2019年3月8日金曜日

地銀に外債という「逃げ場」なし? 日経 上杉素直氏の誤解

日本経済新聞の上杉素直氏(肩書は本社コメンテーター)の記事が相変わらず苦しい。8日朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~金融の革新阻む超低金利」という記事は、これまでにも増して問題が目立った。事実誤認と思える記述もあったので、以下の内容で問い合わせを送った。
呼子大橋(佐賀県唐津市)※写真と本文は無関係です

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 上杉素直様

8日朝刊オピニオン面の「Deep Insight~金融の革新阻む超低金利」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下のくだりです。

逃げ場のない地銀に比べて、大手行は海外に活路を見いだせるだけ救いがあると思われてきた。だが、米国の利上げを受けて外貨調達コストは徐々に上がり、積み上がる預金を次々と海外に振り向ける限界や危険もはっきりしてきた。みずほフィナンシャルグループが6日発表した6800億円に上る今期の損失のうち、外国債券にまつわる運用の失敗が1800億円を占めたのは必ずしもみずほ特有の事情と言い切れない

記事からは「外国債券」での「運用」も「海外に活路」を見出す方策だと受け取れます。であれば「地銀」も「海外に活路を見いだせる」はずです。

地銀3行、赤字転落 4~12月 低金利で収益力限界」という2月15日付の日経の記事では「栃木銀行」について「含み損を抱えた外債を売却したのに伴い、35億円の売却損を計上した」と報じています。「静岡銀も外債残高を3970億円から2861億円へ3割削減し、損切りした」ようです。「海外に活路」を見出したものの、結果として損失を出したという点で「みずほフィナンシャルグループ」と変わりありません。

逃げ場のない地銀に比べて、大手行は海外に活路を見いだせるだけ救いがあると思われてきた」との説明は誤りではありませんか。外債投資を「逃げ場」と見なすならば、地銀にも「逃げ場」はあります。記事の説明に問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

追加で3つ指摘しておきます。

記事に付けた「各国国債の利回り曲線」のグラフでは、中国、米国、英国、日本を比べて「日本の低金利は突出している」とタイトルを付けています。本当に「突出している」でしょうか。

例えばスイスです。スイス国債の利回り曲線を調べると10年、15年でもマイナス圏です。だとすると日本以上の低金利とも言えます。少なくとも日本はスイスに比べて大幅に金利が低い訳ではありません。

「グラフは4カ国の中で『日本の低金利は突出している』と言っているだけだ」との弁明は可能です。ただ、だとするとグラフの意味が感じられません。4カ国に絞って国債利回りを比べる意義があるでしょうか。欧州では国債利回り(10年)で0.5%以下の国が珍しくありません。それらと比べれば「日本の低金利は突出して」いないのです。

なのに、恣意的に比較対象を選んで「日本の低金利は突出している」とタイトルを付けるのは、ご都合主義が過ぎます。厳しく言えば読者を欺く行為です。

次は以下のくだりについてです。

担い手を引き寄せる磁力も弱まっている。インターネットで盛んに検索される「GAFA銀行」。米国のIT(情報技術)大手であるグーグルやアップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コムという4社が銀行業に参入しないかというネット世論の期待を映す。異業種からの銀行参入に寛容な日本だからこそ盛り上がる未来予想図ではあるが、実現の可能性に関する専門家の見立てはたいてい『ノー』。規制の厳しさと超低金利の環境を考えると、わざわざ日本で銀行業を始める理由はないという結論にたどり着く

異業種からの銀行参入に寛容な日本」と書いてあると「日本は異業種からの銀行参入への規制が厳しくない」との印象を受けます。しかし、直後に「規制の厳しさと超低金利の環境を考えると、わざわざ日本で銀行業を始める理由はないという結論にたどり着く」と解説しています。どう理解すればよいのでしょうか。整合性に問題がありませんか。

GAFA銀行」の説明には他にも問題があります。金利が高くて規制が緩い国では「GAFA銀行」が次々に誕生しているのならば、「規制の厳しさと超低金利の環境を考えると、わざわざ日本で銀行業を始める理由はないという結論にたどり着く」と嘆くのも理解できます。しかし、そういう状況ではないはずです。

最後に、記事の冗長さに触れておきます。気になったのは冒頭です。

銀行界の代表として、異例の踏み込んだ発言だった。全国銀行協会の藤原弘治会長(みずほ銀行頭取)が2月の定例記者会見で、日銀の金融政策に注文を付けた。注文を付けた、というよりも、今の政策への反対論を展開したというほうが正確かもしれない

注文を付けた」を繰り返しているのが特に無駄です。改善例を示してみます。

<改善例>

銀行界の代表として異例の発言だった。全国銀行協会の藤原弘治会長(みずほ銀行頭取)が2月の定例記者会見で日銀の金融政策に注文を付けた。というより、反対論を展開したと表現した方が正確かもしれない

かなりスッキリしていませんか。それでいて伝わる内容はほぼ同じです。記事を簡潔に書くのは記者としての基本です。そして上杉様は後輩たちの模範となるべき立場にあります。その点を自覚して、もう一度基本に立ち返ってください。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社の一員として、責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇


追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~金融の革新阻む超低金利
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190308&ng=DGKKZO42160390X00C19A3TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。上杉素直氏への評価はDを維持する。上杉氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「麻生氏ヨイショ」が苦しい日経 上杉素直編集委員「風見鶏」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/blog-post_25.html

「医療の担い手不足」を強引に導く日経 上杉素直氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_22.html

麻生太郎財務相への思いが強すぎる日経 上杉素直氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/blog-post_66.html

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