日本経済新聞朝刊1面連載「第4の革命 カーボンゼロ」がやはり苦しい。「革命」を掲げた日経1面連載の宿命とも言える。9日の「(7)一からつくる移動網~テスラ超える戦い」という記事では、そもそも「一からつくる移動網」が出てこない。トヨタ自動車の話から見出しを考えたのだろう。そこでは以下のように記している。
柳川市の沖端川大橋 |
【日経の記事】
トヨタ自動車は街からつくる。21年2月、静岡県裾野市にある約70万平方メートルの工場跡地で、自動運転EVなどゼロエミッション車(ZEV)だけが走る実験都市「ウーブン・シティ」に着工する。豊田章男社長は「3000程度のパートナーが応募している」と力を込める。5年以内の完成を目指し、グループで開発中の空飛ぶクルマが登場する可能性もある。
◎これは「一からつくる移動網」?
「約70万平方メートルの工場跡地」に作る「実験都市」は「一からつくる移動網」なのか。工場内の移動システムも「移動網」に加えていいのならば「一からつくる移動網」は至る所にある。
首都圏の主要都市に発着場を整備して「空飛ぶクルマ」を利用できるようにするといった話ならば「一からつくる移動網」で納得できる。トヨタの「ウーブン・シティ」のような実験施設を「一からつくる移動網」と捉えているとすれば、やはり「革命」は起きていないと思える。
以下のくだりも引っかかった。
【日経の記事】
日常生活を支えるクルマも変わる。ドイツ南部のミュンヘン郊外に「空のテスラ」と呼ばれる新興企業がある。電動の垂直離着陸機「eVTOL(イーブイトール)」を開発する15年創業のリリウムだ。駆動時に温暖化ガスを全く出さないのが売りで、25年の商用化を視野に入れる。機関投資家も出資し企業評価額が10億ドル(約1030億円)を超えるユニコーンとなった。こうした空飛ぶクルマメーカーが世界で続々と誕生している。
脱炭素時代の移動手段は化石燃料時代とは全く違う「不連続の発想」から生まれる。技術革新に遅れると命取りになる。
中国の自動車市場で、ある「逆転」が話題になた。米ゼネラル・モーターズ(GM)と上海汽車集団などの合弁で小型車を手がける上汽通用五菱汽車が、20年7月に発売した小型EV「宏光ミニ」。9月に販売台数で米テスラの主力小型車「モデル3」を追い抜いたのだ。航続距離は120キロメートルと近距離移動向けだが、価格は2万8800元(約46万円)からと安い。低価格が話題を呼び、地方都市で爆発的に売れている。
カーボンゼロの申し子、テスラですら安泰ではない新しい競争の時代。日本電産の永守重信会長兼最高経営責任者(CEO)は「30年以降に過半数がEVになれば、車の価格は現在の5分の1程度になるだろう」と予言する。内燃機関を持たないEVは3万点もの部品が必要なガソリン車に比べ、部品点数は4割ほど減少する。参入障壁が下がり、自動車産業以外からの参戦も増える。
◎どこが「不連続の発想」?
「脱炭素時代の移動手段は化石燃料時代とは全く違う『不連続の発想』から生まれる」と大きく出ているが、それを裏付ける事例はやはりない。
「電動の垂直離着陸機」は「不連続の発想」から生まれたものなのか。「電動」は昔からある「発想」だ。鉄道では広く普及もしている。「垂直離着陸機」の歴史も長い。ヘリコプターが好例だ。ヘリだけではない。ホーカー・シドレー ハリアーという垂直離着陸可能な戦闘機が実用化されたのは50年以上前になる。「電動の垂直離着陸機」を「不連続の発想」と捉えるのは無理がある。
では「上汽通用五菱汽車」の「小型EV」が「『不連続の発想』から生まれ」たものなのか。「低価格が話題を呼び、地方都市で爆発的に売れている」らしいが、「低価格」だけが売りならば、そもそも新規性に乏しい。「低価格」実現の手法が「『不連続の発想』から生まれ」た可能性は残るが、記事には何の説明もない。
「革命」を掲げた以上は、大した話がなくても「脱炭素時代の移動手段は化石燃料時代とは全く違う『不連続の発想』から生まれる」などと書きたくなってしまうのだろう。そのことが記事の説得力をさらに失わせる結果になる。
長年の経験から日経はなぜ学べないのか。そこが不思議だ。
※今回取り上げた記事「第4の革命 カーボンゼロ(7)一からつくる移動網~テスラ超える戦い」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210109&ng=DGKKZO68042480Z00C21A1MM8000
※記事の評価はD(問題あり)
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