2019年3月22日金曜日

「日経自身」への言及があれば…日経 中山淳史氏「Deep Insight」

「そう言う日経自身はどうなの?」と聞きたくなる記事が22日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に出ていた。「Deep Insight~進化続ける『働きたい会社』」という記事で筆者の中山淳史氏(肩書は「本社コメンテーター」)は以下のように書いている。
長崎県美術館(長崎市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

(転職志向が強まっている)理由は終身雇用に飽き足らないミレニアル世代の特徴だ、との見方もある。だが専門家の多くが指摘するのは日本企業の組織の実情だ。例えば若い世代が就活時や入社後に接し、驚くのはバブル期の大量採用組を中心とした40歳代後半以降の社員の多さだという。

45歳以上の大企業社員は現在、全国に約500万人いる。そのうち約200万人は管理職になれなかったり、役職定年を迎えたりしてポストのない社員と推定されている。若い社員はそうした世代から会社への不満を聞かされる一方、先輩層が滞留する結果、やりたい仕事を与えてもらえない組織に幻滅していく

若者を巡る変化は日本企業への警鐘だ。平成と重なる「失われた30年」の間、多くの企業は再教育やキャリア形成への支援が手薄なまま組織を硬直化させた。技術革新は当然生まれにくくなり、それ以上に「日本の大企業で働くことが本当に幸せか」という根源的な命題まで突きつけられてしまった可能性がある。

新元号の下で始まる時代に向け、新しい企業の姿を見つめ直す時かもしれない。考える起点はやはり、若者をはじめ社員が心の奥底で抱いているいまの組織への違和感だろう。



◎日経にも当てはまるのでは?

40歳代後半以降の社員の多さ」は日本経済新聞社にも当てはまる。「管理職になれなかったり、役職定年を迎えたりしてポストのない社員」もいる。そうした社員の中には「会社への不満」を抱える者もいるはずだ。

日経では「若い社員」は「組織に幻滅」していないのか。日経は「再教育やキャリア形成への支援が手薄なまま組織を硬直化」させていないのか。署名入りで「働きたい会社」をテーマにコラムを書くのならば、「そういう日経はどうなの?」という疑問には答えてほしい。もちろん、多くの紙幅を割く必要はない。

例えば「若い社員はそうした世代から会社への不満を聞かされる一方、先輩層が滞留する結果、やりたい仕事を与えてもらえない組織に幻滅していく」と書いた後に「それは自分が所属する日本経済新聞社にも当てはまる問題だ」と一言入れるだけで「自分たちのことは棚に上げて何を偉そうに語っているのか」という感じがなくなる。

「そんなこと書いたら上から睨まれて『本社コメンテーター』でいられなくなる」と恐れるのならば、この手の問題は記事にしない方がいい。

ついでに、記事で取り上げた「ティール(青緑)組織」に関する記述にもツッコミを入れておきたい。

【日経の記事】

ではラルー氏が推奨するティール(青緑)組織とは何かと言えば、「上下関係や目標管理がない」「一人一人が自らの考えと意志で働き、互いに支え合う」組織だ。例えれば生態系や臓器に近い。そんな組織が本当に存在するのかと思う人は多いだろう。だが同書に出てくるのは空想の産物ではなく、同氏が「既存の企業に違和感を覚え、世界中を歩いて発見した」というパフォーマンスの高い実在の企業や非営利組織だ。

中略)日本にもティール組織に似た企業は存在する、と私は考える。岐阜県にある電気設備機器メーカー、未来工業は社長、役員、管理職がいる普通の会社組織の体裁をとっている。だが、業務の「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)」を一切求めず、社員一人一人に権限を与え、それを組織全体で支える経営で知られる。

山田雅裕社長は「社員のやる気がすべて。それを失っては組織がうまく回るはずがない」と話す。仕事に打ち込んでもらうために、社員からは1件500円で「業務改善提案」を募り、無駄な業務を年間5千件もとりやめる。残業は禁止。休日は日本企業で最も多い年間140日に達するが、創業以来赤字を出したことは一度もない。昨年12月には東証1部へ上場を果たした。

もう一社ある。コピーライターの糸井重里氏が経営し、手帳の販売などで知られるほぼ日(ジャスダック上場)。同社も似ており、社員の自主性、リーダーシップでヒット商品を連発している

もともとは「東京糸井重里事務所」だった。改組したのは、「一緒に働く人と自分の関係が『子弟』から『教え合う仲』に一変したため。インターネットの普及は人と人の関係を大きく変え、若い人の方がむしろネットを巧みに操って情報を豊富に獲得する時代になった」と糸井氏は言う。



◎対して「似て」ないような…

ティール(青緑)組織」は「『上下関係や目標管理がない』『一人一人が自らの考えと意志で働き、互いに支え合う』組織だ」と中山氏は言う。ほとんどの組織には「一人一人が自らの考えと意志で働き、互いに支え合う」面がある。故に重要なのは「上下関係や目標管理がない」ことだと思える。

未来工業」は「社長、役員、管理職がいる普通の会社組織の体裁をとっている」。「目標管理」があるかどうかは説明がない。それで「ティール(青緑)組織」に似てると言われても困る。

ほぼ日」も同様だ。「社員の自主性、リーダーシップでヒット商品を連発している」だけならば、「上下関係や目標管理がない」とは言い難い。社員の裁量を広く認めているだけとも取れる。「ティール組織に似た企業は存在する」と言うならば、最低でも「上下関係や目標管理が『ほぼ』ない」事例が欲しい。「未来工業」も「ほぼ日」もその条件を満たしているようには見えない。

日本にもティール組織に似た企業は存在する」と中山氏は言う。裏返せば、似た企業はあっても「ティール組織」と呼べる企業は「存在」を確認できないのだろう。そして「似た企業」として取り上げた2社も、それほど「似た企業」ではなさそうだ。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~進化続ける『働きたい会社』
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190322&ng=DGKKZO42707810Q9A320C1TCR000


※記事の評価はC(平均的)。中山淳史氏への評価もDを据え置くが、強含みとする。中山氏については以下の投稿も参照してほしい。

日経「企業統治の意志問う」で中山淳史編集委員に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_39.html

日経 中山淳史編集委員は「賃加工」を理解してない?(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_8.html

日経 中山淳史編集委員は「賃加工」を理解してない?(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_87.html

三菱自動車を論じる日経 中山淳史編集委員の限界
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_24.html

「増税再延期を問う」でも問題多い日経 中山淳史編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_4.html

「内向く世界」をほぼ論じない日経 中山淳史編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_27.html

日経 中山淳史編集委員「トランプの米国(4)」に問題あり
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_24.html

ファイザーの研究開発費は「1兆円」? 日経 中山淳史氏に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_16.html

「統治不全」が苦しい日経 中山淳史氏「東芝解体~迷走の果て」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post.html

シリコンバレーは「市」? 日経 中山淳史氏に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_5.html

欧州の歴史を誤解した日経 中山淳史氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/deep-insight.html

日経 中山淳史氏は「プラットフォーマー」を誤解?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post.html

ゴーン氏の「悪い噂」を日経 中山淳史氏はまさか放置?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/blog-post_21.html

GAFAへの誤解が見える日経 中山淳史氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/gafa-deep-insight.html

日産のガバナンス「機能不全」に根拠乏しい日経 中山淳史氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post_31.html

「自動車産業のアライアンス」に関する日経 中山淳史氏の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_6.html

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