2019年3月7日木曜日

焦点定まらぬ日経 飯野克彦論説委員「中外時評~ベネズエラが色分ける世界」

コラムを書くならば「何を訴えたいか」を明確にして構成を考えてほしい。「上級論説委員」という大層な肩書を付けているなら、なおさらだ。しかし日本経済新聞の飯野克彦上級論説委員が書いた7日朝刊オピニオン面の「中外時評~ベネズエラが色分ける世界」という記事は、焦点が定まらない内容になっている。
名護屋城跡(佐賀県唐津市)※写真と本文は無関係

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

「わが国としてグアイド暫定大統領を明確に支持することを表明いたします」。河野太郎外相は2月19日の記者会見でこう語った。2人の人物が「われこそは正統な指導者である」と主張しているベネズエラ情勢をめぐり、一方に肩入れする立場を明らかにしたのである。

ベネズエラでは2018年5月の大統領選挙でニコラス・マドゥロ大統領が再選を果たした。ただこの選挙は、有力な野党指導者の投獄など政権による干渉が露骨で、当初から「公正ではない」との非難が内外で上がっていた。

マドゥロ氏は19年1月10日に2期目の就任式典に臨んだが、政府代表を派遣しなかった国も少なくなかった。そして2週間もたたない23日、事態は動いた。野党勢力をまとめあげ国会議長になったばかりのフアン・グアイド氏が、自ら「暫定大統領に就いた」と宣言したのである。

ただちに反応したのが米国のドナルド・トランプ大統領で、グアイド氏を正統な指導者として承認した。隣のブラジルやコロンビアなど多くの中南米諸国、さらに欧州の複数の国々があとに続いた。これまでに50カ国以上がグアイド氏を正統と認めている。

一方、キューバやボリビアといった中南米の反米左派政権、域外からは中国やロシア、トルコなどがマドゥロ氏についた。こうして国際社会の色分けが進むなかで、日本政府はグアイド氏の支持に踏み切ったわけである。

政治も経済も深刻な危機に陥っているとはいえ、いまもベネズエラ国内はマドゥロ政権が実効的に統治している。ノーを突きつけるのは日本政府にとって容易でなかったはずである。実際、慎重に検討を重ねたフシがある。

グアイド氏の暫定大統領就任宣言に対する日本政府の最初の反応は、1月25日に発表した外務報道官談話だった。「民主主義の回復を希求するベネズエラ国民の意思が尊重される」よう求め、注記でグアイド氏の宣言を紹介した。あえて正面から触れることは控えた印象だった。

次は2月5日の外相談話。大統領選挙を実施するため暫定大統領に就いた、とグアイド氏が表明したことを紹介したうえで、公正で自由な大統領選挙の早期実施を求めた。最終的に米国に歩調を合わせるまでに一定の段階を踏んでみせたといえる。表の流れだけをみれば欧州の国々にならった印象が強い。

世界を見わたすと立場を明確にしていない国も多い。主要7カ国(G7)のなかではイタリアの腰が定まらない。欧州ではグアイド氏を支持している国が多いが、イタリアが反対したため欧州連合(EU)として統一した政策にはなっていない。

「世界最大の民主主義国」を自認するインドは「対話による問題解決」を訴えるにとどめている。いわば中立の姿勢であり、実質的には現状容認に近い。マドゥロ政権の駐インド大使は「インドはマドゥロ大統領を支持している」と解説している。

今後の展開は見通せない。国連安全保障理事会は、常任理事国である米英仏と中ロの対立でなかば機能不全に陥っている。あたかも冷戦の時代に戻ったような国際社会の分裂が、ベネズエラを軟着陸に誘導するシナリオを描くのを難しくしている。

中南米諸国や欧州諸国が対話による事態の打開を目指しているのに対し、トランプ米大統領は今後の展開によっては軍事的選択肢も視野にあると公言している。グアイド氏を支持する国々の間にも足並みの乱れがあるのである。

カギを握るのはやはりベネズエラ国内の情勢だろう。暫定大統領への就任を宣言したあとグアイド氏は、米国などの協力を得て食糧や医薬品などの人道支援物資をベネズエラに運び込むため、国外を奔走していた。

だが、この取り組みがマドゥロ政権によって阻まれたのを踏まえ、今後は国内で活動する構えである。3月4日に帰国し、政権に圧力をかけるため大々的なデモを呼びかけている。これにマドゥロ政権がどう対応するか。それによって日本を含む国際社会は新たな判断を迫られる



◎これまでの経緯をなぞっただけ?

国際社会が「グアイド暫定大統領」支持派、「ニコラス・マドゥロ大統領」支持派、中立派に分かれている状況を飯野論説委員はまず解説する。ここまでで記事の8割ぐらいを費やしている。長すぎる気もするが、とりあえず良しとしよう。問題はその後だ。

今後の展開は見通せない」「カギを握るのはやはりベネズエラ国内の情勢だろう」などと解説した後で「大々的なデモ」に「マドゥロ政権がどう対応するか。それによって日本を含む国際社会は新たな判断を迫られる」と締めている。

「ベネズエラが今後どうなるかは結局、国内情勢次第だ」と伝えたいのならば、国際社会で「グアイド暫定大統領」支持派と「ニコラス・マドゥロ大統領」支持派がどういう「色分け」になっているのか長々と説明する必要はない。

見出しは「ベネズエラが色分ける世界」だ。「色分け」から何が読み取れるのか。「色分け」が国際情勢にどんな影響を与えるのか。それを他の人とは異なる視点から分析してこそ「上級論説委員」と呼ぶに値する。

ベネズエラの国内情勢で大きな動きがあれば「日本を含む国際社会」が「新たな判断を迫られる」のは当たり前だ。飯野論説委員に教えてもらうまでもない。こんな記事で良ければ簡単に書ける。

例えば、北朝鮮に関してこれまでの経緯をあれこれ書いて「今後の展開は見通せない」「カギを握るのはやはり北朝鮮国内の情勢だろう」「金正恩政権がどう対応するか。それによって日本を含む国際社会は新たな判断を迫られる」などと書けば一丁上がりだ。大きく間違えるリスクもない。

自らの主張に「上級論説委員」の自分だからこそ打ち出せる独自性や新規性はあるのか。次にコラムを書く時には、その辺りをじっくりと検討してほしい。


※今回取り上げた記事「中外時評~ベネズエラが色分ける世界
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190307&ng=DGKKZO42107360W9A300C1TCR000


※記事の評価はC(平均的)。飯野克彦上級論説委員への評価はCで確定とする。飯野論説委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経 飯野克彦論説委員はキルギスも「重量級」に含めるが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_14.html

0 件のコメント:

コメントを投稿