には本気で世界が1999年に滅びるのではないかと心配していた。人口爆発によって食糧危機が来るのではとの恐怖もあった。人口が増えないでほしいとずっと願い続けたら、21世紀に入って日本では人口減少が現実になった。

1970年代より今の方がずっと未来に明るい展望を持っている。そういう人もいると村上氏には知ってほしい。

今回のインタビュー記事に関しては、村上氏の発言に事実誤認と思える部分もあった。これに関してはダイヤモンド編集部に問い合わせを送っている。内容は以下の通り。


【ダイヤモンドへの問い合わせ】

週刊ダイヤモンド 副編集長 杉本りうこ様


1月16日号の「誰もが間違う世界を何が救うのだろうか?」というインタビュー記事についてお尋ねします。この中で作家の村上春樹氏は以下のように語っています。

そういうもの(立派な施設)が米国にたくさんあるのは、寄付額を税額控除の対象にできる制度があるためです。これが日本にはないから、誰も大きな寄付をしない

まず「寄付額を税額控除の対象にできる制度」が「日本にはない」のでしょうか。村上氏の母校である早稲田大学のホームページを見ると「早稲田大学への寄付金は、文部科学省より寄付金控除の対象となる証明を受けています。寄付金控除には、下記の[A]税額控除制度 と [B]所得控除制度 の2種類があり、確定申告の際には、寄付者ご自身においてどちらか一方の制度をご選択ください」との説明があります。

税額控除制度」に関しては「寄付金額が年間2,000円を超える場合には、その超えた金額の40%に相当する額が、当該年の所得税額から控除されます」と書いてあります。村上氏が母校に「大きな寄付」をした場合「寄付額を税額控除の対象にできる」のではありませんか。

日本」では「誰も大きな寄付をしない」という発言にも問題を感じます。一例として九州大学の椎木講堂を挙げます。同大学のホームページによると、この「立派な施設」は「椎木正和氏」が寄贈したものです。金額は不明ですが、これを「大きな寄付」に含めないのは無理があります。

寄付額を税額控除の対象にできる制度」が「日本にはないから、誰も大きな寄付をしない」という村上氏の発言は、二重に間違っていませんか。杉本様は村上氏の発言をそのまま文字にしたのだとは思いますが、記事にする上では基本的な事実関係を確認する責任が編集部側にあるはずです。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、回答をお願いします。


◇   ◇   ◇


※今回取り上げた記事「誰もが間違う世界を何が救うのだろうか?


※記事の評価はD(問題あり)。杉本りうこ副編集長への評価はB(優れている)を維持するが弱含みとする。杉本副編集長に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「TSUTAYA特集」に見えた東洋経済 杉本りうこ記者の迫力
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_27.html

「2.5次元」で趣味が高じた東洋経済「熱狂!アニメ経済圏」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/25.html

文句の付けようがない東洋経済の特集「ネット広告の闇」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/12/blog-post_19.html

「勝者総取り」に無理がある週刊ダイヤモンド「孫正義、大失敗の先」https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/12/blog-post_8.html

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